すべてが猫になる

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VR浮遊館の謎 探偵AIのリアル・ディープラーニング  (ねこ4匹)

早坂吝著。新潮文庫

人工知能探偵・相以(あい)と助手の輔(たすく)は、世界初のフルダイブ型VRに挑戦! あらゆるものが浮遊する館で、相以は魔法使いに変身! 早速、犯人当てゲームの最速クリア法を提案する。「一人ずつ殺していけばいいと思います!」ゲームとは思えない生々しい死体の出現、迫りくる殺人鬼の魔の手。はたして二人は浮遊館の謎を解き、無事に脱出できるのか。急転直下の推理バトル、新感覚ミステリ。(裏表紙引用)
 
探偵AIシリーズ第4弾。
 
いやあ~、毎回毎回すごいなあ~。またまためちゃんこ面白かった!今回は、相以と輔がフォース(AI小説家)の作った超リアルなVR推理ゲームに参加するという設定。それもファンタジーめいていて、参加者全員8人が異なった魔法を持つ。使用回数は決まっていて、さらに他人に自分の魔法を移す魔法、というものもある。人や家具、全てのものが浮遊したままの状態で起きるVR内殺人事件、今回は身体性を得た相以と輔もお互いライバルとなって推理合戦を繰り広げる。
 
特殊設定ミステリーなので、ルールを把握するのは少し大変かな?まあでもマンガみたくするする読みやすいので、キャラクター同士の対決を純粋に楽しむだけもアリかも。ちゃんと相以のライバル、以相も出てくるしね。輔も自力で推理したりして成長のあとがうかがえたり。この浮遊館にまつわる壮大な秘密にもビックリだし、スケールがでかすぎてさすが早坂ワールドとしか言えない展開。このシリーズは本当に面白い!

白鳥とコウモリ  (ねこ3.7匹)

東野圭吾著。幻冬舎文庫

二〇一七年、東京竹芝で善良な弁護士、白石健介の遺体が発見された。 捜査線上に浮かんだ倉木達郎は、一九八四年に愛知で起きた金融業者殺害事件と繋がりがある人物だった。​ そんな中、突然倉木が二つの事件の犯人と自供。事件は解決したと思えたが。​ 「あなたのお父さんは嘘をついています」。​ 被害者の娘と加害者の息子は、互いの父の言動に違和感を抱く。​(上巻裏表紙引用)
 
東野さんのノンシリーズ文庫新刊。割と評判のよい作品だったので、ノンシリーズといえど楽しみにしていた。上下巻とは珍しい、さぞ単行本は分厚いものだったに違いない。とはいえさすが東野作品、長さを感じさせない面白さで2,3日で読み終わった。
 
2017年と1984年に起きた別々の殺人事件を題材にしたミステリー。人格者の弁護士が殺害され、私がやりましたと簡単に自白した容疑者。84年の詐欺師殺人事件とも関連があるらしい。しかし被害者の遺族・白石美令は父親の言動に違和感をおぼえ、加害者の家族・倉木和真は父親がそんな理由で殺人を犯すような人柄ではないという。対照的な2人は運命に導かれ、互いに手を組み真相を追い求めるが。。
 
被害者遺族、加害者家族を白鳥とコウモリに例え、敵対するはずの2人が惹かれあい手を組むというのが設定としていいと思った。父がこんなことを言うはずがない、こんな考え方をするはずがない、という主張、確信は親しい人間でなければ分からないもので、加害者が事実を認めているのだから余計なことをするな、裁判で重要なのはそこではない、と互いの弁護士らが消極的なのがもどかしい。
 
真相のほうは、引っ張った割に想像の範疇を超えるものではなかったかな、と。読者の立場としては、倉木の言っていることが間違いで美令や和真の言い分が正しいのだろうと予想がつくし、84年の事件については被害者がそもそもクズなので、要は「誰がやったか」が違うだけなのだろうと分かる。現在の事件の方の犯人には驚いたが、伏線らしい伏線がなかったのだからそりゃ意外だろう、としか。。ちょっと卑怯だよね。動機も投げやりな感じがするし。リアルさはあると思うけれど、もっと掘り下げて欲しかったかな。こういう動機ならこういう動機なりの持って行き方があると思うので。
 
う~ん、まあ面白かったけど、評価としては普通かな。。

天の川の舟乗り  (ねこ3.7匹)

 

北山猛邦著。創元推理文庫

金塊を祭る村に怪盗マゼランを名乗る人物から届いた『祭の夜 金塊を頂く』という予告状。金塊がなくなると観光客が来なくなると危惧した村の有力者の娘は名探偵音野と助手の白瀬に監視を依頼する。しかし、警戒する二人の前で起こったのは密室殺人で……大胆なトリックと切実な動機が胸を打つ表題作など4編を収録。引きこもりがちな名探偵が活躍する、大人気シリーズ第3弾。(裏表紙引用)
 
引きこもり探偵・音野順シリーズ第3弾。
いやあ、今回はサクっと文庫化されて良かった。前作は文庫化までに7,8年かかっていた記憶が。。(でも単行本化に時間がかかったという噂もきく)結構売れっ子作家だと思うんだけどなあ。
 
で、今作は4編収録。
「人形の村」
白瀬の友人であるオカルト雑誌ライターの旗屋が、読者からのハガキで引き寄せられた「髪の伸びる人形」がある家。オカルトとしてはベタな設定なのだけど、人形からこの時間は目を離すなとか伸びる様をリアルに目撃したとか状況や展開はなかなか面白い。まあ、こんなこったろうと思ったけど、、旗屋いいやつっぽいのでちょっと可哀想。
 
「天の川の舟乗り」
伝統あるお祭り・金塊祭が開催される金延村に届いた予告状。しかし怪盗が盗むと宣言した金塊はニセモノで、当の怪盗がそれを知らないはずがないのだが。。。
中編かな。海の上を浮いたまま走るボートの正体に笑う。やれるもんなら実写化してほしい。。無理だよな~。。背後でワイワイやってるUFO研究会のメンバーが本当に意味なくてそれがなんだか良かった。
 
「怪人対音野要」
音野の兄が探偵役をつとめるお話。ドイツのバーンズ城に楽器の査定にやってきた音野だが、思わぬ殺人事件に巻き込まれ。。マントと凶器をどうやってあそこに置いたか、だけがポイントかな。これもまたトリックを生で見てみたいけれど、、現実的にはどうだろう^^;個人的には弟のほうが好きかな。
 
「マッシー再び」
金延村のゆるキャラ、マッシーがとうとう主役に。マッシーまんじゅうがしつこい笑。
このトリックが1番、その姿に笑ってしまいそうだ。。。こういうの嫌いじゃない。
 
以上。
物理トリックといえば北山さん、みたいなイメージがあるけれど、発想自体は面白いけど現実的に納得いかないのが難点かなあ。トンデモトリックを可能に見せるパワーが足りないというか。。まあこの引きこもり探偵ならムリか。。

有名すぎて尾行ができない/The Day that Never Comes  (ねこ3.6匹)

クイーム・マクドネル著。青木悦子訳。創元推理文庫

平凡すぎる顔が特徴の青年ポールは、恋人のブリジット、元警官のバニーと探偵事務所を始めることにした。さっそく、謎の美女が依頼に訪れる。彼女は国中が注目する不動産開発詐欺事件の被告人三人組のひとりの愛人で、その男の浮気調査をしてほしいと言う。ポールは依頼を引き受けたが、相手を尾行しては見失っているうちに、またも殺人事件に巻きこまれてしまい……。『平凡すぎて殺される』に続く、大好評ノンストップ・ミステリ第2弾!(裏表紙引用)
 
アイルランドミステリー、ポール・マルクローンシリーズ第2弾。
最初に言っておく。前作の内容をほとんど覚えていないので、話があまり分からなかった。。筋だけはついていけたと思うのだが、誰が誰だかイチから覚え直し、前回の人間関係と事件が結構絡んでくるので意味不明。前作ではサクサクテンポよく読めた気がするのだが、今回はページ数も多く、時系列も遡るうえ視点人物が3,4人いるのでかなり混乱した。
要は、<ポールのところに依頼に来た赤毛の女が不倫相手が妻とヨリを戻しているか尾行してくれと言う><その不倫相手が今アイルランド中で有名な不動産詐欺師の1人><その組織の1人が何者かに惨殺される><ブリジットとポールは誤解からまだケンカ中><探偵仲間の1人、元警官のバニーが行方不明><だらしない警察に国民が暴動><ポールの相棒の犬がかわいい>・・・ってところか。これが大筋で、真ん中に警察内部のしがらみとかバニーがいつどこでどういう行動を取っていて今こうなったかとか、ポールとフィルのコンビがうまくいかない様子とかブリジットが独自で探りまわって色々危険な目に遭いつつ真相に近づくとかまあとにかく色々と詰め込んでる。個人的には、ポールとブリジットの活躍を読みたいのにな~~~~色んな要素にページ数が割かれて興味が分散されちゃう。
 
面白いところもあったけど面白くないところも多かった。もうここまでにするかな、と思うが三部作らしいのでまた読むだろうな。。

近畿地方のある場所について  (ねこ3.7匹)

背筋著。角川書店

背筋と名乗るライターの主人公は友人であり編集者である小沢と一緒にオカルト雑誌を作っていた。そして幾つかの不気味な怪談に近畿地方のある場所がかかわっているのではないかという仮説を立てた二人は調査、考察を進めていく。しかし、ある日小沢は現地へ行くと言い残して失踪してしまうのだった。背筋は行方不明になった小沢の目撃情報を募るため、雑誌記事を中心に様々な媒体・メディアから引用抜粋した――少女失踪事件に関する週刊誌報道、ネットの匿名掲示板に投稿された怖い話、おかしな読者からの手紙等を『近畿地方のある場所について』というタイトルでまとめ、WEB上で情報提供を呼びかけていく。だが、これらの怪談と近畿地方のある場所には恐ろしい事実が隠されていて――。(紹介文引用)
 
去年からXなどで話題沸騰となっていたホラー小説。「カクヨム」で連載され評判となり書籍化されたようだ。「変な家」と似たようなかおりがほのかにしたものの、やはり気になったので読んでみた。
 
まあ、たしかに面白いことは面白い。
だが実話風怪談の名手、三津田信三を愛読している自分には全然目新しいことはなかったかな。。作者=語り手とする手法も、読者や雑誌、ネットから抜粋した体験談を引用しリアリティを持たせるやり方も毎度おなじみ。赤い服を着てジャンプするおばさんやら地方に伝わる七不思議や山から呼びかけてくるおじさんやら色々出てくるが、最終的にまとまりがなく真相にまつわるヒントもなく、なんだったんだで終わってしまった印象。裏オチもないしなあ。。肝心要の、ホラーとしての怖さがほとんど感じられなかった。ちょっと文章のうまい素人さんという感じ。最後まで読ませるだけに光るものはあると思うのだが。
 
とはいえそれほど酷くはないので気になる人は試してみても良いかも。あっという間に読み終わります。

スイッチ 悪意の実験  (ねこ3.8匹)

潮谷験著。講談社文庫。

私立狼谷大学に通う箱川小雪は友人たちとアルバイトに参加した。一ヶ月、何もしなくても百万円。ただし――<押せば幸せな家族が破滅するスイッチ>を持って暮らすこと。誰も押さないはずだった。だが、小雪は思い知らされる。想像を超えた純粋な悪の存在を。第63回メフィスト賞受賞の本格ミステリー長編!(裏表紙引用)
 
初読み作家さんのデビュー作。
テレビやyou tubeで紹介され結構話題になった作品ということなので楽しみに読んだ。
 
スイッチを押せば自分に害はないが自分に関係のない他人が不幸になる――という設定、映画にもあるしそれほど目新しくはないかな?と思っていたが、これはひと味違う。押そうと押すまいと、モニター側には終了後同じ額のバイト料が支払われるというところだ。この実験の核は、メリットあるなしに関わらずただ他人を不幸にしたい、という<純粋な悪意>が人間に芽生えるかどうかで、スイッチを押したのが誰かということは主催者1人にしか知らされない。もちろん普通に考えてそんなもん誰も押すはずはないのだが、この物語では主人公小雪の置き忘れたスマホを使って何者かがスイッチを押した、というところがミステリーとなる。
 
と、こんなふうに序盤はスリルや登場人物の葛藤が描かれ楽しめるのだが、中盤から登場人物たちの過去や害を与えられた側の人間たちの過去が掘り下げられ、特に主人公小雪の独特な性格が詳細に語られる。肝心な決断は毎回脳内のコインの裏表で決められ、優柔不断ではないがいいことをしようとそうでなかろうとそれは小雪の意志ではない。そんな自分に小雪は冷静で、そんな自分を大切に思えない。まあそんな小雪がこの実験の体験や友人との関係で変わっていく、という前向きなお話。
 
ちょっと小雪の性格が好きになれなかったのと、いい人すぎる友人の玲奈、主催者の倫理観のなさなどが浅すぎて苦笑してしまったかな。文章もかなり軽く、イマドキ流行りの小説という感じ。あと、宗教が絡んでいるのでもう少しそのあたりソフトにしてもらえればとっつきにくさがなかったかも。色々詰め込みすぎてて冗長になったぶん、もったいない小説になってしまったかなあ。一気読みできるしいいところもたくさんあったのだが。

ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎/A Piece of Justice  (ねこ3.8匹)

ジル・ペイトン・ウォルシュ著。猪俣美江子訳。創元推理文庫

ケンブリッジ大学の貧乏学寮セント・アガサ・カレッジ。その学寮付き保健師イモージェン・クワイの家に下宿する学生が、生涯でひとつだけ目覚ましい業績を上げた、ある故人の数学者の伝記を執筆することになった。しかし彼女は、伝記を執筆する初めての人物ではなかったことが判明。前任者たちが執筆をやめたのはどうも、その数学者の空白の期間に原因がありそうで……。好評『ウィンダム図書館の奇妙な事件』に続くシリーズ第二弾!(裏表紙引用)
 
セント・アガサ・カレッジの学寮付き保健師イモージェン・クワイシリーズ第2弾。
前作で「続きは読まないかな~」みたいなことを書いた気はするが、やはりタイトルや表紙が魅力的で読んでしまった。。同じ失敗はすまいとかなり集中してゆっくり読んだおかげで、今回はとても楽しんで読むことができた。地味で真面目な作風なので、サクサク読むと理解が難しくなって退屈に感じるシリーズなのだろうな。
 
イモージェンの家に唯一下宿することが許されているフランが、ある数学者の伝記を教授の代理として執筆することになった。しかしその数学者はとうてい伝記にして面白くなるような面白い人間ではなく、数学の驚異的な発見をしたとはとても思えない人物。調べるうち、数学者の伝記を任された人間が次々と失踪したり死亡したりしていることがわかり…。
 
地道に調査していく前半はやはり退屈だが、キルトの詳細な説明(ここは興味がなければキツイのかも、自分は手芸をやるので興味深く読めた)やカレッジでのカンニング事件が起きるなどして軌道に乗せていく。数学者の妻がトンデモ人物で、その妻が場を引っ掻き回すさまも面白い。イモージェンがフランの身を案じ危険な目に遭うことも。。
女性に学位を与えない時代が描かれたりするので、このシリーズに出てくる女性は良くも悪くも魅力的でキャラが強い気がする。怪しい奴が怪しい感じで登場しているので犯人の意外性を楽しむというよりは、独特で珍妙なこの動機に思いを馳せることに。
 
最後のヴィお婆ちゃんカッコ良かったなあ。。
作者が故人のため、あと2作で終了らしい。完結していないんだろうけど、最後まで追うかな。