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鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース  (ねこ3.9匹)

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島田荘司著。新潮文庫

その朝、最高の幸せと最悪の不幸が少女を見舞った。枕元にあったのは、期待もしていなかった初めてのクリスマスプレゼント。だが信じがたい事件も起きていた。別の部屋で母が殺されていたのだ。家にはすべて内鍵が掛けられ、外から入れるとしたらサンタくらいだった。周辺で頻発していた怪現象と二重三重の謎。京都を舞台に、若き御手洗潔が解き明かす意外な真相と人間ドラマ。心温まるミステリー。(裏表紙引用)
 
御手洗潔シリーズ文庫最新刊。もう第何作目かわからない…。
 
本書は御手洗さんが京大医学部に在籍していた時代(昭和50年代)が舞台になっていて、進々堂のサトルくんが語り手となって登場。クリスマスの朝、8歳の少女・楓の母親が自宅の1階で絞殺されており、父親も電車に飛び込んで自殺した。少女の枕元には初めてのサンタからのプレゼントが。しかし家は完全な密室となっていた。町の人々の中には、恐ろしい幻覚を見る者が現れ、位牌や喫茶店の振り子が勝手に動き、夫婦喧嘩が勃発していた。それらの現象と殺人事件はどう関連するのか――。
 
いやあ、昨今の御手洗作品で泣かされるとは……。謎の提示は相変わらず不思議で奇抜だが、今回はそちら方面ではそれほど驚くことはないかもしれない。が、気の毒な少女楓とある人物との絆には強く胸打たれるものがあった。自分が絶望している時に、可愛がっていた子どもにこんなことを言われたら…その人物にも辛く哀しい生い立ちがあり、少女と自分を重ね合わせていたのだ。男が女を暴力で支配し、犠牲になるのはいつも子どもだ。不倫関係や夫婦関係はいかにも昭和の雰囲気だが、この時よりいくらかは世の中はマシになったのだろうか。
 
ミステリー的には少し肩透かしではあったし御手洗さんが謎を解いたと言えるのかどうかって感じの構成だが、小説としてはとても心温まる素敵な作品だと思う。サクサクと読めるのも良し。