すべてが猫になる

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牧師館の殺人/The Murder at the Vicarage  (ねこ3.8匹)

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嫌われ者の老退役大佐が殺された。しかも現場が村の牧師館の書斎だったから、ふだんは静かなセント・メアリー・ミード村は大騒ぎ。やがて若い画家が自首し、誰もが事件は解決と思った…だが、鋭い観察力と深い洞察力を持った老婦人、ミス・マープルだけは別だった!ミス・マープルの長篇初登場作を最新訳で贈る。(裏表紙引用)
 数ヵ月前に読んで投稿するのを忘れていたので投下。。。
 
記念すべきミス・マープルシリーズ第1弾。
 
セント・メアリ・ミード内で起きた牧師館での大佐殺人事件をミス・マープルが暴く。これぞミス・マープルという感じ。代表作ではないが、一発目からマープルの鋭い観察眼がいかんなく発揮されている良作。
 
牧師館の書斎で、頭を撃ち抜かれて殺されていたプロザロー大佐。被害者は誰が殺してもおかしくなく、マープル曰く「7人の容疑者」がいるというような嫌われ者だった。止まっていた時計が実はもともと15分進められていたことや、時刻の入った大佐の書きかけの手紙、すぐに自首してきた画家、森の中のいつもと違う銃声、手ぶらで入ってきた夫人。ここの村の時計は全部狂っているようなので笑、アリバイや犯行時刻が全然当てにならない。読者としては、マープルが目撃したものと死亡時刻だけが疑う必要のない要素。人間はウソをつくものだし、恋愛もするし、殺人以外の犯罪も犯す。見た目の清さなんてものも当てにならないわけで。正体のわからない神出鬼没のレストレンジ夫人や変わり者の考古学者、牧師の頭を引っ掻き回す少年や全く仕事のできないメイドなど、怪しくも面白い人々がたくさん。この中の何人かは事件と本当に関係ないんだろうなあ~~と思いながらも、疑惑が晴れた2人の人物や、語り手の牧師ですらミステリ読みとしては信頼してはいけない。アリバイ崩し、犯人当てとしてはこれほど基本のフォーマットに沿ったものはないだろう。しかもそのフォーマットを作り出したのは他ならぬクリスティーなのだ。なにびとであっても、疑わなければならない。
 
犯人のアリバイ崩しはマープルが人々以外のものさえ観察していたからこそ導き出せたもの。それにしてもセント・メアリ・ミードの皆さん(特におばあさんたち)のうわさ好き加減といったら。シャンプー変えただけでもうわさになりそう。そういえば犯人像も俗物だった。ほっこり終わるエンディングも含めて、マープル第一作にふさわしい。