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僕の人生には事件が起きない  (ねこ3.9匹)

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岩井勇気著。新潮社。

日常に潜む違和感に芸人が狂気の牙をむく、 ハライチ岩井の初エッセイ集! 段ボール箱をカッターで一心不乱に切り刻んだかと思えば、 組み立て式の棚は完成できぬまま放置。 「食べログ」低評価店の惨状に驚愕しつつ、 歯医者の予約はことごとく忘れ、 野球場で予想外のアクシデントに遭遇する…… 事件が起きないはずの「ありふれた人生」に何かが起こる、 人気エッセイがついに刊行! 自筆イラストも満載。(紹介文引用)
 
お笑いコンビ「ハライチ」の岩井さんが2018年から「小説新潮」に連載していたエッセイをまとめたもの。旦那に「借りて来て欲しい」と言われたので、数ヵ月待たされたが借りてきた。2人ともお笑い芸人が好きという共通点があるし、ハライチの漫才は私大好きなので、2人で読めばまあ我々夫婦の会話も弾むかと。先に読んだ旦那の評価は「ん~、まあまあ!これとこれとこれが面白かった!」だったので、思ったよりは弾まなかったが…。
 
あまり芸人に詳しくない人には「ハライチの澤部じゃない方」と言えば伝わるだろうか。とは言えネタを書いているのは岩井さんのほうで、ノリボケ漫才という独特の世界観を生み出したのも岩井さんの発想力。「なんか書けそう」というパブリックイメージを押し付けられてるな~と思いつつ執筆を受けたそうだが、ご本人に読書の趣味はないし、文章も書いたことはないとのこと。これでいきなりこれだけの文章が書けるのだから、やはり只者じゃないと思うが…。タイトルの通り、芸人の人生だからって面白いことが日常起きるわけはなく、普通の人と同じ起きてご飯食べてお風呂入って寝るだけだとうそぶく岩井さん。しかし決して楽しめないわけではない。平凡な日常が、岩井さん独特の目線と人生を少し面白くしようとする小さな行為の積み重ねで輝いて見える。そんな親近感のわく楽しいエッセイだった。
 
どれも独特で面白かったが、食べログの評価が低い店に行ったらこうなった、という話や芸能人をよく乗せるというタクシーの運転手がいきなり澤部さんの悪口を言い出して車内が凍りつき、(岩井さんが乗っているとは気づかない)岩井さんが降車時にかました一言の話、法事で会った縁の薄い親戚たちに困らされた話、「俺は岩井ぐらい成功している」と言いたいがために呼び出された親しくない同級生の話など、ひねくれた目線がとても痛快。名前は出していないけれど、仕事関係のものはこれ本人は読んだら自分のことだって分かるよね?と心配になるエピソードもちらほら。
 
もっと毒舌家だと思っていたのでそこは意外だったが、言葉選びのセンスは面白いし岩井さんのありのままの人間性がそのまま出ているところも魅力的。書き下ろしの「澤部と僕と」ではずっと澤部さんの悪口(笑)が続くのでエエエエエと思ったが、なんだかんだ強い信頼と絆があるもよう。面白かった!これいつかまた読みたいな。