すべてが猫になる

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リカバリー・カバヒコ  (ねこ4.2匹)

青山美智子著。光文社。

5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。(紹介文引用)
 
やっと回ってきた青山さんの話題作。
公園に設置されたアニマルライド「カバヒコ」をめぐる5つの物語。どの物語も温かく前向きでしんみりくる。とても良かった。
 
「奏斗の頭」
高校生の奏斗は、新しく引っ越してきた町の高校生活で大きく成績を落とし、落ち込む日々。そんな時公園で出会ったクラスメイトの女子と仲良くなり――。
テストの点数を改ざんするのも、やる気をなくすのも良くない生き方だと分かる。修復するのは頭脳ではなくて傲慢さや見栄、自身の怠慢だったことに気づけた奏斗にホっとした。
 
「紗羽の口」
幼稚園児を育てる母、紗羽は新しいママ友たちとうまくやれず、家庭内でも自分自身の存在意義に違和感を感じていた―。
お子のみずほちゃんの機転に感動。現実にこういうトラブルはあるのだろうな。でもやっぱり、どれも元々「自分」を持っていれば回避できそうな「あるある」だけども。なんとなく生きてきた人ならともかく、もと優秀なアパレル店員にそれがないとは思えないのだが。
 
「ちはるの耳」
耳管開放症にかかり休職せざるを得なくなったウェディングプランナーのちはる。好きだった同僚が、自分にとって良くない存在だった同僚の女性と交際しているというのはさぞやキツいだろう。結局は心の病なのかな。不安は想像力だという言葉が響いた。もとお客さんからの手紙にもホロリ。
 
「勇哉の足」
駅伝に出ることがイヤで仮病を使った勇哉は、やがてその足が本当に痛み出してしまった。クジで足の遅いスグルくんがリレーの選手に選ばれ、それでも懸命に練習をするスグルくんの姿に心が打たれる。日常のひとつひとつをしっかり大事にして生きること、それに小学生で気づけることが凄い。
 
「和彦の目」
ここでカバヒコやクリーニング屋さん、などなど全てが繋がった。今まで疎遠にしていた親といきなり距離を詰めようとしても拒絶されて当たり前かと。人って、自分が変わろう、いい人になろう、と決意しても相手のあることの場合そう都合良く過去をなかったことにはできないよね。50代らしい解決の仕方で良かった。あとこんなできたヨメさんはこの世にいません。
 
以上。
カバヒコというより、サンライズ・クリーニングのおばあちゃんが実質の立役者という感じだね。みんなが、トラブルそのものよりも心のありようが原因だったという一貫したテーマもあって、連作ものとしてはこれを上回るものはそうそうないのではないかと思う。私も年の功でトラブルの原因となるその心については先に回答がわかるのだけれど、それを裏切らないのもいい。でもやっぱり同性で自分に近い年齢の主人公のほうが共感しやすい。自分にもピュアな心が残っていたのだなとホっとしたり。。
とにかく、良い作品集。青山作品はたくさん読んできたけど1,2を争う出来かも。