すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

春にして君を離れ/Absent in the Spring  (ねこ4匹)

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アガサ・クリスティー著。中村妙子訳。ハヤカワ・クリスティー文庫

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。(裏表紙引用)
 
実は初読。クリスティーのミステリ系は10代で読破しているのだが、この作品はミステリではないことと内容が大人っぽいので避けてきた。そろそろ理解できるかなと思い挑戦することに。ファンに人気らしいし、たまたま本屋にオススメとして積んであったというのもある。
 
感想を巡ると、やはり「怖かった」という意見が多い。確かに、怖い。身もフタもない言い方をすると、3人の子どもを育て上げ、良き夫に恵まれ、家事はそつなくこなし、社会活動にも貢献している意識高い系中年女性の、大いなる勘違い人生を描いた物語である。嫁いだ娘に会うために中東を1人旅して回るも、なかなか電車(?)が来ない。持ってきた本も読み切ってしまい、話し相手もおらず、人生でなかなかない「何もしない」を体験したことで、家族の自分に対する気持ちに気づいてしまうという内容。
 
この作品の怖いところは、結局主人公が変わらないことだと思う。誰にでも多かれ少なかられ自意識過剰な部分はありがちだと思うのだが、伴侶にこういう風に思われたら終わりだ。だって他人だもの。それでさらに生活が続いていくってもうホラーかと。。
自分が更生したとしても、受け入れられるか、というところはもう相手側の領域よね。まあ大人の小説ですわ。
 
サスペンス、とあるから誰か死ぬのかとずっと待ってしまった。。

牧師館の殺人/The Murder at the Vicarage  (ねこ3.8匹)

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嫌われ者の老退役大佐が殺された。しかも現場が村の牧師館の書斎だったから、ふだんは静かなセント・メアリー・ミード村は大騒ぎ。やがて若い画家が自首し、誰もが事件は解決と思った…だが、鋭い観察力と深い洞察力を持った老婦人、ミス・マープルだけは別だった!ミス・マープルの長篇初登場作を最新訳で贈る。(裏表紙引用)
 数ヵ月前に読んで投稿するのを忘れていたので投下。。。
 
記念すべきミス・マープルシリーズ第1弾。
 
セント・メアリ・ミード内で起きた牧師館での大佐殺人事件をミス・マープルが暴く。これぞミス・マープルという感じ。代表作ではないが、一発目からマープルの鋭い観察眼がいかんなく発揮されている良作。
 
牧師館の書斎で、頭を撃ち抜かれて殺されていたプロザロー大佐。被害者は誰が殺してもおかしくなく、マープル曰く「7人の容疑者」がいるというような嫌われ者だった。止まっていた時計が実はもともと15分進められていたことや、時刻の入った大佐の書きかけの手紙、すぐに自首してきた画家、森の中のいつもと違う銃声、手ぶらで入ってきた夫人。ここの村の時計は全部狂っているようなので笑、アリバイや犯行時刻が全然当てにならない。読者としては、マープルが目撃したものと死亡時刻だけが疑う必要のない要素。人間はウソをつくものだし、恋愛もするし、殺人以外の犯罪も犯す。見た目の清さなんてものも当てにならないわけで。正体のわからない神出鬼没のレストレンジ夫人や変わり者の考古学者、牧師の頭を引っ掻き回す少年や全く仕事のできないメイドなど、怪しくも面白い人々がたくさん。この中の何人かは事件と本当に関係ないんだろうなあ~~と思いながらも、疑惑が晴れた2人の人物や、語り手の牧師ですらミステリ読みとしては信頼してはいけない。アリバイ崩し、犯人当てとしてはこれほど基本のフォーマットに沿ったものはないだろう。しかもそのフォーマットを作り出したのは他ならぬクリスティーなのだ。なにびとであっても、疑わなければならない。
 
犯人のアリバイ崩しはマープルが人々以外のものさえ観察していたからこそ導き出せたもの。それにしてもセント・メアリ・ミードの皆さん(特におばあさんたち)のうわさ好き加減といったら。シャンプー変えただけでもうわさになりそう。そういえば犯人像も俗物だった。ほっこり終わるエンディングも含めて、マープル第一作にふさわしい。
 
 

踊る彼女のシルエット  (ねこ3匹)

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柚木麻子著。双葉文庫

義母が営む喫茶店を手伝う佐知子と芸能事務所でマネージャーをする実花。出会ってから十六年。趣味にも仕事にも情熱的な実花は、佐知子の自慢の親友だった。だが、実花が生み育てたアイドルグループが恋愛スキャンダルで解散に追い込まれたのをきっかけに、彼女は突然“婚活"を始める。「私には時間がないの」と焦る実花に、佐知子は打ち明けられないことがあり……。幸せを願っているのに、すれ違ってしまう二人が選ぶあしたとは。揺れうごく女の友情を描く長編小説、待望の文庫化。(単行本『デートクレンジング』より改題) (裏表紙引用)
 
柚木さんの文庫新刊。「デートクレンジング」の改題らしいが、タイトルはそっちのほうがインパクトあって良かったんじゃないかな…。どちらでも内容には合っているけれど。
 
 今回の主人公はちょっとキツい。35歳の既婚女性・佐知子が、アイドルのマネージャーをやっている友だちを推す、という感覚がどう頑張っても理解できなくて…。スナックで振り付けバリバリで熱唱するとかも…周りがノってるならともかくだな。。怖いよ。。これならまだ、35歳で独身で焦って婚活して空回りしている実花のほうが人間らしいと思った。婚活仲間の芝田の言動とか見てるとゾっとする。そこまでして世間に迎合して結婚しなきゃいけないかね?婚活市場のことは知らないけれど、男が安心する無難で野暮ったい服装がマストとか男との最初の会話で固有名詞を出してはいけないとか、芝田の掲げるマニュアル笑えなかった。ちょっとこの作品自体が男性全体を貶めすぎじゃない?実花や佐知子の手にかかると、婚活相手の松本さんや田山さんがその実態以上に「勝手な男」に認定されていて、いやいや…と突っ込みたくなった。
 
まあそんな感じで終始イライラ~。。とはいえこの作品全体のテーマは、「デートをぶっつぶせ」。女は適齢期になると結婚しなくてはいけない、結婚したら出産しなくてはいけない。性的な目で見られ、擬似恋愛の相手として存在しがちな女性アイドルを引き合いに出すことで、ジェンダー問題に一石を投じている感じはする。それ自体に甘んじている女性も決して少なくないと思う。この問題は佐知子や実花、個人がどうこう騒いだところで、社会を変えなくてはどうしようもない。そして、女性はライフステージが変わると今までの人間関係が崩れる、というのも事実。それならそれでそこまでの関係だし、同じステージに立てば関係が修復する場合もあるし、新たな地で別の人間関係を築いていけばいいのでは。
 
そんなこんなで後半まではそこそこ頷ける部分もあったのだが、バスツアーでステージが盛り上がって大団円、みたいな展開になって一気に白けてしまった。なんなんだシェアハウスって。20そこそこの女の子のステージで、35歳の素人の実花に対し客席で熱狂する35歳の妊婦・佐知子。。なんかホラーなんですけど。。人目を気にせず好きなものは好きでいていいには賛成するけれど、方向が狂っている気がして、自由とは?開放とは??と首を傾げる作品でした。もっと普遍的で共感できるものがいいな。。まあ、さすが柚木さんの文章ってことで一気に読めるし面白いのは間違いないのだけど。

東野圭吾公式ガイド 作家生活35周年ver.

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東野圭吾作家生活35周年実行委員会 編。講談社文庫。

著作100冊目前、全世界で一億部を突破! 日本で、世界でその人気を誇る東野圭吾。 ミステリーもファンタジーも、シリアスもコメディも、すべてをベストセラーにしてきた大人気作家の35年間は挑戦の連続だった。 25周年版公式ガイドに新作の自作解説を加え、貴重なロングインタビューを収録した決定版!(裏表紙引用)
 
東野さんの作品は、エッセイ以外の文庫をすべて読破している。ので、かなり熱心なファンと言っていいと思う。基本的には本格ミステリ畑の人間なもので声を大にして公言する機会も自覚もそれほどなかったのだが、この公式ガイドを読んでいるうちに改めて凄い作家だという気持ちが湧き上がって来た。最初、べるさんのところで興味を持って図書館予約し、早速廻ってきたのでいそいそと読み始めたのだが…全作品自作解説を読んでいるうちに、これはやばい、サラっと読み捨てる本ではない、手元に置いて貴重な資料として保管しておくべきだと読むのを中断し、本屋に買いに行った。再読祭りの時に絶対役立つなと思って。
 
東野さんが最初は全く売れなかった作家だということは知っていた。自分の読書熱が最も高かった時代に登場した作家さんだから、我々本格ミステリ派の人種から(当時はそっちが主流だったのだ)東野作品がどういう目で見られていたのかも肌で知っている。かくいう自分も、気まぐれに読んだ「十字屋敷のピエロ」が期待ハズレで、その1冊で見限ってしまった経験がある。なぜまた読み始めたのかというと、東野作品が話題になり始めたから。その話題になっていた「秘密」も「白夜行」も自分的にはハズレで(石投げないで下さい)、おかしいな、どれだったら合うんだろう?と手当たり次第話題作に手を出した。本当に東野さんを好きになったのはその後ぐらいかな。どの作品たちだったのかはのちのランキングで。
 
まあそういう自分の東野遍歴も含めてこのガイドを熟読していると、あの作品やあの作品も、試行錯誤のすえ自信を持って世に出した作品だったんだなあと申し訳ない気持ちになったり。そして本を読まない人々が読んでも楽しめる作品を、という徹底したエンタメ気質に東野さんのプロ根性を見た。意外な、と言っては失礼すぎるが、もっと斜に構えた方だと思っていたのだ。直木賞が獲れなくて腐っていた時期などの話はなんだか懐かしいなと思う。今でこそ知らない人はいないベストセラー作家だが、100人に1人しか読んでいない計算になる、という謙虚な姿勢もあり、猫やスノーボードを愛する可愛らしさもあり、東野さんの普段は見られない人間らしさに触れることもできて良かった。
 
このガイドの順番通りに再読祭りしたくてたまらなくなってるんだけど、今別の作家さん再読祭りしてるから(と言っても月1、2冊ペースだけど)いつになるやらだなあ。。それとも読みこぼしてるエッセイ読んじゃうかな。。
 
ガイドの巻末に、ファンによる好きな作品ランキングが掲載されていた。まあ、順当という感じ。映画化された作品がやはり強いね。便乗してわたくしのランキングでお目汚し。↓
1「手紙」
2「新参者」
3「容疑者Xの献身」(原作というより映画)
4「時生」
6「パラレルワールド・ラブストーリー」
8「変身」
9「マスカレード・ナイト」
10「むかし僕が死んだ家」
 

僕の人生には事件が起きない  (ねこ3.9匹)

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岩井勇気著。新潮社。

日常に潜む違和感に芸人が狂気の牙をむく、 ハライチ岩井の初エッセイ集! 段ボール箱をカッターで一心不乱に切り刻んだかと思えば、 組み立て式の棚は完成できぬまま放置。 「食べログ」低評価店の惨状に驚愕しつつ、 歯医者の予約はことごとく忘れ、 野球場で予想外のアクシデントに遭遇する…… 事件が起きないはずの「ありふれた人生」に何かが起こる、 人気エッセイがついに刊行! 自筆イラストも満載。(紹介文引用)
 
お笑いコンビ「ハライチ」の岩井さんが2018年から「小説新潮」に連載していたエッセイをまとめたもの。旦那に「借りて来て欲しい」と言われたので、数ヵ月待たされたが借りてきた。2人ともお笑い芸人が好きという共通点があるし、ハライチの漫才は私大好きなので、2人で読めばまあ我々夫婦の会話も弾むかと。先に読んだ旦那の評価は「ん~、まあまあ!これとこれとこれが面白かった!」だったので、思ったよりは弾まなかったが…。
 
あまり芸人に詳しくない人には「ハライチの澤部じゃない方」と言えば伝わるだろうか。とは言えネタを書いているのは岩井さんのほうで、ノリボケ漫才という独特の世界観を生み出したのも岩井さんの発想力。「なんか書けそう」というパブリックイメージを押し付けられてるな~と思いつつ執筆を受けたそうだが、ご本人に読書の趣味はないし、文章も書いたことはないとのこと。これでいきなりこれだけの文章が書けるのだから、やはり只者じゃないと思うが…。タイトルの通り、芸人の人生だからって面白いことが日常起きるわけはなく、普通の人と同じ起きてご飯食べてお風呂入って寝るだけだとうそぶく岩井さん。しかし決して楽しめないわけではない。平凡な日常が、岩井さん独特の目線と人生を少し面白くしようとする小さな行為の積み重ねで輝いて見える。そんな親近感のわく楽しいエッセイだった。
 
どれも独特で面白かったが、食べログの評価が低い店に行ったらこうなった、という話や芸能人をよく乗せるというタクシーの運転手がいきなり澤部さんの悪口を言い出して車内が凍りつき、(岩井さんが乗っているとは気づかない)岩井さんが降車時にかました一言の話、法事で会った縁の薄い親戚たちに困らされた話、「俺は岩井ぐらい成功している」と言いたいがために呼び出された親しくない同級生の話など、ひねくれた目線がとても痛快。名前は出していないけれど、仕事関係のものはこれ本人は読んだら自分のことだって分かるよね?と心配になるエピソードもちらほら。
 
もっと毒舌家だと思っていたのでそこは意外だったが、言葉選びのセンスは面白いし岩井さんのありのままの人間性がそのまま出ているところも魅力的。書き下ろしの「澤部と僕と」ではずっと澤部さんの悪口(笑)が続くのでエエエエエと思ったが、なんだかんだ強い信頼と絆があるもよう。面白かった!これいつかまた読みたいな。

自殺予定日  (ねこ4匹)

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秋吉理香子著。創元推理文庫

「美しく強かな継母が父を殺した」再婚してわずか一年半足らずで父が急死。遺産とビジネスを受け継ぎ活躍する継母の姿にそう確信した女子高生の瑠璃。自らの死で継母の罪を告発しようと訪れた自殺の名所で“幽霊”の少年と出会い、ある約束をする。六日後―それが瑠璃の自殺予定日となった。瑠璃は父の無念を晴らせるのか?!すべての予想を裏切るノンストップ・ミステリ!(裏表紙引用)
 
秋吉さんの「暗黒女子」がなかなか良かったので、タイトルが気になるこちらにも挑戦。
 
主人公は高校生の瑠璃。レストランを経営する両親を持ち、自らも家事を得意として幸せに暮らしてきたが、母の死で状況は一変。父が再婚相手に選んだれい子に瑠璃も最初は懐いていたが、父の突然死はれい子による犯罪だったと確信。死をもってカリスマ・フードプロデューサーれい子を断罪しようと自殺の名所・佐賀美野村の森で自死を図るが失敗してしまう。その現場で出会ったのは、かつてそこで自殺を遂げたという少年・裕章の幽霊だった。瑠璃は裕章と共にれい子の犯罪の証拠を掴んでから自殺することを決意する。
 
主人公の瑠璃の思い込みの激しさが不自然なほどなので、れい子は瑠璃の思っているような人物ではないんだろうな、ということは読んでいれば分かる。反転させるだけならつまらない小説になっていただろうが、数々の伏線と意外な真相があって想像の域を超えてきた。イヤミスと見せかけて、瑠璃がたくさんのあたたかい人々と出会い成長する感動ストーリーだったことも意外だったと言える。こういうふうにホロリと涙する爽やかさは覚悟していなかったので、単純ながらも自分の胸に響いた。瑠璃が風水に頼りきっているところやそれで友だちを失くすところなど、決して好感の持てる女の子ではなかったのも逆に作用したのかな、って。
 
イヤミスを期待したらガッカリする作品かも。私はかなり好みかな。次もなにか読もう。

君たちは絶滅危惧種なのか?  (ねこ3.7匹)

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森博嗣著。講談社タイガ

国定自然公園の湖岸で、釣りをしていた男性が襲われ大怪我を負った。同公園内の動物園では、1カ月ほどまえスタッフ一人が殺害され、研究用の動物とその飼育係が行方不明になっていた。 二つの事件以前から、湖岸で正体不明の大型動物が目撃されており、不鮮明ながら映像も存在した。兵器使用を目的とした動物のウォーカロンか? 情報局の依頼を受け、グアトらは動物園へ赴く。(裏表紙引用)
 
WWシリーズ第5弾。え、もうそんな?どれもだいたい内容同じだから分からなくなってきた。前作から少し期間が開いたのでなおさら。
 
さて今回のグアトとロジはリゾート地の湖に浮かぶヘレン・インゼル島へ。ドイツ情報局からグアトに「ウォーカロンかどうかの判定」を依頼されたのだ。自然保護区域内の動物園ではスタッフ(実は警察官)が死亡、動物とスタッフが1人行方不明になっているのだが…。
 
とうとうミサイルで攻撃されたグアト。派手ですな。恐竜やらシャチやら、出てくる動物たちもデカイ。この世界にまだヴァーチャルじゃない動物園があることにビックリだけども、ほぼ動物もウォーカロンらしい。まあそうなるわな。まあ研究所や情報局やらがいらん研究してるんだろう、ってことで事件は想像の範疇で解決。グアトってこんな甘えん坊だったっけか。ロジにメロメロとしか思えないシーンがちらほらあって、そりゃセリンも席を外したくなるわな、と下世話な感想しか浮かばない楽しい作品であった。