すべてが猫になる

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白夜に惑う夏/White Nights  (ねこ3.6匹)

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アン・クリーヴス著。玉木享訳。創元推理文庫

シェトランド島に夏がやってきた。人びとを浮き足立たせる白夜の季節が。地元警察のペレス警部が絵画展で出会った男は、次の日、桟橋近くの小屋で道化師の仮面をつけた首吊り死体となって発見された。身元不明の男を、だれがなぜ殺したのか。ペレスとテイラー主任警部の、島と本土をまたにかけた捜査行の果てに待つ真実とは?現代英国ミステリの精華“シェトランド四重奏”第二章。(裏表紙引用)
 
シェトランド四重奏>シリーズ第2弾。前作が冬だったので次は春かと思いきや、シリーズとしては冬→夏→春→秋、という順番らしい。
 
ということで今回の舞台はシェトランド島の夏。観光客が賑わうということで過ごしやすそうに感じるが、白夜ということで慣れない外国人には辛そう。暗くならないんじゃ寝られないよね。実際、今回の事件も元はよそ者が引き起こしたものだし。今回の犯行動機や犯人の性質を鑑みれば、白夜が精神をちょっと不調にしてしまっているところもあるのかな、なんて印象も。
 
ところでペレス警部はシンママのフランとの仲がなかなか進展しなくてもどかしいな。両思いなのに、お互いの過去やなかなか進展しない事件が邪魔をしてたり?単純に考えたらペレス警部に根性がないだけな気がしないでもないが。。まあやることはやってる。
捜査のパートナー、テイラーはペレスとは真逆な感じのキャラ。凸凹コンビとしては面白味があるかも。あまりテイラー好きじゃなかったけど。。聞き込みでイライラしたり、名誉欲が強かったり。今回でコンビ解消っぽいけど。でもペレスのテイラーの評価、「能力がない」は違うと思う。いないならいないでスパイスがないかなあ。
 
うーん、まだ2作目だが既に飽きてきたどうしよう。。だらだらと冗長な上に、前作と色々似てるんだよね。。結局、何も秘密にできない狭い島内の人間関係が尾を引いているところとか。既視感ありすぎて。。しばらく距離を置くことになりそう。それで問題なさそう。

かがみの孤城  (ねこ3.8匹)

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辻村深月著。ポプラ社文庫。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。 輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。 そこには“こころ”を含め、似た境遇の7人が集められていた。 なぜこの7人が、なぜこの場所に―― すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。 本屋大賞受賞ほか、圧倒的支持を受け堂々8冠のベストセラー。(上巻裏表紙引用)
 
話題になっていた辻村さんのジュブナイル小説
上下巻だけど、字が大きいし若向けなのでするするっと読めた。
 
主人公は、学校で理不尽なイジメに遭い不登校児となったこころ。ある日こころが自分の部屋にいると、突然鏡が光り始める。恐る恐る踏み入れた鏡の中には、ファンタジー映画で見たような孤城がそびえ立っていた。そして、そこにはこころと同じ境遇の同年代の少年少女たちが集められていて……。
 
こころが受けたイジメの酷さにムカムカしながら読んだ。担任もあてにならないし。説明しないのだからそりゃ分かるわけないのだが、こころのような繊細な少女が、大人にきちんと説明できない気持ちは分かる。この年代の子どもにとって、信頼できる大人かどうかというのは重要なことなのだ。母親やフリースクールの先生が心ある大人でまだ良かった。リアルの世界では、光る鏡も頼れる大人もいないのだと思うと、単純にこの物語を許容するばかりではいけないな、とも感じたがそれは野暮だしこの物語が多少なりともそういう子どもたちの支えになればと願う。
 
さて感動ストーリーに涙した、というだけのものではない。こころたちに仕掛けられたある大きな謎とその丁寧な伏線の数々がやはり読みどころで、ミステリ読みとしてはこちらのほうに評価の針が振った。全然気付かなかったもんね。カ〇ットのところでおや?とは思ったのだが。トリックそのものが人と人の絆に繋がるあたりさすが他の作家の追随を許さない辻村作品、といったところ。

まともな家の子供はいない  (ねこ3.8匹)

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津村記久子著。筑摩書房

一週間以上ある長い盆休みはどう過ごせばいいのだろう…気分屋で無気力な父親、そして、おそらくほとんど何も考えずに、その父親のご機嫌取りに興じる母親と、周りに合わせることだけはうまい妹、その三者と一日じゅう一緒にいなければならない。…」14歳の目から見た不穏な日常、そこから浮かび上がる、大人たちと子供たちそれぞれの事情と心情が、おかしくも切ない。(紹介文引用)
 
津村さん2冊目。以前読んだ「ポトスライムの舟」がなかなか良かったので。
 
中学生のセキコは家にいつもいる父親が嫌で、学校や塾の時間以外は図書館や友だちの家で過ごしている。働かず、家ではいつもゲームをして言い訳ばかりの父親がいたらそりゃ多感な中学生には地獄だろう…。母親はそんな父親を好きだと言うし、妹はそこそこ両親とうまくやっているのもセキコのイライラに拍車をかけている感じ。紹介文に「おかしくも切ない」とあるが、ちっともおかしくなかった。もう胸苦しくて苦しくて、放り出したくなった。中学生にとって、自分の家でくつろげないことの鬱屈は嫌というほどわかる(自分のことではないが、10代のころの閉塞感や反抗心は人並みにあったと思うので)。セキコらが宿題をすべて写そうと奮闘する様を「おかしみ」として汲み取れれば良かったのだろうが、この親にして、、と思ってしまったことは否めない。セキコ以外のクラスメイトらの家庭もやはりまともではなくて、家庭環境がいい、って当たり前のようでいてありがたいことなんだなあとしみじみ痛感した。中学生のままならない心情や環境がとてもリアルで、津村さんの筆力をあらためて感じた。でもやっぱキツかったな。可哀想だよ。可哀想。セキコもナガヨシもいつみも、早く社会に羽ばたいて。

魔力の胎動  (ねこ3.7匹)

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東野圭吾著。角川文庫。

成績不振に苦しむスポーツ選手、 息子が植物状態になった水難事故から立ち直れない父親、 同性愛者への偏見に悩むミュージシャン。 彼等の悩みを知る鍼灸師・工藤ナユタの前に、 物理現象を予測する力を持つ不思議な娘・円華が現れる。 挫けかけた人々は彼女の力と助言によって光を取り戻せるか? 円華の献身に秘められた本当の目的と、切実な祈りとは。 規格外の衝撃ミステリ『ラプラスの魔女』とつながる、あたたかな希望と共感の物語。(裏表紙引用)
 
ラプラスの魔女」の前日譚。羽原博士の娘・円華が様々な悩める人々のところに登場し、その謎の力でそれぞれの問題を解決していく5編収録の短編集。
 
「あの風に向かって翔べ」
記録が伸び悩んでいるスキージャンパーの坂屋のところへ、風を予測できるという円華が現れた。最初は疑心暗鬼だった坂屋だが…。
風が大いに影響するスポーツってなんだか理不尽にも思える。自然現象だからみんな同じ条件じゃないしね。まあそれも含めての競技か。結局坂屋のメンタルの問題に落ち着いた。奥さんの愛良き。
 
「この手で魔球を」
引退間近のピッチャーとキャッチャー。後釜のキャッチャーがナックルボールをうまく捕球できない問題を円華が解決する。
これもほぼメンタル問題では。。結局は円華らが仕掛けた芝居のおかげなわけだけど。
 
「その流れの行方は」
鍼灸師のナユタの高校の恩師の息子が川に流され植物状態に。その息子を担当しているのは円華の父親で…。
溺れる人を助けるために、飛び込んではいけないというのはもう知れ渡っていることだけれど、飛び込む者に「自分が死んででも助けたい」という思いがあればどうなんだろう。。円華の実験には背筋が寒くなった。この母親すごいなあ。
 
「どの道で迷っていようとも」
盲目の天才作曲家・朝比奈の同性の恋人が死んだ。彼はカミングアウトによる偏見、差別に耐えられず自殺したのか?
自殺の真相を円華が解き明かすと同時に、ナユタの衝撃の過去も明らかに。当時の大人は罪深いとは思うけれど、いずれは覚醒していたのかもしれない。円華の真の目的にも驚き。
 
「魔力の胎動」
泰鵬大学教授の青江が、灰堀温泉村で起きたガス事故の調査に趣いた。立ち入り禁止区域内で死んでいた一家の謎に迫る。
これは唯一円華が登場しないお話。ラプラスと密接に繋がっている雰囲気はあるけど、あまり覚えていない。。
 
以上。
うん、まあ、普通。「ラプラス~」はそれほど気に入りの作品ではないのであまり期待はしていなかったけど、「どの道で~」や「その流れの~」など面白い作品もあった。ただ最初の2編がスポーツものだったのでかなり苦戦したし、円華の正しいけどキツイ物言いがちょっと堪えたなあ。どんな能力や経験値があろうと、10代は10代でしょ。まあ嫌いじゃないけど。うーん、このシリーズはもういいかなあ。(出たら読むが)

medium 霊媒探偵 城塚翡翠  (ねこ4.5匹)

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相沢沙呼著。講談社

推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では姿なき連続殺人鬼が人々を脅かしていた。一切の証拠を残さない殺人鬼を追い詰めることができるとすれば、それは翡翠の力のみ。だが、殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた―。(紹介文引用)
 
20年度の三冠作品なので、既に読んだ人は多いと思うが…やっと廻ってきた(1回流しちゃったので)。
 
霊媒師・城塚翡翠と推理作家の香月史郎を中心とした4編収録の連作短編集。いつもならば、各編の感想を書いてから総合的な意見を書く、っていうのがウチのスタイルなんだけども………。1話の泣き女殺人事件、2話の水鏡荘殺人事件、3話の女子高生連続絞殺事件と読みすすめている間はまあ平和。う~ん、翡翠ちゃんのもえもえキャラはいいんだけど、ミステリ的には普通か普通以下だなあ…読みにくいし…これが三冠???最後になんかあるって噂だからこれだけのわけないよな、まあ挫折せずに頑張ってみるかあ、という感じで最終作へいざ。
 
うっそおおおおおおおおおおおおん……。
 
嘘だろ…嘘だと言ってくれ翡翠ちゃん…………。
 
騙された。すっかり。もう笑うしかない。香月のことはまあ、なんとなく予想がついていたのだけど(あまりにも2人の関係が不自然なのと、ラストの驚愕!と言われたらまあそれぐらいはやるのかなって)。。
 
わたくし、これでも3000冊はミステリーを読んで来ているのだが、それでもこの試みは初めてだったな。ミステリーのアイデアって、上限がないのかと思う。まだまだこんな手法があるのだなと嬉しくなった。いや、物語としてはショックだったんだけど(それでもそんな翡翠ちゃんも好きだ)。たいして面白くなかった3編ですら(ひどいこと言ってる)、大いなる伏線だったのだから脱帽するしかない。好きか、面白いか、って言われるとラスト意外は正直微妙なので満点は差し上げられないが、ミステリーとしての発想、仕掛けは文句なく満点だと思う。
 
しかし続編執筆中ってほんと?もう続編書く意味ないと思うんだけどまさかまた何か仕掛けが??

鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース  (ねこ3.9匹)

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島田荘司著。新潮文庫

その朝、最高の幸せと最悪の不幸が少女を見舞った。枕元にあったのは、期待もしていなかった初めてのクリスマスプレゼント。だが信じがたい事件も起きていた。別の部屋で母が殺されていたのだ。家にはすべて内鍵が掛けられ、外から入れるとしたらサンタくらいだった。周辺で頻発していた怪現象と二重三重の謎。京都を舞台に、若き御手洗潔が解き明かす意外な真相と人間ドラマ。心温まるミステリー。(裏表紙引用)
 
御手洗潔シリーズ文庫最新刊。もう第何作目かわからない…。
 
本書は御手洗さんが京大医学部に在籍していた時代(昭和50年代)が舞台になっていて、進々堂のサトルくんが語り手となって登場。クリスマスの朝、8歳の少女・楓の母親が自宅の1階で絞殺されており、父親も電車に飛び込んで自殺した。少女の枕元には初めてのサンタからのプレゼントが。しかし家は完全な密室となっていた。町の人々の中には、恐ろしい幻覚を見る者が現れ、位牌や喫茶店の振り子が勝手に動き、夫婦喧嘩が勃発していた。それらの現象と殺人事件はどう関連するのか――。
 
いやあ、昨今の御手洗作品で泣かされるとは……。謎の提示は相変わらず不思議で奇抜だが、今回はそちら方面ではそれほど驚くことはないかもしれない。が、気の毒な少女楓とある人物との絆には強く胸打たれるものがあった。自分が絶望している時に、可愛がっていた子どもにこんなことを言われたら…その人物にも辛く哀しい生い立ちがあり、少女と自分を重ね合わせていたのだ。男が女を暴力で支配し、犠牲になるのはいつも子どもだ。不倫関係や夫婦関係はいかにも昭和の雰囲気だが、この時よりいくらかは世の中はマシになったのだろうか。
 
ミステリー的には少し肩透かしではあったし御手洗さんが謎を解いたと言えるのかどうかって感じの構成だが、小説としてはとても心温まる素敵な作品だと思う。サクサクと読めるのも良し。

あと十五秒で死ぬ  (ねこ4.8匹)

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榊林銘著。東京創元社。 

死神から与えられた余命十五秒をどう使えば、私は自分を撃った犯人を告発し、かつ反撃ができるのか? 一風変わった被害者と犯人の攻防を描く、第12回ミステリーズ! 新人賞佳作入選「十五秒」。犯人当てドラマの最終回、目を離していたラスト十五秒で登場人物が急死した。一体何が起こったのか? 姉からクイズ形式で挑まれた弟の推理を描く「このあと衝撃の結末が」。〈十五秒後に死ぬ〉というトリッキーな状況で起きる四つの事件の真相を、あなたは見破れるか? 期待の新鋭が贈る、デビュー作品集。(紹介文引用)
 
全く未知の作家さんだが、随分評判がいいようなので挑戦してみた。4作収録の短編集となっていて、いずれも<十五秒>をテーマにしたトリッキーで斬新なミステリー。興奮冷めやらないが、まずはそれぞれの感想を。
 
「十五秒」
ある診療所で薬剤師の女が銃殺された。死ぬまでの十五秒間で彼女がしたことは――。
十五秒間のうちに、振り向いて犯人の顔を確認、殺人者の名前を記録、できれば罠を。何度もやり直しが効く十五秒間を有意義に使えるか。果たして真実はどちらの視点にあるのか。トリックの攻防と物語としてのスリル、構成の妙が見事。手に汗握った。案内人の猫がいい味出してる。
 
「このあと衝撃の結末が」
クイズ形式のSFミステリードラマの最終回。衝撃の結末までの十五秒を見逃してしまった弟。ドラマの大ファンである姉がその十五秒間に何があったかを弟に推理させる――。
空旅行の、未来に影響しないことには干渉しても良い、過去にしか飛べない、というルールが見事に生きている。この誤認トリックには脱帽。解決後の展開にも意外性と緻密なトリックが仕掛けられた完璧な作品。
 
不眠症
運転している母と共に交通事故に遭う寸前までの夢を繰り返し見る女性。献身的な娘と病弱な母親にはある秘密があった――。
一風変わった、幻想的で不思議なストーリー。母の愛情と最期の言葉が胸に染みる。
 
「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」
中編。首が取れても十五秒以内であれば身体に結合できるという特殊体質の人種ばかりが暮らす秘密の村で殺人事件が起きた。神社で発見された死体は焼かれており、首がない。それは身体的特徴から、行方の分からない3人の男子高校生の1人と断定されたが――。
なんと奇抜な設定。。3人の少年が、十五秒おきに首を交換しながら洞穴内で過ごすシーンはシュールすぎる。が、設定が奇抜なだけで終わっていない。特殊設定を基にした複雑なトリックには頭がこんがらがったが、よくぞまあ作者はこれだけ計算できたものだ。1人分身体が足りないのどうするのかと思ったら…。ラストの巡査が起こした阿鼻叫喚地獄を含め、物語としても十分滑稽で楽しく、気の抜くところのない作品だった。
 
以上。
物凄い新人が現れたものだと思う。今年の本ミスこのミスの目玉となることは確実かと。「十五秒」という設定だけでこれだけの話を思いつくことが驚異だし、堅固なトリックと小説としての面白さを両方併せ持っているので並みの実力ではない。注意しておきたいのが、ロジックは相当複雑、かつ奇妙な味わいなので万人向けでないということ。でも本格ミステリファンなら狂喜乱舞する作品だと思う。騙されたと思ってぜひ。