すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

サーモン・キャッチャー the Novel  (ねこ3.7匹)

道尾秀介著。光文社文庫

神様の通う屋内釣り堀カープ・キャッチャーの景品棚には、高得点でもらえる伝説の白い箱があった。 箱の中身を知りたいバイトの明、箱を狙う父親、店主を脅す女性、幽霊を撮影する兄妹、謎のヒツギム人らが釣り堀に集う時、運命は動く。 一匹の鯉を巡り、悩める者たちが人生をかけた大勝負。 怒涛の展開で大興奮、超絶技巧、名手道尾秀介の人生を変えるミステリー。(裏表紙引用)
 
劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチKERA)とのコラボ作品らしい。KERAが映画を担当し、ミッチーが小説を担当したとのこと。どうりでミッチーらしくない作風だったわけだ。大勢の登場人物が最後に全部繋がりあう群像劇、もう世界は完全に伊坂幸太郎だったもん。まあその既視感も原因ではあるけども、内容がゴチャゴチャしすぎててあまりノレなかったかな?
 
釣り堀<サーモン・キャッチャー>を中心に、冴えないけど釣り堀では神様扱いの中年男、ニセ心霊動画を撮影したい兄妹、釣り堀バイトの女子高生、その父親はなんでも屋なんでも屋を雇う金持ちマダム、息子に構ってもらえない中年女性、、、。最初は彼らの人となりや人生を描いていて、少しずつお互いが繋がっていく、、という感じでそのあたりまではまあ面白かったのだけど。ヒツギム人とかマダムの正体とかドタバタしすぎていて、川で全員で鯉探しをすることになったあたりからどうも強引さが際立ってしまったような。いやもちろん全部繋がることは凄いと思うのだけど。伊坂作品ならもっとここんとこスマートなのにな、とか考えて読んでしまった。あまりミッチーには群像劇向かないかも?普通ぐらいには楽しめるのでつまらない作品では決してないのだけども。。んー。

ウィンダム図書館の奇妙な事件/The Wyndham Case  (ねこ3.6匹)

ジル・ペイトン・ウォルシュ著。猪俣美江子訳。創元推理文庫

1992年2月の朝。ケンブリッジ大学の貧乏学寮セント・アガサ・カレッジの学寮付き保健師(カレツジ・ナース)イモージェン・クワイのもとに、学寮長が駆け込んできた。おかしな規約で知られる〈ウィンダム図書館〉で、テーブルの角に頭をぶつけた学生の死体が発見されたのだ……。巨匠セイヤーズのピーター・ウィムジイ卿シリーズを書き継ぐことを託された実力派作家による、英国ミステリの逸品! 解説=三橋暁(裏表紙引用)
 
初読み作家さん。なんとなくタイトルに惹かれて。
 
舞台は1992年のイギリス、ケンブリッジ。十七世紀の学者ウィンダムが遺贈した施設図書館<ウィンダム図書館>で、男子学生の変死体が発見された。ケンブリッジ大学学生寮<セント・アガサ・カレッジ>の学寮付き保健師イモージェンはその奇妙な死体に疑問を抱き調査を始めるが…。
 
被害者のルームメイトの失踪、イモージェン宅に間借りする偏屈な古書コレクター教授の希少本盗難事件、被害者の予防接種、学内でのイジメ事件、被害者の泥棒疑惑などなど興味が失われない程度には魅力的な謎がたくさん散りばめられている。しかしウィンダム図書館の歴史や規則、ちょっと耳なじみのない本の御託や暦の改変にまで話が及ぶせいで全くノレなかった。。。とにかく読みづらい。もう少し訳文が、、と思っていたのだが、読後原書が93年の発行だと知り合点がいった。ちょっと古くさいのだ。保健師イモージェンの知的で情のあるキャラはいいと思うのだが内容がちょいマニアックだったなあ。ロマンスもなんだか中途半端だし。300ページと薄かったから読み通したけど、続編はもういいや。

三匹の子豚  (ねこ3.7匹)

真梨幸子著。講談社文庫。

「あたしの波瀾万丈な人生は、絶対“朝ドラ”向きだと思うのよ」 母の口癖が私の人生を狂わせた。 朝ドラ『三匹の子豚』が大ヒット。 脚本家として再び注目される斉川亜樹に一通の封書が届く。 叔母だという人物の扶養義務に関する書面だった。 聞いたこともない叔母の出現を境に絶頂だった亜樹の人生が翳っていく。(裏表紙引用)
 
真梨さんの文庫新刊。
相変わらずのイヤミスっぷりと人物相関図があってもなお混乱する複雑さ。正直完全に理解したかどうか自信がない。
 
プロローグで綴られる蛇岩鶴子による「毒油事件」(しかしなんちゅう名前かね)。これが現在の三姉妹、一美、二葉、三代子の人生をそれぞれ紐解きながら「実はあの毒油の真相は~~~!」の結末へ繋がってゆく。女のいやらしさを描いたら右に出る者はいない真梨さんは今作でも絶好調。特にそれぞれ出てくる母親たちの毒親っぷりときたら。。その反面、男たちが希に見るおばかに描かれていてそのイライラも募る。一見無関係そうな登場人物も、実はあそこで繋がっていたり意外な出自が判明したり。頭が混乱し煙が出そうになってきたところで毎度おなじみのサプライズ。ややこしいが、収拾はついたのでなかなかいい出来だったのではないかな~。

罪の轍  (ねこ3.7匹)

奥田英朗著。新潮文庫

昭和三十八年十月、東京浅草で男児誘拐事件が発生。日本は震撼した。警視庁捜査一課の若手刑事、落合昌夫は、近隣に現れた北国訛りの青年が気になって仕方なかった。一刻も早い解決を目指す警察はやがて致命的な失態を演じる。憔悴する父母。公開された肉声。鉄道に残された〝鍵〟。凍りつくような孤独と逮捕にかける熱情が青い火花を散らす──。ミステリ史にその名を刻む、犯罪・捜査小説。(裏表紙引用)
 
や、やっと終わった…。800ページ超えの奥田さんの大長編、4、5日かけてようよう読み終わりました。。辛かった。。
 
旧作「オリンピックの身代金」と同じく、戦後の昭和のお話。このへんの時代を描くのがお得意なのかな?ザ・昭和の時代背景がいい感じに出ていたと思う。本作の舞台は昭和38年の、オリンピックが開催される前年。礼文島で宇野寛治という漁師が仲間に騙され、窃盗の末船で流され、誰もが寛治は死んだと思われる、、というプロローグから始まる。生還した寛治は東京で暮らし始めるも、空き巣を繰り返す。やがて盗みに入った時計商の家で主人の他殺死体が発見される。容疑は寛治に向かうが――。そして浅草で発生した男児誘拐事件でも寛治の関与が疑われる。
 
誘拐事件が起きるまで300ページもある。。(途中、あらすじと内容が違う??と思って誤植を疑っていた)最初に発生した時計商殺しは寛治の仕業ではないと読者にわかっているのであまりハラハラしない。真相に推理やサプライズがあるわけでもないので中盤であっさり結着、なんだか肩すかし。前半はヤクザが大きく関わって寛治やその周りの人々との繋がりや動きが描かれている感じ、後半から誘拐事件の捜査に軸が移って刑事たちの奔走が長々長々~と描かれる。
 
いや、まあ、寛治にも色々助けてくれる人がいたり暗い過去が判明したり、刑事サイドも皆個性があって人情もあるので読みどころはあるのだけど。刑事ものの特徴として、ヤクザとの癒着や縄張り争いは切っても切れないのか、あまりそういう読み物が好きではない自分としてはちょっとウンザリ。その流れのまま、真相に驚きがあまりにもなさすぎるという驚き。え、うそでしょ、長々と読まされてコレで終わるの、と脱力。。。寛治のことは本当に生まれたところが悪かったと思うし同情の余地はあるのだけど、それでも罪は罪だから可哀想とも思わない。それを「考えさせられる」の極地まで高めてくれていれば感想は違ったかも。なんか怖いだけの人になってる。とにかく長かった、それだけ。感想あっさ。でも、新年1冊めコレにしなくて良かったわん^^;

教場X 刑事指導官 風間公親  (ねこ3.9匹)

長岡弘樹著。小学館文庫。

伝説の刑事指導官・風間公親の右目が光を失った。かつて逮捕した男に逆恨みされ、千枚通しで襲撃されたのだ。その後、T県内では連続刺傷事件が起きているが、犯人は逃亡中だ。復帰した風間は、現場で厳しい指導を続ける。失格の烙印を押された新人刑事は「交番勤務」に逆戻りだ。母親を失った少女の息づかい、生まれたばかりの乳児の火傷痕、放射線を観測する「キリバコ」――風間は、難事件の真相を完全に見通している。 月9ドラマ「風間公親ー教場0」原作にして、風間に警察官人生最大の転機が訪れるシリーズ第五弾。警察小説の金字塔、100万部突破!(裏表紙引用)
 
教場シリーズ第5弾。風間が襲撃され隻眼となり、刑事指導官として勤務していた頃の話。警察学校に異動する前になるのかな。風間に指導を受ける新人刑事たちの奮闘。
 
「硝薬の裁き」
元警察官であり現町工場社長は、妻を轢き殺し無罪となった男を射殺した。母親を失ったショックで口のきけなくなった娘の喉から異音が――。
新人刑事路子がアレルギー持ちだったことが解決のきっかけになる。路子のアレルギーを治した風間に痺れる。「刑務所に送ってやりたい」という言葉が自身に跳ね返ってくる。秀作。
 
「妄信の果て」
大学生の戸守は、マスコミから内定をもらうも担当教授から単位をもらえないことに焦り教授の自宅ベランダから突き落とし殺害した。
カンニングの法則、が生きている。でもこれ決定的証拠になるかな?言い間違え、って誰にもあるよね。
 
「橋上の残影」
自殺した恋人の復讐を果たしたOLの瑤子。被害者が身につけていたマッサージ機のようなものの正体とは――。
今話の刑事にはあまり裏設定がないかな。落ちたサコッシュは死んでも回収しておくべきだったね。
 
「孤独の胞衣」
シングルマザーになる決意をした千寿留は、父親である売れっ子工芸家に子どもを奪われそうになり殺害してしまう。
これは男がクズすぎて同情したくない。千寿留の出産に関する秘密にビックリ。ところで体型って産んですぐ元に戻るわけではないのでは。。胎盤とか残ってるよね。
 
「闇中の白霧」
闇サイトを経営している名越は、関係のあった女を殺害した。しかし名越には強迫性障害があり――。ウィルソンのキリバコ、知らなかった。放射線が事件を解決するとはなかなか面白い。
 
「仏罰の報い」
盲目の元教授清家は、娘へのDVをやめない夫を自宅で殺害。その驚愕のトリックとは――。モノを知らない娘だけならともかく、大人の、教授の男が殺す以外の手段を思い浮かばないはずないのにやりきれない話。失うものが大きすぎた。娘への愛ということなのかな。
 
以上。
数話新人刑事のキャラクターがあまり立っていないものもあり。風間は刑事指導官時代もやはりすごかったということで。このあと警察学校に入るのか。どれも面白かったが、警察学校が舞台のほうが面白いかな。

 

~2022すべ猫ランキングがすごい~

みなさまこんにちは。今年も良い本にたくさん出会えたでしょうか。私はまあまあです。新規開拓したのが良かったかな?ただいま29日の深夜です。30,31はブログ書けるか分からないので今のうちにササっと書いてしまおうという。。喪中なのに黒豆と栗きんとんは食べたいと言われた、イジメだイジメ。

 

今年の読書数は138冊でした。

再読はあまりしなかった(と言っても20冊くらいはしてるかも)です。10冊くらいは面倒で忙しくて記事に出来なかった本があるのですが、ランキングに入るような本ではないので大丈夫です(なにが)。海外本はいつもより少なめだったのですが、打率は国内より高かったような。しかしどちらも1位2位は1秒も迷わなかったですね。

 

では、早速。

国内編

1.方舟  夕木春央

2.流浪の月 凪良ゆう

3.六人の嘘つきな大学生 浅倉秋成

4.死刑にいたる病 櫛木理宇

5.クジラアタマの王様 伊坂幸太郎

6.殺人犯 対 殺人鬼 早坂吝

7.ただいま神様当番 青山美智子

8.#真相をお話しします 結城真一郎

9.あの日、君は何をした まさきとしか

10.死にがいを求めて生きているの 朝井リョウ

次点/いけないⅡ 道尾秀介、イノセント・デイズ 早見和真

 

海外編

1.キュレーターの殺人 М.W.クレイヴン

2.殺しへのライン アンソニーホロヴィッツ

3.フルスロットル ジェフリー・ディーヴァー

4.サスペンス作家が人をうまく殺すには エル・コシマノ

5.秘密 ケイト・モートン

6.優等生は探偵に向かない ホリー・ジャクソン

7.特捜部Q ーアサドの祈りー ユッシ・エーズラ・オールスン

8.匿名作家は二人もいらない アレキサンドラ・アンドリューズ

9.彼は彼女の顔が見えない アリス・フィーニー

10.アリスが語らないことは ピーター・スワンソン

次点/マーダー・ミステリ・ブッククラブ C.A.ラーマー、オクトーバー・リスト ジェフリー・ディーヴァー

 

以上~。

いかがでしょうか。どれも誰が読んでも面白い本ばかりなのでご参考あれ。

来年も多分同じくらい読めると思うのでがんばります。ランキング本も目をつけている本が多々ありますゆえ。そして新規開拓中なので、ゆきあやにオススメの作家さんなどあればどしどしコメントお願いします。

それでは駆け足ですいませんがこれにて本年の記事は最後といたします(睡魔に負けるお年頃)。皆さんのランキング記事めぐりもしますね~。来年も変わらぬお付き合いをよろしくお願いします~。

 

 

#真相をお話しします  (ねこ4匹)

結城真一郎著。新潮社。

私たちの日常に潜む小さな"歪み"、
あなたは見抜くことができるか。

家庭教師の派遣サービス業に従事する大学生が、とある家族の異変に気がついて……(「惨者面談」)。不妊に悩む夫婦がようやく授かった我が子。しかしそこへ「あなたの精子提供によって生まれた子供です」と名乗る別の〈娘〉が現れたことから予想外の真実が明らかになる(「パンドラ」)。子供が4人しかいない島で、僕らはiPhoneを手に入れ「ゆーちゅーばー」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとびとがやけによそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)など、昨年「#拡散希望」が第74回日本推理作家協会賞を受賞。そして今年、第22回本格ミステリ大賞にノミネートされるなど、いま話題沸騰中の著者による、現代日本の〈いま〉とミステリの技巧が見事に融合した珠玉の5篇を収録。(紹介文引用)
 
初めましての作家さん。ちょっと前から話題になっていて見送っていたのだけど、今年のランキングにちょこちょこ入っていたのでやはり読むことに。なかなか楽しめた。
 
「惨者面談」
家庭教師業者で営業のアルバイトをする大学生が、訪問した家庭で様々な違和感を抱く。母親の外さない手袋、使えないトイレ、割れた花瓶などから恐ろしい真相を暴く。怒涛の伏線回収からのどんでん返しが効いてる。
 
「ヤリモク」
42歳の妻子持ちの男がマッチングアプリで出会った若い女。簡単に<お持ち帰り>できたことに疑問を感じた男は。。。これは簡単に真相が見破れるタイプのものだが、タイトルの真の意味や動機の狂った感じなど読みどころが多かった。
 
「パンドラ」
不妊の末娘を授かった男は、同じような夫婦の役に立てばと精子提供に登録したが、会うことになった希望者の女性の様子がどうもおかしい。連続殺人犯の冤罪問題が出てくるのである真相を想像していたが外れた。このお話だけは明かされる何か、が小さいような。心理的に謎な話なのでちょっと浮いていたかも。
 
「三角奸計」
大学時代の友人3人でリモート飲み会を開催。しかしそのうちの1人が「あいつを絶対に殺す」とチャットで発言する。仙台と大阪という距離や声を出せないという条件をうまくトリックとして使っていたと思う。リアリティは別として、ここまでいくと怖い。
 
「#拡散希望
離島で暮らす小学生4人グループ。ある日そのうちの1人がスマホを持ち始めたことで彼らに「ゆーちゅーばーになりたい」という夢が芽生え始めた。これは全く想像できなかった、本当にこういうユーチューバーがいそうなのが怖い。
 
以上。
「惨者面談」「#拡散希望」がやはりズバ抜けてたかな。文章は読みやすいし、サクサクと話が転がるのも今の作家さんぽくていい。テーマも現代を象徴したものが多く、共感を得やすいんじゃないかな。どれも過激な内容ではあるが、きちんと論理立って話がまとまるのでミステリーファンにも受けがいいと思う。またこういう作品が出たら読んでみたい。