すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

許されざる者/Den Doende Detektiven  (ねこ4.2匹)

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レイフ・GW・ペーション著。久山葉子訳。創元推理文庫

国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、命は助かったものの麻痺が残る。そんな彼に主治医が相談をもちかけた。牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。9歳の少女が暴行の上殺害された事件。だが、事件は時効になっていた。ラーシュは相棒だった元刑事らを手足に、事件を調べ直す。スウェーデンミステリの重鎮による、CWA賞インターナショナルダガー、ガラスの鍵賞等五冠に輝く究極の警察小説。(裏表紙引用)
 
海外ミステリーのシリーズもの新規開拓第3弾。一番分厚いから一番最後に取っておいた作品が大当たりするとは。。読んでびっくり、邦訳第一弾の本書が「完結編」らしい。読んだら分かるけど結構ショックなラスト。しかしシリーズものには違いないらしく、主人公ヨハンソンの若かりし頃(本書では67歳)の作品や物語中よく悪口言われてる「頭のおかしなチビでデブの警部補」が主人公となった作品もあるらしい。邦訳待つ。一作出てるみたいだけどどっちかな。上下巻だったので一旦スマホそっ閉じ。
 
物語は、引退した元国家犯罪捜査局長官のヨハンソンが脳梗塞で倒れ病院で目覚めるところから始まる。その半身麻痺となったヨハンソンに、主治医のウルリカから捜査依頼が持ち込まれた。25年前に暴行され殺害された9歳の少女ヤスミンの事件について、父親の牧師からある手がかりが示されたというのだ。しかし事件は時効。この許しがたき犯人を捕まえるべくヨハンソンは様々な人々の手を借りて捜査を始めるが…。
 
ここ最近流行りのミステリー(しかも北欧もの)の割に、暴力描写が具体的でなくて良かった。半分安楽椅子探偵的なヨハンソンだが、人望もあってか元同僚や介護士、兄など色んな人が力になってくれる。ある意味淡々としている作品なのだがヨハンソンの性格は熱情的で正義感が強く、執念で犯人を追い詰めていくので退屈とは無縁。初動捜査がいい加減だったため、これを当時ヨハンソンが担当していたら…と思うと残念でならない。犯人が分かっても、死刑には出来ないからね。。だけどこういうやり方があるのか。人間関係を紐解いてやっと「それらしい人物」にたどり着く爽快さと、まさかあの人が関わっていたなんて、という驚き。やはりやったことは巡り巡って自分に返ってくるのだな。宗教的な意味だけではなく。それでもやっぱりあの時、正当な裁きを受けて欲しかったという気持ちは残るけど。
 
渋めの作品だが、すべてが繋がっていく快感を味わえた。キャラクターも魅力的だったし、只者じゃなさそうな作家。

福家警部補の報告  (ねこ3.7匹)

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大倉崇裕著。創元推理文庫

今や生殺与奪の権を握る営業部長となった元同人誌仲間に干される漫画家、先代組長の遺志に従って我が身を顧みず元組員の行く末を才覚するヤクザ、銀行強盗計画を察知し決行直前の三人組を爆弾で吹き飛ばすエンジニア夫婦―過去数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験は、殺人事件に際しても活かされる。福家警部補はどこに着眼して証拠を集めるのか。三編収録のシリーズ第三集。(裏表紙引用)
 
福家警部補シリーズ第3弾。今回は3編収録の短編集。というか各中編集くらいのボリュームかな。安定の面白さ。
 
「禁断の筋書(プロット)」
漫画家として成功したみどりと、漫画家になれずに敏腕編集者となった真理子はかつて親友だった。真理子のせいで次々と仕事を失ったみどりは真理子のマンションで遂に手を下すが…。これは殺意が芽生えても仕方がない気がする。殺しちゃダメだけど。閉まっていた浴室、ペン先の方向、杖の音、靴の指紋。細かいところが気になる福家さん。これはファンの福家さんにも辛い事件だな。
 
「少女の沈黙」
暴力団ナンバーツーの菅原は、同士討ちに見せかけて二人のヤクザを殺した。少女誘拐事件もうまい具合に真実を隠蔽できたように思えたが…。いきものがかりの須藤さん登場!ひゅーひゅー。福家さんにヘコヘコするヤクザ一体なにもの。前出てたっけ。ヤクザもんだからあんま入り込めないな。。人情話なのは分かるけど。
 
「女神の微笑」
宝石強盗犯三人が銀行強盗を決行直前、車内で爆発が起き全員死亡した。なぜ彼らは車をわざわざ遠回りさせていたのか?後藤の妻の特殊な状況が犯罪を立証するというところが面白かった。追い詰めた理由がたまたまそうだった、というところが残念かな。しかしこの夫婦すごいな。。また登場しそう。福家さんの生涯の敵になるのかな。たのしみ。
 
以上。
警察手帳がいつも見つからないくだり、ちょっと飽きてきた(笑)。一万円持ってるつもりが千円だったなどなど、福家さんのドジっ子ぶりが今回も光る。しかしあちこちにお金借りすぎ。。。

星籠の海  (ねこ4.2匹)

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島田荘司著。講談社文庫。

瀬戸内の小島に、死体が次々と流れ着く。奇怪な相談を受けた御手洗潔は石岡和己とともに現地へ赴き、事件の鍵は古から栄えた港町・鞆(とも)にあることを見抜く。その鞆では、運命の糸に操られるように、一見無関係の複数の事件が同時進行で発生していた――。伝説の名探偵が複雑に絡み合った難事件に挑む!(上巻裏表紙引用)
 
御手洗潔シリーズ第28弾。
 
今知った。しまった、27作目飛ばした。まあいいか。。
 
ロシア幽霊軍艦事件のすぐあとの事件らしい。今作は瀬戸内海を舞台にしていて、御手洗さんと石岡くんがあちこち飛び回る。興居島の小瀬戸湾に流れ着く六人の男性の死体。新興宗教がらみの覚せい剤、轢き逃げ事件。歩道橋から突き落とされた男性。村上水軍の秘密兵器。アメリカ神社で発見された口と目を縫われた夫婦と赤児誘拐殺人。などなど、最近の島田作品詰め込みすぎ。
 
特に面白かったのは俳優くずれの小坂井が地元の女優に呪われ、新カノの看護学生が起こしたある事件に巻き込まれる章。大雨の中呼び出されたと思ったら女が自分を刺して、テーブルに手を縛ってくれとか一体どういうことなの。元女優の場合は完全に逆恨みだし、看護学生に至っては看護学生のくせにどんだけ倫理観ないねん…と言いたくなる。普通、赤ちゃん片手に抱きながら脚立乗るかね?
 
そして大学教員の滝沢助教授ね。この人に言い寄る藤井という男も言い寄ったがために人生破滅するんだけども、オールドミスだの女は夫や子どもを持ちたいでしょとか発言が古臭くて苦笑。これもう2013年の作品だよね?あげく外でいきなりスカートの中に手を入れてプロポーズとか頭おかしい。はっきり拒絶しない助教授もわけわからんが。まあ、助教授にディープキス強要する御手洗さんもどうかと思うが(気になる人は作品をどうぞ)。
 
という感じで女性キャラはアイタタな感じなのだが、ストーリー展開は壮大だし謎だらけですごく面白かった。歴史ミステリ的な要素はいらないと思ったが(個人的好み)、よくこれを全部まとめたなと。教祖を追い詰めるシーンはまさに映画的だったし、看護学生のやったことをすぐ見抜いた御手洗さん神すぎる。。現場からヘリコプターで去るし(笑)。
 
長いけど面白くて一気に読めた。しかし御手洗さんと石岡くんが新婚用の部屋(ベッド一つ、装飾はピンク、ハート)に泊まるというくだりはファンサービスなのか?いらんぞ。

QED 御霊将門  (ねこ3.5匹)

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高田崇史著。講談社文庫。

靖国神社を皮切りに、築土神社神田明神首塚・兜神社、烏森神社、稲荷鬼王神社、鎧神社、さらには成田山新勝寺へ。お花見に出かけたはずの棚旗姉妹と桑原崇だったが、いつしか将門ゆかりの地を巡る小旅行に。日本を代表する大怨霊、将門の真の姿とは、朝廷からの理不尽な要求をはね除けた救世主だった!?(裏表紙引用)
 
シリーズ第12弾。けっこう読んだね。
短編集かと思ってたら違った。今回のタタル、奈々ちゃん、沙織ちゃん御一行はお花見を兼ねて千鳥ケ淵へ。。。と思ったらやはりタタルのせいで将門ツアーになってしまうという。今回は小松崎がエピローグにしか登場しないせいか、すっかり準レギュラーとなった神山さんのストーカー事件(と、いうほどでもない)のみであとは完全に将門薀蓄、薀蓄、薀蓄。。。今までもかなり薀蓄量は多いシリーズではあるが、輪をかけてすごい。。頑張って読んだのだが要所要所しか頭に入らなかった。。タタルの説はけっこう面白いと思ったけど。将門にすっかりいいイメージを持ってしまった。あと桔梗の花は咲かないほうがいい、のくだりはナルホドと思ったな。
 
今回のみどころは、蘊蓄に熱が入るあまり奈々ちゃんの手を握ってしまうタタル。次回は神山さんがらみの事件らしいが…なんでこの人毎回出てくるようになっちゃったのかな?愛想ないしあんま好きじゃないけど。。

寄宿学校の天才探偵/Truly Devious  (ねこ3.7匹)

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モーリーン・ジョンソン著。谷泰子訳。創元推理文庫

天才や革新者を輩出してきたエリンガム・アカデミー。新入生のスティヴィは推理マニアで、過去に起きたアカデミー創設者の妻と娘の誘拐事件の謎に夢中になっている。身代金が支払われたのに妻は殺され、娘は行方不明のまま、犯人の正体も闇の中だ。スティヴィは事件の再調査を課題として与えられるが、そんなとき新たな死者が…。NYタイムズベストセラー作家の本格ミステリ。(裏表紙引用)
 
初読み作家さん。アメリカでは人気のYA向けミステリ作家だそうで。タイトルが気になって読んでみた。
 
主人公はピッツバーグ出身の16歳、スティヴィ。シャーロック・ホームズが大好きで、いつか自分も現実の死体を見たり事件を解決したりしてみたいと思っている。友人を作るのが苦手で、両親は自分を分かってくれない。そんなスティヴィの元へ、大富豪エリンガムから無料でエリンガム・アカデミーへの入学招待状が届いた。かつてエリンガム家で起きた未解決の妻子と女子生徒誘拐事件を調査し解決したいと張り切るスティヴィだが、アカデミーで新たにYou Tuberの生徒が殺害される事件が起きた。
 
いやあ、とにかくいい学校だなあ。どこにも負けない蔵書数、おしゃれな食べ物飲み物が全て無料、授業以外は自由時間、犯罪学の授業などを1人で受けることができ、先生やドクターは協力的。私も入りたいぞ。スティヴィの個性が埋没してしまいそうなほど、他の生徒が個性的。人気You Tuber、溶接マニア、ファンタジー作家、赤毛ツンツンファッションなどなど。。現にスティヴィは友人のジャネルとネイト以外からはあまり存在を眼に入れてもらっていない感じ。よくある元気で人気者のヒロインじゃないのがリアルでいい。パニック障害もちだったりするし。
 
YAっぽいなという要素は多々あって、抑えられない欲望や感情、見栄や鬱屈など、全ての生徒がそれを抱えていてパンパンになっている。これが過去の誘拐事件とどう繋がるのかな~。学園小説という面のほうが強い。スティヴィがある男子生徒といい仲になってしまったのはちょっとなあ。。ネイトとの友情にはグっときたけど。
 
ラストに怒涛の解決を見せるかに見えたが、ま、まさか、続きものだった…。三部作らしい。ショック。解決していない。なんかビックリするところで終わったし。帯とかに書いてて欲しかったなあ~。第二作出るころには内容忘れてるよ。。
 
と、いうことなので以下自分用にネタバレ。
 
 
 
 
 
ハイエスを殺したのはエリー?彼女のひとり。通路から消えた
ハイエスは自分で作品を作っていなかった。
ドライアイスをトンネルに運んだのは誰?
デヴィッドの正体は、上院議員エドワード・キングの息子?
スティヴィの両親はエドワードの信者
 
アイリスを殺したのは生徒??
生徒の隠していた箱にトゥルーリーの脅迫状の痕跡

パンダ探偵  (ねこ3.7匹)

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鳥飼否宇著。講談社タイガ

ヒトと呼ばれた種が地球上から姿を消して、二百年が経った。世界は知能を持つ動物たちの王国となり、肉食・草食の別なく、平和に暮らしていた。だが、そんな楽園に不穏な影が忍び寄る!姿の見えない誘拐犯、密室から消えた非常食、そして大統領暗殺!?不可解な謎に白黒つけたがるへっぽこパンダのナンナンは、先輩探偵タイゴと、ヘンな動物たちが巻き起こす珍&難事件に挑む!(裏表紙引用)
 
久々に鳥飼さん。表紙がかわいかったので。パンダ好きだし。
 
舞台はアフラシア共和国という、動物の自治共和国。感染病で人間は死に絶え、動物が社会を形成している世界。アニマ探偵事務所の名探偵・タイゴ(虎とライオンのダブル)とジャイアントパンダのナンナン(身寄りなし・夢は保育士)が動物界の難事件を解決する、三編収録の連作短編集。
 
「ツートーン誘拐事件」
牛やマレーバク、ナンナンなど、ツートーンの動物ばかりが誘拐され、入れ替わりに帰されるという不思議な事件が発生。動物同士の利害関係などなど勉強になるなあ。ミツオシエとか知らなかった。動物であるがゆえの誘拐理由にナットク。
 
「キマイラ盗難事件」
食糧保管庫から一トンの干し草がゴソっと盗まれた。タイゴは元警察官だったのかー。それにしても色々な知らない動物が出てくるなあ。読者には推理しようがないけど、ほおほおこんな動物が、と思わず検索してしまう。ナンナンは優しいな。
 
「アッパーランド暗殺事件」
アフラシアに大アメリカ帝国が攻め込んでくるという噂。そんな中大統領が顔をめちゃめちゃにして殺され、タイゴが逮捕されてしまった。ナンナン、慕うアニキのために孤軍奮闘!の巻。ナンナンにも色々な過去があったみたい。政治関係の話なのでちょっと硬い雰囲気だが、侵入した動物の正体やその方法にビックリ。トリックというより、それぞれの性質上そうなった、という感じ。動物界でもゲスいやつはゲスい。
 
以上。続編絶対あります的な終わり方がうれしい。タイゴもツンデレでなかなかいいし、転がってばかりのナンナンはもちろん可愛い。鳥飼さんらしさ全開だしね。

カウントダウン  (ねこ3.7匹)

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真梨幸子著。宝島社文庫

余命、半年―。海老名亜希子は「お掃除コンシェルジュ」として活躍する人気エッセイスト、五十歳独身。歩道橋から落ちて救急車で運ばれ、その時の検査がきっかけで癌が見つかった。延命治療を受けないと決意した亜希子は“有終の美”を飾るべく“終活”に勤しむが、夫を略奪した妹との決着や“汚部屋”の処分など数々の課題に直面することに。彼女は“無事に臨終”を迎えられるのか!?(裏表紙引用)
 
真梨さんの文庫新刊。
 
主人公は「お掃除コンシェルジュ」エッセイストの亜希子。バツイチの50歳。検査で余命半年の甲状腺癌が発覚した亜希子は、人生の「有終の美」を飾るために外商の薬王寺涼子の手を借りて終活を始める。しかし現実は過去に侵食され、上手くいかない状況だった…。
 
お掃除のプロの別宅がゴミ屋敷って…。そもそも、妹に旦那を取られたっていうのが有り得ない。。しかし亜希子のほうも性格に難ありすぎだろ…。なんでもかんでも、勝手に被害妄想持って人を妬んで羨んで、人望もなさすぎ。元夫への暴言や40万のソファーを勝手に買う行動や、新入社員挨拶でつまらない話を5分続けるとか自分に問題があるとは思わないのかしらね。十分成功者だと思うのだけど、それで自信ついたりしないのかなあ。昔の知り合いや妹のブログなんかをストーキングしたり、かえって自分を追い詰める性質は本当に読んでいて不快になるなあ。まあ、妹もひどいけど。
 
と、思って読んでいたら意外な真実が次々と。だからって亜希子への印象が変わったりしないところが真梨さんらしい。まともな人が1人もいないあたりも。。人は死ぬときに真の評価が決まるというけど、今までろくな人づきあいをしてこなかった人が死ぬときだけはきちんとされたい、とか都合良すぎるんだよなあ。
 
まあ、真梨作品にしては入り組んでいなくてややこしさがなかったのは良かった。これじゃ物足りない人のほうが多いかもしれないけど。