すべてが猫になる

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月の立つ林で  (ねこ4匹)

青山美智子著。ポプラ社

長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家――。 つまずいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。 月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの想いも満ち欠けを繰り返し、新しくてかけがえのない毎日を紡いでいく――。 最後に仕掛けられた驚きの事実と 読後に気づく見えない繋がりが胸を打つ、 心震える傑作小説。(紹介文引用)
 
やっと回ってきた、青山さんの連作短編集。
今作はタケトリ・オキナによるポッドキャスト「ツキない話」の視聴者を順番に主人公にしたお話で、とても心温まる作品集だった。
 
「誰かの朔」
看護師をやめたばかりの、40代実家暮らし女性のお話。仕事や人生、自分自身について悩みながらも、通販で出会ったワイヤーアクセをきっかけに人生をやり直していく。「朔」はついたちのこと。少し繊細で自分自身を窮屈にしがちな女性の心の動きがリアルだった。
 
「レゴリス」
レゴリスとは、月の砂のことだそう。
宅配業と掛け持ちしながらお笑い芸人を目指す男性。30代を迎え、売れない自分に追い詰められてゆく。夢を追いかけている人そのものが、そうでない人から見ればキラキラしているという言葉が響いた。勝手に卑屈になってはいけないな、と思った。
 
「お天道様」
バイク工場を経営している父親は、娘がデキ婚し離れていくこともその相手の男も気に入らない。考えが古すぎるな、と思うものの、偏見を撥ね退け人のいいところを見つける能力はもともとある気がするな。前作の宅配の男性との絡みが好きだった(出てこないけど)。それにしても、雨の日に届いた宅配便の段ボールや袋がびしょびしょだったことなんてないけどな。
 
「ウミガメ」
高校生の那智は、親が離婚し母親からも疎まれていると感じて自立したい気持ちが大きくなる。ウーバーって、高校生でも親の許可なしに登録できるのか、知らなかった。自分じゃない誰かを喜ばせることって大事。それは顔も名前も知らなくてもいい。この物語全体のテーマだな、と思った。
 
「針金の光」
ワイヤーアクセ作りで成功した睦子は、夫の収入を超え1人になるために仕事用のアパートを借りている。義母とも合わずぎくしゃくする毎日。たとえ仕事がうまくいっていても、1番近い人と合わないと自分が感じていたら意味がないなと感じた。アロマオイル事件の義母カッコ良かったなあ。
 
以上。
それぞれが隠れたところでつながっていて、出会わなくても助け合い支えあっているのが良かったポイント。登場人物の心がキレイすぎると感じるお話もちょこちょこあり、こんな人いるのかな?と思うたびに自分の心がささくれていることを自覚したり。面白いだけじゃなく、心に響き、自分の考え方に影響を与えるのが(一時的だとしても)本当に素敵な作品なのだと思う。