すべてが猫になる

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眠れる美女たち/Sleeping Beauties  (ねこ3.7匹)

スティーヴン・キングオーウェン・キング著。白石朗訳。文春文庫。

はじまりは小さな町ドゥーリングの女子刑務所だった。受刑者たちが眠りにつき、白い繭に覆われていく。女性だけが眠りに落ち、目覚めなくなるこの奇妙な現象は「オーロラ病」と名付けられ、やがて世界中に発生する。さらに、起きている者が「オーロラ病」患者を無理矢理起こそうとすると、凶暴化して見境なく人を襲い始めてしまう特徴があり……。 人々が恐怖でパニックに陥る中、ドゥーリングには唯一、病を恐れる様子もなく静観する“謎の女”がいた。彼女の正体とは? <恐怖の帝王>スティーブン・キングとその息子オーウェン・キングが贈る、SFホラー巨編。 (上巻裏表紙引用)
 
キングと次男オーウェン君との共著ということで、読むか迷ったけどやはり気になるので読んでしまった。<オーロラ病>と名付けられた、女性だけが繭に包まれて眠ってしまうという世界の物語。ファンタジーホラーという感じかな。
 
理由が分からないというのと、繭を破ったらその女性が目覚めて凶暴化し目の前の相手を惨殺してしまうというのがなかなか恐ろしかった。残された男たちがとことんおバカで凶暴で単細胞に描かれていて、これを男性が描いているところに香しいものを感じたな。かたやある世界に残った女は<もう男に殴られたり怒鳴られたり見下されたりすることはない>新しい場所で生き生きと暮らし始める――と思いきや、ってやつ。愛する夫や息子が元の世界にいたりすると割り切れるものではないみたい。女側だって聖人なわけではなく、ヒステリーっぽかったりドラッグ依存だったり(男が原因とはいえ)、問題児が多い。果たして女たちは男のいる元の世界に戻ろう!と決断するのかどうか、ってところが読みどころ。
 
基本的には精神科医クリントのチーム(唯一眠らず、狐や鼠と話せる謎の女性イーヴィを守りたい)とイーヴィを検査して原因をつかみたい動物管理官フランクのチームに分かれて戦争をおっぱじめる、というストーリー。書くとこれだけなのだが、なんといっても登場人物が50人くらいいる上にそれに載っていないキャラも20人くらいいるので、それぞれの人生も描きつつ。てか、覚えられない!これは読み切った人間からこれから読む人へのアドバイスなんだけど、クリント一家とフランク一家、イーヴィだけ覚えていればあとはざっくりでなんとかなるんじゃないかな~と。。女性はほとんど服役囚だし。。あと、ちょっと下品な単語とか性的な内容のところ、親子でお互い恥ずかしかったりしないのかな?とか気になってしまった。男性同士だとそういうのないのかな。長男ジョー・ヒルの名前を出したり家族愛は感じたけども。
 
まあ、これがキングの新作です、と言われてもそれほど違和感はないかもしれない。オーウェン・キング単体の作品を読んでみないとなんともだね。評判はそれほど高くないかもしれないけども、文庫で1冊600ページ超1700円台ってことを考えると、元を取れたと思うほうが難しいと思うので。。。そういうことだと思う。普通に読む分にはそこそこ面白い作品ではあるので挑戦するか迷っている人は恐れずにどうぞ。読みきった感は得られます。自分は1週間~10日くらいで読めたかな。挫折するかと思ったけどね、期待してなかった分楽しめた。

カケラ  (ねこ3.5匹)

湊かなえ著。集英社文庫

美容外科医の橘久乃は幼馴染みの志保から「痩せたい」という相談を受ける。カウンセリング中に出てきたのは、太っていた同級生・横網八重子の思い出と、その娘の有羽が自殺したという情報だった。少女の死をめぐり、食い違う人びとの証言と、見え隠れする自己正当化の声。有羽を追いつめたものは果たしていったい――。周囲の目と自意識によって作られる評価の恐ろしさを描くミステリー長編。(裏表紙引用)
 
う~~~…ん?なんだかモヤぁ~っとする小説だった。整形がテーマということで、さぞ女のイヤ~な部分が噴出しまくった湊さんらしいイヤミスなんだろうなと。まあそのとおりなんだけど、ちょっと期待していたようなのとは違ったかな?
 
ほぼ全ての章が独白形式。それぞれの登場人物が、美容外科医の久乃のインタビューを受けている形なんだけど、久乃側のセリフは一切なし。だから全員が矢継ぎ早にほぼ1人でババ~っと話してる感じ。久乃の目的が分からないままなので、彼らから何を引き出そうとしているのかも分からないし終始モヤモヤ(なお、このモヤモヤは読後も解消されない)。なんというか、全員が同じ性格をしてるんだよね。とにかく学生時代の久乃に文句があって、対面で本人にその愚痴を堂々と言う、そして自分の家庭環境や見た目の話ばっかり。面と向かって本人にイヤな言葉ぶつける人間が1人の人間の周りにこんなにいるはずないだろう。。それか、どんだけ嫌われてたんだ久乃。なんかイヤな人間を描くことだけが目的になっていてリアリティとか整合性とかどっかに置いてきちゃった感じ。誰が誰だか分からなくなるのも、こういうの良くないよな~と思った。というわけで、今回の湊さんはややハズレでした。

Ank : a mirroring ape  (ねこ3.8匹)

佐藤究著。講談社文庫。

二〇二六年、京都で大暴動が起きる。京都暴動―人種国籍を超えて目の前の他人を襲う悪夢。原因はウイルス、化学物質、テロでもなく、一頭のチンパンジーだった。未知の災厄に立ち向かう霊長類研究者・鈴木望が見た真実とは…。吉川英治文学新人賞大藪春彦賞、ダブル受賞の超弩級エンタメ小説!(裏表紙引用)
 
佐藤究さん2冊目。前作が面白かったので、ちょっと分厚いこの作品にも手を出してみた。最初はとっつきにくくて難しいなと全然進まなかったのだが、人間同士が京都のあちこちで暴動を起こし始めた100ページ目くらいから俄然覚醒。ウイルスでもテロでもない、日本で起きる激しすぎるほどの暴力の描写の連続にあれよあれよと読まされてしまった。多分内容の半分も理解していないしチンパンジーやDNAの薀蓄自体はほとんど流し読みも同然だったのだが、、、わけわからなくてもとても面白い。研究者の望やサイエンス・ライターのケイティの人生の深堀りがあったのが良かったのかも。エンタメ本として見た場合、暴動の収束の付け方とかが適当で、方向性が学術的な真実のほうに寄ってしまっているのでなんだか振り回された感じ。

自転しながら公転する  (ねこ4.5匹)

山本文緒著。新潮文庫

母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都(みやこ)。アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えない。職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。正社員になるべき? 運命の人は他にいる? ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えは――。揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編。(裏表紙引用)
 
初・山本さん。おすすめによく出てくるのと、タイトルに惹かれたので。しかし残念ながらこの作品が遺作だそうで。いい作家さんに出会えたと思ったのになー。
 
作風は、ごく普通の平凡な女性が恋に仕事に介護に将来に悩む日常を丁寧な心理描写で綴ったもの。これが平凡なのだとしたら、日本女性の人生って茨ばかりだな。アウトレットモールのOL向けファストファッションブランドで働く32歳の都は、同じアウトレット内の回転寿司店で働く貫一と交際する。元ヤンの片鱗を見せ、将来が考えられない貫一への違和感。職場では上司にひどいセクハラを受け、貫一の友人には悪意ある言葉をぶつけられ、母親は重度の更年期障害、父親ともすれ違い両親とも病に倒れる。店ではアルバイトたちの店長への不満が爆発しボイコット寸前。友人同士で息抜きに集まれば、全てうまくいっているように見える友人たちへの嫉妬が止まらない。
 
都の性格は事なかれ主義で、少し情に薄く、決断力がない。多少イライラさせられるが、多分、ほとんどの女性が「分かる分かる」と共感できるエピソードが詰め込まれている。やりたい仕事で上司にも部下にも好かれながらキャリアを積み、恋人の収入や家庭環境も申し分なく確実に結婚してくれ子どもに恵まれ、友人や近所間とのトラブルなし、両親や兄弟の介護の心配なし、、そんな女性が一体どこにいるというのだろうか。完璧な幸せを望んでいる限り、都は幸せにはなれないと思う。貫一に幻滅するたびに都にキツイお説教?をする友人たちにスカっとしたなー。「ちょっとぐらい不幸なぐらいでいい」の言葉が響いた。
 
で、貫一とどうなるのかな?と思っていたら、、、なるほど、すっかり騙されてしまったなー。まあ、良かったね。なんだかんだ、いい年になったらそれなりのところに落ち着くもんだ。若い頃の悩みはなんだったんだ、というぐらいにね。
 
いやーしかし、久々に読むのがやめられない面白さだった。ねこ5でも良かったけど、まだ1月でこれより面白いのが出てきたとき困るのでこれぐらいで。
 

刑罰/Strafe  (ねこ4.2匹)

フェルディナント・フォン・シーラッハ著。酒寄進一訳。創元推理文庫

 

孤独感は残り続ける。たとえ罰を免れようとも。 『犯罪』で本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた 当代随一の短篇の名手が紡ぐ12の物語。 黒いダイバースーツに身を包み、浴室で首をくくっていた男。赤ん坊を死なせた夫の罪を肩代わりし、三年後に出所の日を迎えた母親。静寂のなかで余生を暮らし、夏の終わりに小銃に弾を込めた湖畔の住人――唐突に訪れる犯罪の瞬間には、彼ら彼女らの人生が異様な迫力をもって溢れだす。本屋大賞翻訳小説部門第1位『犯罪』で読書界を揺るがした短編の名手が現実の事件に材を得て、罪と罰の在り方を鮮烈に問う12編。著者最高傑作! ■目次 「参審員」 「逆さ」 「青く晴れた日」 「リュディア」 「隣人」 「小男」 「ダイバー」 「臭い魚」 「湖畔邸」 「奉仕活動(スボートニク)」 「テニス」 「友人」

 

久しぶりにシーラッハを。「犯罪」「罪悪」のあと「コリーニ事件」を読んだだけで、それ以外は出ていることすら知らなかったのだけど今回ちょっと「犯罪」っぽくて良さそうだったので。そうだそうだ、シーラッハってこういうのだったよなあと思い出しながら読了。無駄を最大にまで省いたシンプルで無感動な文章、好きだったなー。省いているからこそ想像の余地が働くというか。ミステリー風に推理で解決するものもあれば、復讐がバレないもの、理不尽なまま終わるもの、なんとなくモヤモヤするもの。事実のエッセンスを残して創作しているのだと思うが、現実の事件ならばこんな感じなんだろうなというリアリティ。薄いしサラっと読めるので、三部作として「犯罪」「罪悪」「刑罰」一気に読むといいかも。

任侠シネマ  (ねこ3.8匹)

今野敏著。中央公論新社

「永神のオジキは、映画館の話でいらしたんですか?」興味津々の若い衆に、阿岐本組代貸の日村は心の中で溜め息をつく。困った人をほっとけず、さらには文化事業が大好きなヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々と舞い込んでくる。 今度の舞台、潰れかけの映画館にも、もちろん山積みの問題が。TVやネットに押されて客足が遠のく厳しい業界事情もさることながら、存続を願う「ファンの会」へ嫌がらせをしている輩の存在が浮上し……。 ヤクザも生きにくい世の中で、街の小さな映画館をどう守る! ?(紹介文引用)
 
任侠シリーズ第5弾。
 
面白くて読みやすくて大好きなこのシリーズ、今回阿岐本組が立て直すのは映画館。映画は私も好きなほうなので嬉しい題材。私が子どもの頃は洋画全盛期で子どもも大人もみんな映画館に行ってたけど。正直私も家に本格的なシアタールームを作ったので映画館自体にはほとんど足を運ばなくなってしまった。経営が厳しい千住シネマは千住興業のお荷物なのか。どうして思い切った売却をしないのか。裏にヤクザが関わっているのか。などなどなど。
 
映画館に行ったことがない日村さんが高倉健の映画を観て完全に健さんにハマるのが面白かった。誰もが恐れる半グレに「ヤクザよりも怖い」と恐れられる稔とか(笑)。いつも喋らないテツがオヤジに言い返すシーンも良かったなー。よく殴られなかったもんだ。甘糟刑事も頼りない感じだったのにあんなふうに上司に逆らうなんて強くなったもんだ。
 
最後はあれよあれよという間に解決した感はあるけど、映画愛と任侠道を感じる楽しい作品だった。やっぱお金だけでは生きていけないよね。好きなものを心から楽しまないと。
 

爆弾  (ねこ3.8匹)

呉勝浩著。講談社

些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。 たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。 直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。 「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。 警察は爆発を止めることができるのか。 爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。第167回直木賞候補作。 (紹介文引用)
 
読んだことのない作家さんだが今年のこのミスランキング1位だったので読んでみた。電書で「試し読み」してみたところ、読みやすそうでもあったので。
 
結論から言うと、確かに面白かった、爆弾テロものでこういう作風のものは初めて読んだと思う。ページの半分が取調室での容疑者と警察との攻防で占められていて、容疑者の知能は極めて高い。容疑者が仕掛ける言葉のゲームや発言からヒントを読み取り爆弾のありかを推理する刑事など、ちょっとした頭脳クイズをやらされているよう。不祥事の果てに自殺した警察官や新人警官のガンバリなど、脇のストーリーもしっかり固められていて良いと思う。真相も意外性があって読み応えあったしね。
 
あくまで自分の感触だけど、誰でも本心では他人などどうなってもいい、みたいな、「命の選択」「善悪の区別」をやたらに問う作品だなと思った。人間同士のマウンティングや正義と偽善のあぶり出しは多少なりともこういう作風には必要な要素だが、あまりにもそればっかりでウンザリしかけた。登場人物の本音の部分も多く、それがどうにもどれも気色悪い。等々力刑事の長谷部推しは特に。長谷部の行為は死者の尊厳を貶める行為であって過去の功績や正義感が帳消しになっても仕方ないと思うんだよなあ。
 
まあ、「ささっと読めちゃう面白さ」で言えば文句なしかと思う。筋道立った動機や容疑者の掘り下げがないので、謎解きモノとしてスッキリしたい人には不向きかも?