すべてが猫になる

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赫衣の闇  (ねこ3.6匹)

三津田信三著。文藝春秋

ホラーミステリーの名手による、素人探偵「物理波矢多(もとろいはやた)」シリーズ第3作。戦中、満州の建国大学で五族協和の理想を求めた波矢多は、敗戦に接して深い虚無に囚われ、以後は国の復興を土台で支える職を求めようとする。抗夫として働く九州の炭鉱で起きた連続殺人事件を解決した(『黒面の狐』)波矢多は、上京して、建国大学で寝食を共にした級友・熊井新市の元に身を寄せる。新市の父・潮五郎は闇市を仕切る的屋の親分だった。波矢多は、潮五郎の弟分である私市吉之助から奇妙な依頼を受ける。私市が取り仕切る宝生寺の闇市、通称”赤迷路”にいつからか現れるようになり、若い女性のあとを付け回す全身赤っぽい男、”赫衣”の正体を暴いてほしいというのだ。赫衣に出くわした女性たちに話を聞いて回る波矢多だったが、そんな折、私市の経営するパチンコ店で衝撃的な殺人事件が起き、私市に容疑がかかる。事件の真犯人は誰なのか、そして赫衣の真相とは。戦後直後の猥雑な風俗のなかで繰り広げられる、無二の味わいのホラーミステリー。(紹介文引用)
 
物理波矢多(もとろい・はやた)シリーズ第3弾。
一応前2作も読んでいるのだがブログ休止中だったので記事になっていないようだ。。時代背景も好みで探偵も面白かったのでまあまあ好きなシリーズだったのだけど、この第3弾はちょっと気が抜けちゃったかな?三津田さんお得意の論理的解決にはほとんど至ってなかったよーな。時代的に理解が難しいすごい動機だったし。赫衣の男の怪異も、三津田さんにしては怖さが弱かったよーな。
 
でも、戦災孤児・清一の凄まじい過去や娼婦たちの背景などが真に迫っていたのでそのあたりは読み応えがあったし、第三国人やら人権問題やら、戦争によって狂わされてしまった人々の生活や考え方、人間のいやらしさなどなど八割方面白く読めたので嫌いではないかな。

監禁  (ねこ3.7匹)

秋吉理香子著。双葉社

幼い娘の育児と仕事の両立に限界を覚えた由紀恵にとって、今日が勤務の最終日。 夜勤の間は、夫の雅之が自宅で娘を見ている。 だが、ラインのメッセージに返事はない。電話をかけても繋がらない。 由紀恵は自分に執着していた不気味な患者の存在を思いだし、胸騒ぎを覚える。 家族の絶望と狂気、そして再生を描いた戦慄のサスペンス。(紹介文引用)
 
秋吉さんのサスペンスもの。タイトル通り、ある人物が何者かに監禁される物語。
 
監禁事件そのものよりも、看護師である主人公の由紀恵のお仕事物語の方が比重が高く面白かった。ワンオペ育児で仕事も鬼のように忙しく、ストーカーの悩みまである。特に育児と仕事の両立や自称イクメン夫など、読んでいるだけでしんどさが伝わってくる。でも仕事を諦めようと思った途端気づく職場での魅力みたいなものってあるよね。
 
まあそこはリアルで良かったのだけど、肝心の監禁事件の犯人の心理や言動などはちょっと浅かったかなあ。恐怖はあるけども。どんでん返しがあるので盛り上がりはあるが、せっかくのいいテーマが薄れてしまった感。まあ面白かったけど、由紀恵はほんとにこの夫でいいの?

サスペンス作家が殺人を邪魔するには/Finlay Donovan an Knocks 'Em Dead  (ねこ3.8匹)

エル・コシマノ著。辻早苗訳。創元推理文庫

オンラインの掲示板に元夫の殺害依頼が投稿された!? シングルマザーで作家のフィンレイは、子育てに奮闘しつつ原稿の執筆に取り組んでいた。だが元夫の件が気になって仕方がない。しかもある人物が依頼に食いつこうとしているのを発見する。どうやらプロの殺人請負人らしい。フィンレイは同居人のヴェロと一緒に、元夫が殺害されるのを阻止しようと奔走するが……。極上の巻きこまれ型ジェットコースター・サスペンス第2弾!(裏表紙引用)
 
フィンレイ・ドノヴァンシリーズ第2弾。前作「サスペンス作家が人をうまく殺すには」が良かったので続編をいそいそと。
 
うん、続編も面白かった!裏掲示板で元夫スティーヴンを殺そうとしている人間がいることを知ったフィンレイは、ベビーシッター兼親友のヴェロと共に駆け回る。ヤクザ、放火、生首死体などなどとんでもない目に遭いながら、子育てに恋愛に大忙しのフィンレイ。ちょっとワニ町シリーズとノリが似てるかな。あっちもそうだけど、こういうのって<巻き込まれ型>って言わないと思う笑。自分に関係することとはいえ、自分から首突っ込みまくってるからね。。相変わらずスティーヴンはイヤなやつ。自業自得とはいえ、離婚しても子どもがいたら関わらなきゃいけないのって辛そう。
 
サスペンス的にも怪しい人がいっぱいいてスリル満点だけど、ホットなセクシー警官ニックと将来有望な弁護士の卵ジュリアンとの間で板挟みの三角関係、この要素が半分くらい入ってるかな~~。ジュリアンはやめたほうがいいと思うけどねえ。。暴力とかはなさそうだけど、旅行中インスタに鍵をかけるとかなんかいちいちめんどくさいよね。「この今の関係が気に入ってる」とかいう奴はやめとけやめとけ。ニックはニックで仕事柄心配になりそうだけど、、なんかニックが可哀想だよ。
 
で、殺人犯が明らかにならないまま、続く。

処刑台広場の女/Gallows Court  (ねこ3.6匹)

マーティン・エドワーズ著。加賀山卓朗訳。ハヤカワ文庫。

1930年、ロンドン。名探偵レイチェル・サヴァナクには、黒い噂がつきまとっていた。彼女は、自分が突きとめた殺人者を死に追いやっている――。レイチェルの秘密を暴こうとする新聞記者ジェイコブは、密室での奇妙な自殺や、ショー上演中の焼死といった不可解な事件に巻き込まれる。一連の事件の真犯人はレイチェルなのか?真実は全て“処刑台広場”に。英国推理小説界の巨匠による極上の謎解きミステリ。(裏表紙引用)
 
初読み作家さん。2024年このミスの3位作品だったので、発売時はスルーしていた作品なのだが読んでみた。
 
うう、まあ、なんとなく30年も40年もミステリを読んでいたらカンみたいなものが働くものでしてな。合いませんでしたわ笑。ハヤカワ文庫なので字は大きいし今時読みにくい訳、っていうのもそうそうないのでそこはいいんだけど。まあ、長かったのかな笑(本文580ページ) 飽きちゃった。
 
ダークヒロインなのかどっちなのか、っていう秘密めいたキャラのレイチェルは魅力的だったし、彼女を取り巻く使用人たちもなんだか意味ありげでいい雰囲気だったし、語り手の記者ジェイコブもまあ悪くなかった、読者好きのするキャラクターだったと思う。レイチェルがジャマだと思った人間は必ず殺されて、それがレイチェル以外の「やりそうな」人間のせいになる、っていうのが続いて、でもまあこれは実際裏とかなくてその通りなのかな~、っていう状態がずーーっと続くのがまずかった。やっぱ分かっていることを延々読まされるのは苦痛なので。それを覆すのがあのラストのサプライズだと思うのだが、これもさんざんミステリを読んでいればありがちな展開と感じてしまう。
 
映画のほうが(もしなれば)面白いと思う、キャラクターは映えそうだしアクション要素もあるし、サプライズも効果的に見せられそう。

暗闇・キッス・それだけで  (ねこ3.7匹)

森博嗣著。集英社

大学在籍中にコンピュータのインタプリタを作製、休学してソフトウェア会社を創業、1980年代にコンピュータ業界で不動の地位を築いた、IT史上の伝説的存在ウィリアム・ベック。会長職を譲り、第一線から退いたウィリアムは現在、財団による慈善事業に専念している。探偵兼ライターの頸城悦夫は、葉山書房の編集者兼女優の水谷優衣から、ウィリアムの自伝を書く仕事を依頼され、日本の避暑地にある彼の豪華な別荘に一週間、滞在することになった。そこにはウィリアムだけでなく、その家族や知人、従業員などが滞在していた。 ところが、頸城が別荘に着いた後、思いもかけない事件が発生する。警察による捜査が始まるが、なかなか手がかりをつかむことができない。そんな中、さらなる悲劇が……。取材のために訪れた頸城は、ウィリアムの自伝執筆の傍ら、この不可思議な殺人事件にも関わることになる。果たして、事件は解決できるのか。 忘れ得ぬ苦しい記憶を背負った探偵が、事件の謎・愛の影を探求・逍遥する、至高の長編小説。 待望の書き下ろし長編ミステリー。(紹介文引用)
 
↑あらすじ、長いな。。おかげで何も書くことがない。。
 
大昔に読んだ「ゾラ・一撃・さようなら」の続編。登場人物が同じだが違う事件なのでまあ単体で読めると思う。
 
IT企業家の富豪、ウィリアム・ベックの自伝を依頼された主人公の頸城が富豪の屋敷に滞在中殺人事件に巻き込まれる話。登場人物の半分が外国人。そしてなぜか探偵役の頸城にはガールフレンドらしき女性が2人。パっとしない主人公だが、寄ってくる女性はどちらも女優だったりレベルが高い。ミステリーと言っても森作品なので、推理らしきものもないまま「君が犯人なのかー」で解決する。珍しく動機らしきものあり。
 
うん、まあ相変わらずの森ワールドで、会話を楽しめればいいのかなと。特別残るものはないが普通に面白かった。

秋雨物語  (ねこ3.5匹)

貴志祐介著。角川書店

失踪した作家・青山黎明が遺した原稿。それは彼を長年悩ませる謎の転移現象の記録だった。転移に抵抗する青山だったが、更なる悪夢に引きずり込まれていく(「フーグ」)。ある呪いを背負った青年の生き地獄、この世のものとは思えないある絶唱の記録など、至高のホラー4編による絶望の連作集。『黒い家』『天使の囀り』『悪の教典』……いくつもの傑作を生み出した鬼才・貴志祐介が10年以上にわたり描き続けた新シリーズが遂にベールを脱ぐ。(紹介文引用)
 
貴志さんのホラー短編集シリーズ第1弾。
雨月物語上田秋成)」をモチーフにして描かれた作品集とのことだが、未読のため関連は理解できず残念。しかし物語はオリジナルだと思うのでこれだけでも楽しめる、、はず。
 
「餓鬼の田」
社員旅行の宴会から外れ、たまたま話すことになった美晴と人気社員青田。青田はもてるのになぜか付き合った女性はことごとく自分から離れていくのだという。
なんとなく昭和ノリの雰囲気。軽いお話なのだが、前世の呪いだの動物虐待だの、内容は不穏。オチでカクっとなった、リアルな女性心理。
 
「フーグ」
編集者の松浪が、作家の青山黎明の作品らしきものを読むとなにやらそれは青山自身のテレポーテーション体験記のようで。。
「暗い過去」というと動物虐待が外せないのだろうか?前作が占い師、今作が霊能者絡み。なかなか壮大で恐ろしい体験、取り憑かれたらもう逃げられないのだろうか。
 
作家の大西が、音楽愛好者の嵯峨の自宅で聞かされたある天才女性歌手2人の壮絶な生涯。話がだんだん大きくなっていく。。彼女たちが迎えた恐ろしい運命もなかなかゾクっとするものだったが、なんとしてもその歌手、レコードについて知らずにいられない愛好家の執念みたいなもののほうが怖いなと思った。ちょっと話が専門的すぎてついていけなかったが、全然興味のない分野でもないのでなんとか。
 
重くつらい環境に身を置く少年少女が、1人を犠牲にして残りの人間の人生がお告げによって切り開かれていくという変わったこっくりさんを体験する。やがて祈りはその通りになり、年月は流れ――。
信じていたルールが現実は違うものだったという恐怖と、人間そのものの業のようなものを見せつけられてなかなか読み応えがあった。
 
以上。
ホラーはホラーなのだが、ゾクっとする恐怖体験ストーリーみたいな感じかな。う~ん、普通に読めるがこれといって刺さるお話はなかった。貴志さんにもう初期の勢いはないか。

ぬるくゆるやかに流れる黒い川  (ねこ3匹)

櫛木理宇著。双葉社

六年前、ともに家族を無差別殺人でなくした同級生の小雪が香那の前に突然姿を見せた。 犯人・武内譲が拘置所で自殺したため、犯行動機等が不明なままの事件を 改めて調べようと誘ってきたのだ。香那たちは事件を追うごとに 世代を越えて女性嫌悪にとりつかれた男性達の存在に気づかされる。 武内譲が憎んでいたものはなんだったのか。それを知ったとき二人は……。(紹介文引用)
 
少し前に読んだ「死刑にいたる病」が良かったので、内容もろくに調べず適当に選んでこの本を読んでみたが。。
 
いやあ、キツかった。キツすぎた。今まで読んできた3000、4000冊もの本の中でも1番メンタルえぐられる感じがした。これは読んでいても気分が悪くなるだけなので挫折しようかと何度か思ったが。。まあ読みやすいからそんなに日数はかからないだろうというだけの理由で読み切った。
 
二家族を無差別に襲い死刑囚となった男・武内譲は拘置所で自殺した。やがて被害者遺族である香那と小雪は出会い、なぜ自分の家族が殺されなければならなかったのか、武内とはどういう男なのかを調べ始める。その過程で武内譲は女性蔑視のミソジニストで、SNSで女性全般に対しかなり過激な発言を繰り返していた。彼がそこまで女性全体を嫌悪し憎悪するようになったのはなぜなのか――。
 
武内の育った環境がろくなものではなかったことは容易に想像がつく。そして「こんな環境、親に育てられては彼のような悪魔が育っても不思議ではない、だがそれでも真面目に生きている人はたくさんいて、彼の生育環境は犯罪行為とは関係がない――」というありきたりの終着地へ持って行かれるのかな、と思っていたが、、、話がなんだか大幅にズレてゆき、彼の祖父や曽祖父がいかに暴君で女性差別の塊のような人物だったか、明治時代のある女性の悲惨な生涯や社会問題を掘り下げることに舵を切ってしまう。もう香那や小雪の存在はどこへやら。いや、ここまで醜悪で異常な男たちばかり出てこられても、、時代関係なくもう精神異常のレベルでしょ。武内だってそう。こういう人間に善悪や動機を問うても、、
 
結局新たに発生した殺人事件の犯人は唐突すぎるし、香那や小雪が彼らや被害者の女性たちに対してもっとどう感じたのかや、唾棄すべき種類の存在に対し、それを踏まえこれからどう生きていくのか、そういうところに踏み込んで欲しかった、これこれこういう女性たちがいて悲惨でしたということと、こういう男性たちが一定数いる現実だけを読まされてまさに「ぬるくゆるやかに流れる黒い川」だけが残った。勉強になる部分ももちろんあるが、他はミソジニーだのなんだの、わざわざ見なくてもいいところに自分から手を出してしまったかなあ。ちょっと櫛木さん、リタイアです。。