すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

鶏小説集  (ねこ3.9匹)

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坂木司著。角川文庫。

塾友のレンと俺は、似てるけど似てない―夜のコンビニで出会った少年たちの葛藤を描く(「トリとチキン」)。我が子を好きになれず悩む父親が、たった1人だけに打ち明けた本音とその答えとは…(「地鶏のひよこ」)。他人の意見に振り回され、疲弊する漫画家が思い出す、彼のデビュー作を生み出した強烈な友人(「とべエンド」)。トリドリな味わいの全5編。豚肉をテーマにした『肉小説集』に続き、肉と人生をめぐる短編集、再び!(裏表紙引用)
 
「肉小説集」に続く、今度は「トリニク」をテーマとした5編収録の連作短編集。
 
「トリとチキン」
高3の春紀とレンは、花火大会の日にお互いの家を行き来する親友だった。しかしお互いの家を交換することになった日にレンが父親と揉めてしまい…。
これこそ絵に描いたような隣の芝生は青い、なんだろうな。特にこの年齢だと、恵まれていても色々不満はあるよね。
 
「地鶏のひよこ」
1作目のレンの父親・橋本が主人公。橋本は生まれてからずっと、息子のことが好きになれない。ある日偶然顔を合わせた息子の友だちの父親・浅野と外で飲むことになり、似たような雰囲気を持つ浅野にその胸の内を打ち明けるが…。人間同士のことだから、相性が合わないのは仕方ないと思う。でも、浅野よ、自分を軽蔑している相手の食費やらを払ってきたのだから見返りを欲しがるというのは違うぞ。橋本のいいところは、親の役割を勘違いしていないところかな。もっとレンが大人になったら関係も変わってくると思う。そういう終わり方だった。
 
「丸ごとコンビニエント」
「別にそこまで、」が口癖の田中はコンビニでアルバイトをする実家暮らしの大学生。何事も広く浅くがモットー。しかしあるクリスマスイブの日、コンビニの近所にサンタの格好をし斧を持った不審者がうろついているという事件が…。お取り寄せの予約したチキンを取りに来ないって迷惑だなあ。。でも生焼けって…。とにかく美味しそうなチキンで私まで食べたくなった。「貧乏神」のテンチョー、やるじゃん。
 
「羽のある肉」
新聞委員というめんどくさい役を振り当てられたりゅうは、花火大会の取材をあるパっとしない女子と組んでやるハメになった。ああ、これこの子と付き合うんだろうなあ、と最初に分かる。。特にコレというナニも起こらないお話なんだけどほっこり。
 
「とべ エンド」
4話で登場した漫画「皆殺しレクイエム」の作者が主人公。子どもを殺しニコチン風呂で復讐するという今までと違う方向性の話にクレームが殺到してしまう。彼が漫画家デビューをするに至った経緯を描いた話。いじめっ子バキの暴力に腹が立ったけど、彼がバキを追い出せなかったのは、彼が嘘だけはつかないから。かな。ちょっとウルっときたけど、いじめを美化してると言われたら弱い。
 
以上。
最終話が良かったので評価上げたかな。登場人物が順番に繋がっていって楽しめる。薄くてサクっと読めるのでおすすめ。
 
 

折りたたみ北京/Invisible Planets  (ねこ4匹)

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ケン・リュウ編。中原尚哉・他訳。ハヤカワ文庫。

天の秘密は円のなかにある――円周率の中に不老不死の秘密があると聞かされた秦の始皇帝は、五年以内に十万桁まで円周率を求めよと命じた。学者の荊軻始皇帝の三百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機を編みだす。劉慈欣『三体』抜粋改作にして星雲賞受賞作「円」、貧富の差で分断された異形の三層都市を描いたヒューゴー賞受賞作「折りたたみ北京」など、ケン・リュウが精選した7作家13篇を収録の傑作アンソロジー。(裏表紙引用)
 
今中国SFがアツい。ということで、その先頭を歩くケン・リュウ厳選の中国SFアンソロジー。7人の作家による13編と、3人の作家によるエッセイ3編。とりあえずどれも初めましての作家なのでお試しに。
 
陳楸帆(チェン・チウファン(スタンリー・チェン))
「鼠年」
軍隊員である大学生視点から見た、国家の鼠改造計画。雄の身体から出る胎児とか色々不気味。巨大化した鼠の海が恐ろしい。人間は勝ったのか負けたのか。
 
麗江の魚」
10年ぶりに、リハビリのために男が訪れた町、麗江。出会った看護師、犬の首輪に結ぶメッセージ、皮膚に映し出される広告…。短篇なのが惜しいほどの世界観。生きる時間というものの概念すら選べる人と選べない人がいるってことかな。
 
「沙嘴の花」
沙嘴村に隠れ住む男が娼婦に惚れ込んで、彼女を不幸にするポン引きの男をなんとかしようと奮闘する…ってとこかな。こう書くと下世話な感じだけど、ボディフィルムとか色々と未来の商品が生きてる。
 
夏茄(シア・ジア)
百鬼夜行街」
少年以外は全て幽霊という街。育ての親シャオチェンや禅師イエンとの関係がいい。雷難による崩壊までを描いていて、実は少年の正体は…というところが結末の戦いをドラマチックにさせている。
 
「童童の夏」
骨折し同居することになった童童の祖父。遠隔操作による将棋や看護という空想世界。老老介護の問題をユーモアチックに描いているが、半分は実現しそうだなと思える。微笑ましさの中に残る切なさはなんだろう。
 
「龍馬夜行」
人間が滅亡してしまった世界で、かつて伝説となり持て囃されていた鋼鉄製の龍馬の旅。蝙蝠と出会いたどり着いた場所とは。廃れた世界で唯一動く龍馬。哀しくて映像的。
 
馬伯庸(マー・ボーヨン)
「沈黙都市」
ウェブにアクセスするのにも許可証の発行が必要な社会を痛烈に皮肉る作品。「一九八四年」を下敷きにしているのかな。健全語のみの会話しか許されず、外出には不適切な言葉を刈るための聴取機必須。秘密の会話クラブ。戦時みたいだな。全ての不健全なことを人間から排除することの不健全さ。
 
郝景芳(ハオ・ジンファン)
「見えない惑星」
男が女に語って聞かせる様々な惑星冒険譚。死ぬまで身長が伸びる惑星、嘘つきの惑星など奇妙な惑星アルバムという感じ。ストーリーはあまりないかな。原題はコレだね。
 
「折りたたみ北京」
折りたたみ式の都市という発想がもう凄いな。国を三つのスペースに分けて、時間や役割を明確に決めているという。時間ごとに活動時間を分けているというのが、そしてその理由が社会問題と結びついている。雇用問題や環境汚染などなど。。第三スペースに住む最下層民のラオ・ダオの「はじめてのおつかい」。見つかると刑務所行きなんだけど、意外とうまくいくもんだな。たった一日で知り得たこのシステムの実態、そして大切なもの。感じ入る作品。
 
糖匪(タン・フェイ)
「コールガール」
少女の援交の話…だけど、売っているのは「お話」。境遇も何も分からないけれど、中年男性と車の中で会う10代女子ってところは変わらない。ので、いやらしい話ではない…とは思わない。
 
程婧波(チョン・ジンボー)
「蛍火の墓」
女王を母に持つ6歳の少女。世界の混乱は収まり、人類は皆夏への扉を目指した。無重力都市での魔術師との出会いがいい。母の悲しい恋と少女の運命。夜と昼が対照的。
 
劉慈欣(リウ・ツーシン)
「円」
戦国時代の秦。宇宙の謎を解くのに円周率十万桁まで計算!わけわからんなと思ったが、計算陣形が面白い。愚王だな。
 
「神様の介護係」
20億人の高齢浮浪者の面倒を各家庭でみることになった世界。老人は全員自分を「神」と名乗り、地球の文明の発達を約束する。老人虐待シーンから始まるので何事かと思ったが、こりゃ騙されたってなるわな。。最後なんかいい話になってる。
 
以上。
一気読みはしんどいので、1日1話ずつ読んだ。中国SF面白いな。読めないお話はなかったし、そもそも漢字名なのでカタカナ名より読みやすいしとっつきやすいかも。好きだったのは「沈黙都市」、「折りたたみ北京」、「神様の介護係」。ハズレなしかも。気になっている人は買いだと思う。
 

 

クララ殺し  (ねこ3.7匹)

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小林泰三著。創元推理文庫

ここ最近、奇妙な生き物やアリスという少女が暮らす不思議の国の夢ばかり見ている大学院生の井森建は、ある晩、いつもとは違って、緑豊かな山の中でクララと名乗る車椅子の美少女と出会う夢を見る。翌朝、大学に向かった井森は、校門の前で、同じ姿の少女くららに呼び止められる。彼女は何者かから命を脅かされていると訴え、井森に助力を求めた。『アリス殺し』まさかの続編登場。(裏表紙引用)
 
「アリス殺し」の続編。ちなみにここのクララは「アルプスの少女」のほうのクララではないとのことで。
 
「地球」と「ホフマン世界」と「不思議の国」の三世界の間をぐるぐる回る、とってもややこしいファンタジーSFミステリ。主人公は大学生の井森で、彼の不思議の国での<アーヴァタール>は蜥蜴のビル。そのビルがホフマン世界へ迷い込んでしまう。そこで出会ったのがクララとおじのドロッセルマイアー判事。現実世界で命を狙われる<くらら>とクララのために、探偵役となって捜査を始める井森(ビル)だが…。
 
まあとにかく地球ではダレ、ホフマン世界ではダレ、とややこしいったらない。途中で考えるのを放棄した。最近こういうのホントだめなの、集中力が続かない。彼らの会話がおかしくてテンポがいいから、世界観を楽しむにはもってこいだと思うけどね。三種の世界を利用したトリックや真犯人、アーヴァタールが実はダレ問題などなど、手口はそれほど複雑ではなかったのでついていけた。「アリス~」が面白かったという人はこちらも楽しめるんじゃないかな。

アリバイ崩し承ります  (ねこ3匹)

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大山誠一郎著。実業之日本社文庫。

美谷時計店には「時計修理承ります」とともに「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。難事件に頭を悩ませる新米刑事はアリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ……7つの事件や謎を、店主の美谷時乃は解決できるのか!? 「2019本格ミステリ・ベスト10」第1位の人気作、待望の文庫化!(裏表紙引用)
 
2019年ランキングもので話題となった大山さんの連作短篇集。すべてがアリバイ崩しにこだわった作品ということで。
探偵役は、祖父亡き後店を継いだという美谷時計店店主・美谷時乃。お店に持ち込まれた「アリバイ崩し」の依頼を五千円で引き受ける。事件を持ち込むのは捜査一課新人刑事。「時計が主張の根拠となっているから時計屋こそがアリバイを最もよく扱える人間」とは???????これ大丈夫?と不安になりつつ、まあ軽めのユーモアミステリと思えばいいのか。と姿勢を正す。
 
「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」
大学教授の女性を殺害したのはストーカーの元夫?
妹が友人の連帯保証人になって二ヶ月以内に二千万返済義務ってんなばかな。なんじゃこりゃ、と思っていたらトリックも動機もかなり突飛で苦笑い。これ挫折せずに読み続けられるかなあ…と思いながら次へ。
 
「時計屋探偵と凶器のアリバイ」
郵便ポストに入れられていた使用済みの拳銃。死体より先に凶器が見つかるという稀有なケース。ものすごい凝ったトリックだったのでその頑張りに感心。
 
「時計屋探偵と死者のアリバイ」
 交通事故で瀕死の重体となった推理作家が、殺人を自白した。しかしアリバイだけは言わずに死んでしまったが…。作家のある特徴を生かした事件。思い込みはダメ、発想の転換が大事なのだな。
 
「時計屋探偵と失われたアリバイ」
アリバイ崩しではなくアリバイ探し。夢遊病の妹って怪しすぎる。。トリックがまた奇想天外というかんなわけないだろというか。無理だろ。動機の点も、こんな不利な役やらないと思う。。容疑者が昔好きだった子に似てるから疑いたくない、とは…。おい。
 
「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」
小学生時代の時乃さんの、お祖父さんとの思い出。お祖父さんにアリバイ崩しの手ほどきを受けていた時乃さんの語る「おかしなアリバイ」とは。。
これが一番良かったかな。お祖父さんのトリックが稚気に溢れているね。
 
「時計屋探偵と山荘のアリバイ」
長野県のペンションで起きた、時計塔での雪のあしあと殺人事件。アリバイがないのは1人だけ。しかしその1人が絶対犯人じゃない、の根拠が「中学一年生だから」とは??動機もあるし実行も可能だが。。アリバイのパターンがまた違うので色々よく思いつくなあと思う。犯人当てにもなっているし。
 
「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」
一日だけしか配信しない曲を使ってのアリバイを崩せるか。一日だけ、の盲点をついたトリックだと思う。が、もし友人がそのことを知っていたらどうしたんだろう…。。
 
以上。
色々書いたが、様々なアリバイ崩しに挑戦しているので発想が豊かだと思う。アリバイ崩しだけに特化する、というのも作者のミステリ愛を感じるし。ただ、特化しすぎたかな。。メインの2人に魅力がなかった。「時を戻すことができました」の決め台詞なんか恥ずかしいし。。物語としてはどれも陳腐だったのが残念だった。うーん、大山さんってこんなんだったかなあ。デビュー作読んだ時の感触は良かった気がするけれど。正直期待外れかも。

陸王  (ねこ5匹)

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池井戸潤著。集英社文庫

埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」。日々、資金繰りに頭を抱える四代目社長の宮沢紘一は、会社存続のためにある新規事業を思い立つ。それは、伝統の技術を駆使したランニングシューズの開発だった。世界的スポーツブランドとの熾烈な競争、素材探し、開発力不足……数々の難問が立ちはだかるなか、従業員20名の地方零細企業が、一世一代の勝負に打って出る。ドラマ化もされた超話題作、ついに文庫化!(裏表紙引用)
 
気になっていた作品をついに読めた。面白いのは疑っていなかったけど、池井戸さんらしい勧善懲悪もので期待通り、いやそれ以上のワクワクする作品。
 
下町ロケット」のような、経営者が新しいモノを作って仲間と奮闘しライバルや悪役を完膚なきまでに叩くストーリー。こういうのみんな好きなやつ。老舗の足袋屋社長・宮沢が衰退する足袋業界を憂いて日本一のランナーに履いてもらえるランニングシューズづくりに着手する。素材や形状、資金やノウハウの問題にひとつひとつ立ち向かって、時には裏切られたり勇気づけられたり。最初は覇気のなかった息子の大地が成長していく様もいいし、縫製課のあけみさん(この人一番好きだったー)や冨久子さんたちのプライドと明るさも最高。時に父親のように会社を心配するゲンさんの気持ちもわかる…。元融資担当の坂本さんとか人気あるだろうなー。こういうのを信頼、人の絆、っていうんだろうなー、と池井戸作品ならくさいことでも照れずに思える。最初からいい人ばかりじゃないのもいいよね。その代表が顧問の飯山だと思うんだけど。最初めっちゃ嫌いだったけど、シルクレイへの想いは本物。こういう不器用な人も必要なんだなあ。あと忘れちゃいけないのがシューフィッターの村野。自分がランナーだったら、こういう人に面倒見てもらいたい。人って技術だけじゃないんだなあ。
 
全読者の敵ともいえる、ライバル社アトランティスの小原と佐山が早くぎゃふんと言わないか(古い)、イライラワクワク。ちょっと大手だからって調子のんな。人によって態度変えて、ランナーへの敬意も商品への愛情もありゃしない。ばーかばーか。
現融資担当の大橋は悪役なのかどうなのかってところ。そんな悪い人でもない気がする。坂本と比べるからかな。
 
池井戸作品のパターンというものがあるから、絶対成功するって分かってはいるんだけど、ライバル社の妨害やらこはぜ屋の買収やら、手に汗握ってハラハラしてしまった。会社経営は人と人との結びつきと、情熱だということがハッキリ伝わる素晴らしい作品だった。ドラマ観れば良かったな。。
 

デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する/Digital Minimalism:Choosing a Focused Life in a Noisy World  (ねこ3.5匹)

 

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カル・ニューポート著。池田真紀子訳。早川書房。 

やらなきゃいけないことも、やりたいこともたくさんあるのに、SNSがとまらない……。AppleTwitterが巧妙に仕掛ける依存の仕組みに抗うには、もはや一時的なデジタル・デトックスじゃ足りない。これは生き方の問題で、僕らには新しい「哲学」が必要だ。すなわち、デジタル・ミニマリズムスマートフォンSNSから可処分時間/可処分精神を守り、情報の見逃しを怖れず、大切なことを大切にできる思考法=実践法。1600人超を対象に行なった集団実験から導き出されたメソッド――30日間の「デジタル片づけ」を実行し、あなたもデジタル・ミニマリストになろう。テック界の「こんまり」として話題のコンピューター科学者による、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー & Amazonベストブック。(紹介文引用)
 
初めてKindleで買った字の本。デジタル断捨離の本をデジタルで読むという。。
 
コンピューター科学が専門のジョージタウン大学准教授が書いたデジタル断捨離のススメ。ご本人はSNSを一切やらないというが、世界中の人がいつでもどこでもスマホから一日中目を離せないのは何故なのかを考察し、調査し、その上で「SNSから離れてリアルの生活を大事にする方法」を提案してくれる。
 
自分は一時期グループラインやTwitterにかなりの時間を使っていて、自主的にデジタル断捨離を実行しており、それがかなり効果があったためこの本に興味を持った。SNSやニュースをチェックするその一回一回は数分でも、一日に換算すると2、3時間になっていたと思うので。本によると、多い人だと8~10時間とかネットサーフィンに使ってしまうとのこと。フェイスブックを一日85回チェックとか。ニュース記事や知恵袋なんて下の方に「あなたへのおすすめ」的なものがどんどん出てきて、気がついたら1時間…なんてこともあると思うしね。そしてその内容にイラっとしたり。人の投稿を羨んだり、いいねに一喜一憂したり、精神が疲弊するのにやめられないのはなぜか。
 
なぜ人はスマホを手放せなくなったのか、承認欲求とは何か、「いいね」に幸福を感じるのはなぜかという疑問にしっかり答えてくれる内容だった。アクセスするたびに「いいねが入っているか、より良い情報があるか」のギャンブル、いわゆるスロットマシンとはうまい言い方をする。人から認められているかどうかが気になったり隣の人の脇腹をつつきたくなる心理は人間の旧石器時代からの本能だという。それが生死に関わるのだ。人は群れをなし社会を形成する生き物で、他人の評価から離れては生きていけないということ。などなど。
 
それが分かっただけでも知りたかったことは理解できたので価値はあったが、共感できないことも多々あったかな。。自主的うんぬんは置いといて、外で音楽を聴くことや家でネットフリックスを観ることはムダなことではないと思うぞ。。。実演すべきことは、「仲間や家族と顔を合わせて話し、自然を愛し、モノを作り、本を読もう、ジョギングしよう、楽器を習おう」という、流行りの「ていねいな暮らし」推奨本。素晴らしい生き方だと心から思うし、ある程度は実践している。しかし現実社会のリアルな付き合いに疲弊することも多々あると思うのだけどね。。いいねを押すのをやめて、直接会いに行こうはいいとしても、コメントするよりも話したいから時間指定して友人に電話をしてもらうとか……ミニマリストに付き合わされる側も結構大変かも。たとえでインディアンの生活とかを引き合いに出してきたり。。まあ人それぞれ、この本に書いてあることを丸々実践するのではなく、自分に合ったやり方で断捨離しようということ。日に50回も100回もスマホをチェックせずにいられない人や何時間もスマホをいじっている人(グーグルマップや食べログ、分からない言葉を検索する行為も含む)映画を観たり本を読んでいる途中でも数回スマホをチェックしてしまう人は一度読んでみてもいいんじゃないかな。

怪談のテープ起こし  (ねこ3.8匹)

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三津田信三著。集英社文庫

自殺する間際にメッセージを録音して残す人がいる。それを集めて記事にしないか? 編集者時代の三津田に企画を提案したライターが突然失踪。後日、三津田の元に届いた1本のテープには何が。カセットやMDに録音された体験談に材を取った6つの怪異譚と、それらを連載し本になるまでの、担当編集者との裏話的なエピソードから成る作品集。この物語を読むあなたは恐怖を「体感」することになる。(裏表紙引用)
 
久々に三津田さんを。ずっとこの本のタイトル気になってたので。
 
ちょっと変わった体裁の怪談。作家三津田さんが編集者2人と新作の打ち合わせをする「序章」と、枠物語としての怪談をいくつか挟んだ後に挿入される「幕間(一)」「幕間(二)」、「終章」という構成になっている。要は、実話っぽいフィクション。各話に「まえがき」が入っていたり、読者に注意を喚起したり。お膳立てはバッチリという感じでさすが。
 
豪邸で、いないはずの伯母(らしきもの)に追いかけられるバイトの女子大生や、登山にやって来た男が目撃した一本足の足跡や、香典を届けるため一人旅に出た少年が出会った老人に不気味な話を聞かされる話や、一人暮らしのOLが毎朝出会う不気味な黒い男が自分の部屋まで近づいてくる話などなど…。いやあ、どれも怖かったよう!今感想書いてて怖いもん(読み終わりたて)。どれも怪異の原因や正体が分からないから余計怖いというか。。普通に怪談集、ってことで読んでも十分怖かったと思う。
 
ラストは単行本にはなかった文庫版出版に合わせての後日談が入っていて、これがリアルでまた怖い。最初に元編集者の吉柳という人から預かったテープに入っていた「死人のテープ起こし」が、それぞれのお話と意外な共通点を持っているっていうのが意外なまとめ方。そんなもんわかるか!って感じだったけど(日常的にあるものだし)、何か色々な人と現象がミックスされてて良かったな。編集者の時任さんが一体どうしたのかそれが一番の謎。
 
「黒面の狐」と繋がってるのかな?読まなきゃ。