すべてが猫になる

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爆弾  (ねこ3.8匹)

呉勝浩著。講談社

些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。 たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。 直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。 「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。 警察は爆発を止めることができるのか。 爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。第167回直木賞候補作。 (紹介文引用)
 
読んだことのない作家さんだが今年のこのミスランキング1位だったので読んでみた。電書で「試し読み」してみたところ、読みやすそうでもあったので。
 
結論から言うと、確かに面白かった、爆弾テロものでこういう作風のものは初めて読んだと思う。ページの半分が取調室での容疑者と警察との攻防で占められていて、容疑者の知能は極めて高い。容疑者が仕掛ける言葉のゲームや発言からヒントを読み取り爆弾のありかを推理する刑事など、ちょっとした頭脳クイズをやらされているよう。不祥事の果てに自殺した警察官や新人警官のガンバリなど、脇のストーリーもしっかり固められていて良いと思う。真相も意外性があって読み応えあったしね。
 
あくまで自分の感触だけど、誰でも本心では他人などどうなってもいい、みたいな、「命の選択」「善悪の区別」をやたらに問う作品だなと思った。人間同士のマウンティングや正義と偽善のあぶり出しは多少なりともこういう作風には必要な要素だが、あまりにもそればっかりでウンザリしかけた。登場人物の本音の部分も多く、それがどうにもどれも気色悪い。等々力刑事の長谷部推しは特に。長谷部の行為は死者の尊厳を貶める行為であって過去の功績や正義感が帳消しになっても仕方ないと思うんだよなあ。
 
まあ、「ささっと読めちゃう面白さ」で言えば文句なしかと思う。筋道立った動機や容疑者の掘り下げがないので、謎解きモノとしてスッキリしたい人には不向きかも?