すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

スイッチ 悪意の実験  (ねこ3.8匹)

潮谷験著。講談社文庫。

私立狼谷大学に通う箱川小雪は友人たちとアルバイトに参加した。一ヶ月、何もしなくても百万円。ただし――<押せば幸せな家族が破滅するスイッチ>を持って暮らすこと。誰も押さないはずだった。だが、小雪は思い知らされる。想像を超えた純粋な悪の存在を。第63回メフィスト賞受賞の本格ミステリー長編!(裏表紙引用)
 
初読み作家さんのデビュー作。
テレビやyou tubeで紹介され結構話題になった作品ということなので楽しみに読んだ。
 
スイッチを押せば自分に害はないが自分に関係のない他人が不幸になる――という設定、映画にもあるしそれほど目新しくはないかな?と思っていたが、これはひと味違う。押そうと押すまいと、モニター側には終了後同じ額のバイト料が支払われるというところだ。この実験の核は、メリットあるなしに関わらずただ他人を不幸にしたい、という<純粋な悪意>が人間に芽生えるかどうかで、スイッチを押したのが誰かということは主催者1人にしか知らされない。もちろん普通に考えてそんなもん誰も押すはずはないのだが、この物語では主人公小雪の置き忘れたスマホを使って何者かがスイッチを押した、というところがミステリーとなる。
 
と、こんなふうに序盤はスリルや登場人物の葛藤が描かれ楽しめるのだが、中盤から登場人物たちの過去や害を与えられた側の人間たちの過去が掘り下げられ、特に主人公小雪の独特な性格が詳細に語られる。肝心な決断は毎回脳内のコインの裏表で決められ、優柔不断ではないがいいことをしようとそうでなかろうとそれは小雪の意志ではない。そんな自分に小雪は冷静で、そんな自分を大切に思えない。まあそんな小雪がこの実験の体験や友人との関係で変わっていく、という前向きなお話。
 
ちょっと小雪の性格が好きになれなかったのと、いい人すぎる友人の玲奈、主催者の倫理観のなさなどが浅すぎて苦笑してしまったかな。文章もかなり軽く、イマドキ流行りの小説という感じ。あと、宗教が絡んでいるのでもう少しそのあたりソフトにしてもらえればとっつきにくさがなかったかも。色々詰め込みすぎてて冗長になったぶん、もったいない小説になってしまったかなあ。一気読みできるしいいところもたくさんあったのだが。