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あと十五秒で死ぬ  (ねこ4.8匹)

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榊林銘著。東京創元社。 

死神から与えられた余命十五秒をどう使えば、私は自分を撃った犯人を告発し、かつ反撃ができるのか? 一風変わった被害者と犯人の攻防を描く、第12回ミステリーズ! 新人賞佳作入選「十五秒」。犯人当てドラマの最終回、目を離していたラスト十五秒で登場人物が急死した。一体何が起こったのか? 姉からクイズ形式で挑まれた弟の推理を描く「このあと衝撃の結末が」。〈十五秒後に死ぬ〉というトリッキーな状況で起きる四つの事件の真相を、あなたは見破れるか? 期待の新鋭が贈る、デビュー作品集。(紹介文引用)
 
全く未知の作家さんだが、随分評判がいいようなので挑戦してみた。4作収録の短編集となっていて、いずれも<十五秒>をテーマにしたトリッキーで斬新なミステリー。興奮冷めやらないが、まずはそれぞれの感想を。
 
「十五秒」
ある診療所で薬剤師の女が銃殺された。死ぬまでの十五秒間で彼女がしたことは――。
十五秒間のうちに、振り向いて犯人の顔を確認、殺人者の名前を記録、できれば罠を。何度もやり直しが効く十五秒間を有意義に使えるか。果たして真実はどちらの視点にあるのか。トリックの攻防と物語としてのスリル、構成の妙が見事。手に汗握った。案内人の猫がいい味出してる。
 
「このあと衝撃の結末が」
クイズ形式のSFミステリードラマの最終回。衝撃の結末までの十五秒を見逃してしまった弟。ドラマの大ファンである姉がその十五秒間に何があったかを弟に推理させる――。
空旅行の、未来に影響しないことには干渉しても良い、過去にしか飛べない、というルールが見事に生きている。この誤認トリックには脱帽。解決後の展開にも意外性と緻密なトリックが仕掛けられた完璧な作品。
 
不眠症
運転している母と共に交通事故に遭う寸前までの夢を繰り返し見る女性。献身的な娘と病弱な母親にはある秘密があった――。
一風変わった、幻想的で不思議なストーリー。母の愛情と最期の言葉が胸に染みる。
 
「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」
中編。首が取れても十五秒以内であれば身体に結合できるという特殊体質の人種ばかりが暮らす秘密の村で殺人事件が起きた。神社で発見された死体は焼かれており、首がない。それは身体的特徴から、行方の分からない3人の男子高校生の1人と断定されたが――。
なんと奇抜な設定。。3人の少年が、十五秒おきに首を交換しながら洞穴内で過ごすシーンはシュールすぎる。が、設定が奇抜なだけで終わっていない。特殊設定を基にした複雑なトリックには頭がこんがらがったが、よくぞまあ作者はこれだけ計算できたものだ。1人分身体が足りないのどうするのかと思ったら…。ラストの巡査が起こした阿鼻叫喚地獄を含め、物語としても十分滑稽で楽しく、気の抜くところのない作品だった。
 
以上。
物凄い新人が現れたものだと思う。今年の本ミスこのミスの目玉となることは確実かと。「十五秒」という設定だけでこれだけの話を思いつくことが驚異だし、堅固なトリックと小説としての面白さを両方併せ持っているので並みの実力ではない。注意しておきたいのが、ロジックは相当複雑、かつ奇妙な味わいなので万人向けでないということ。でも本格ミステリファンなら狂喜乱舞する作品だと思う。騙されたと思ってぜひ。