すべてが猫になる

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自転しながら公転する  (ねこ4.5匹)

山本文緒著。新潮文庫

母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都(みやこ)。アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えない。職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。正社員になるべき? 運命の人は他にいる? ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えは――。揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編。(裏表紙引用)
 
初・山本さん。おすすめによく出てくるのと、タイトルに惹かれたので。しかし残念ながらこの作品が遺作だそうで。いい作家さんに出会えたと思ったのになー。
 
作風は、ごく普通の平凡な女性が恋に仕事に介護に将来に悩む日常を丁寧な心理描写で綴ったもの。これが平凡なのだとしたら、日本女性の人生って茨ばかりだな。アウトレットモールのOL向けファストファッションブランドで働く32歳の都は、同じアウトレット内の回転寿司店で働く貫一と交際する。元ヤンの片鱗を見せ、将来が考えられない貫一への違和感。職場では上司にひどいセクハラを受け、貫一の友人には悪意ある言葉をぶつけられ、母親は重度の更年期障害、父親ともすれ違い両親とも病に倒れる。店ではアルバイトたちの店長への不満が爆発しボイコット寸前。友人同士で息抜きに集まれば、全てうまくいっているように見える友人たちへの嫉妬が止まらない。
 
都の性格は事なかれ主義で、少し情に薄く、決断力がない。多少イライラさせられるが、多分、ほとんどの女性が「分かる分かる」と共感できるエピソードが詰め込まれている。やりたい仕事で上司にも部下にも好かれながらキャリアを積み、恋人の収入や家庭環境も申し分なく確実に結婚してくれ子どもに恵まれ、友人や近所間とのトラブルなし、両親や兄弟の介護の心配なし、、そんな女性が一体どこにいるというのだろうか。完璧な幸せを望んでいる限り、都は幸せにはなれないと思う。貫一に幻滅するたびに都にキツイお説教?をする友人たちにスカっとしたなー。「ちょっとぐらい不幸なぐらいでいい」の言葉が響いた。
 
で、貫一とどうなるのかな?と思っていたら、、、なるほど、すっかり騙されてしまったなー。まあ、良かったね。なんだかんだ、いい年になったらそれなりのところに落ち着くもんだ。若い頃の悩みはなんだったんだ、というぐらいにね。
 
いやーしかし、久々に読むのがやめられない面白さだった。ねこ5でも良かったけど、まだ1月でこれより面白いのが出てきたとき困るのでこれぐらいで。