すべてが猫になる

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龍の墓  (ねこ2匹)

貫井徳郎著。双葉社

東京都町田市郊外で発見された身許不明の焼死体。町田署の女刑事・保田真萩は、警視庁捜査一課の南条とコンビを組んで聞き込みを開始するが、事件解決に繋がる有力な手がかりを掴めずにいた。  そんな中、荒川区内で女性の変死体が発見される。その殺害状況が公表されるや、ネット上である噂が囁かれはじめた。〈町田と荒川の殺人は、人気VRゲーム《ドラゴンズ・グレイブ》の中で発生する連続殺人の見立てではないのか?〉一見、何の繋がりもないように思えた二つの事件だったが、やがてその噂を看過できなくなるような事態へと発展していく――。  VRツールが日常に浸透した〈すぐ先の未来〉を舞台に描く、怒濤のノンストップ・エンターテインメント!(紹介文引用)
 
貫井さんの新作長編は、VRの世界と現実を融合した近未来ミステリー。
過去に騙された経験からゲーム廃人となった元警察官の滝川が、現実で発生している連続殺人事件とVRゲーム<ドラゴンズ・グレイブ>内の推理ゲームがリンクしていることからとにかくがんばるお話。
 
う、ううん、ちょっと思いっきり文句を言いたいのでネタバレ記事とします。未読の方はご注意下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
VRゲームにする必要な~い。自分がRPGに全く興味がないというのもあるが、交互に展開するゲーム内のストーリーがとにかく退屈で。。スマホもほとんど廃れた近未来のお話なのに、全然未来感がない。10年20年も経てば人々の価値観はガラっと変わるのに、まだ女性の容姿が美醜がどうのこうのと書いてしまうこの神経。。
 
登場人物にもとにかく魅力がない。前半に出てきた、滝川を騙した女性なんだったの。。普通、ちゃんと身元を確認してから復讐しない?(普通も何も普通の人はこんなことしないが)滝川も滝川。夜の仕事の女性が「家族が病気で、、」「弟の仕送りが、、」「留学が、、」って言うのはもう常套手段というか、、こんなベタな設定にまだ近未来の人間が引っかかるんだ?と違和感しか覚えなかった。女性の方も、ちょっと滝川に詰められたらもう引き下がってるし、、こんな程度の思いで人の人生潰すなよ。。しかも、ひとつ推理が当たったからって知的犯罪を解決する仕事をしようとか随分浮き上がってるし。。ゲーム廃人をリアルに表現したかったのかな~?
 
警察側のキャラも結構ひどい。真萩はまあそれほど個性はないけど、上司の南条がひどすぎる。仕事できるの?できないの?容姿が良くて、若者の心を開くことができて、実は57歳の6児のパパで、、って何か色々詰め込みたくてスベってる感が。。
 
現実の事件も、SNSっていう動機はまあいいとして、被害者がどういう書き込みをしたのかとかどういう人物だったのかとか、少しでも描いてくれないと深みがないというか。あっさりしすぎい。そもそも、もうネットの正義マンをテーマにした小説は世に溢れているし、VRゲームが舞台というのも既視感がすごいし、、うーん。なんかもうこういうの飽きました、って感想になる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
貫井さんファンなのでまあこれからも読み続けるけれど、、これからは評判見てからにしよう。こういう挑戦的な姿勢をお持ちだからポツポツ傑作が生まれるのだけどね、最近当たりがないなと思って。。。
 
 

QED 源氏の神霊  (ねこ3.7匹)

高田崇史著。講談社文庫。

宮中を悩ませた妖怪・鵺を退治、 獅子王と呼ばれる刀を拝領したほどの武勇を誇り、 和歌にも秀でていた源頼政従三位を賜り、満たされていたはずの晩年、なぜ彼は挙兵したのか。 墓である頼政塚は、どうして祟りをなすと伝承されるのか。 京都・亀岡の頼政塚に放置された惨殺死体、 壇ノ浦で碇のオブジェに繋がれた遺体の連続殺人を軸に、 桑原崇が源平合戦の真実を解き明かす。 QEDシリーズ長編!(裏表紙引用)
 
QEDシリーズ第何弾かもうわからん。22ぐらい?
 
今回は源平合戦安徳天皇。源頼・・まさ。・・まさ??誰?と、いうぐらい歴史音痴のわたくしですが、まあこのシリーズを読む上でこの自分の反応はいつものこと。現代人が源氏筋だの平家筋だの、気にする人は気にするんだなあ、累係みたいなものって昔の人が強引に名乗ってたりするから結局真実はわかんないのになあ。と思いつつも、安徳天皇の性別やら漢字の成り立ちやら、知っている人は知っているであろう豆知識も私には初耳なので面白いなと思った。
 
まあそんなことより、今作でサラっと衝撃的一文が。
女子大生がタタルのそばにいる奈々に対して、
 
「奥さん」
 
・・・・・・・・・いつ結婚した??
 
沙織と熊つ崎の結婚よりも驚いたし、今でも驚いているんですけど。。
もうちょっとなにか。。プロポーズとか、、入籍とか、、式とか。家とか。情報ないんですかい。。

#柚莉愛とかくれんぼ  (ねこ3.7匹)

真下みこと著。講談社文庫。

3人組アイドルグループのメンバー・青山柚莉愛。 メジャーデビューを目指すも売り上げ目標を越えられず焦る日々。 ある日マネージャーの提案で動画配信ドッキリを実行し、ファンの混乱がSNSで広がっていく。 騙されたファンの怒りの矛先はマネージャーや事務所ではなく柚莉愛本人に向かってしまい――。(裏表紙引用)
 
第61回メフィスト賞受賞作。
なんとなくメフィスト賞を雑誌で漁っていくつかピックアップした本の一つ。表紙が可愛くて軽く読めそうだったので。実際ページ数も少ないしね。
 
内容は、ある売れない3人組アイドルのセンター、柚莉愛が運営に従って「血吐きドッキリ」を強制されたあと炎上し、柚莉愛本人がファンや関係者に追い込まれてしまうというもの。ファンや運営に対する不快感やこの世代の女の子の力のなさなど、とにかく言いたいことはたくさんあるが、、まあそんな真剣に考えさせられたりする必要はないのかなあと。実際こういう風に炎上してもいないものを操作する人間っているものだし。踊らされる人種の愚かさや弱い者にしか吠えられない哀れな人間のリアリティはあるけれど、とにかく勢いで読みきればそれで成功、ケータイ小説に近いのかも。そういう意味では面白く一気読みできてこれはこれでアリ。
 
ただ、腐ってもメフィスト賞作品なのだからもう少し仕掛けが斬新だったりヘンだったり、他と違う何かは欲しかった気がする。悶々としたまま終わった。

毒入り火刑法廷  (ねこ4.2匹)

榊林銘著。光文社。

数十年前、突如現れた“魔女”――箒に乗って空を飛び、黒猫に化けることができ、近くにいる人の感情を操ることができる存在。文明社会の秩序を脅かす魔女たちを取り締まる司法が“火刑法廷”であり、この裁判で魔女と認定された者は火炙りとなる。ある日、空を飛行したのでなければ不可能な死亡事件が起こる。魔女と疑いをかけられた被告の少女カラーをじっと見つめるのは、被害者の義娘となる予定だったエリス。エリスは知っていた。あの夜、本当は何が起こっていたのかをーー(紹介文引用)
 
「あと十五秒で死ぬ」ですっかりファンになった榊林さんの2作目。本作は魔女裁判をテーマにした長編ミステリで、ファンタジーっぽい特殊設定の効いた作品となっている。
 
ファンタジーと言ってもロジックは論理的で、犯罪を犯した者が魔女であるか否か、それだけを証明し魔女であればその場で火炙りという緊張感溢れるミステリー。主要キャラの1人オペラは火刑審問官。対する魔女(と疑われる)たちや弁護士たちとの対決が次々と繰り広げられる。読者は魔女たちが魔女であることを知っていながらどう詭弁を労して火炙りから逃げ切るかを楽しみつつ、決して間違っていないオペラ側もさりげなく応援――そういう構造になっている。どちらに肩入れしても面白いと思う。
 
キャラのほとんどが女性だが、数人「俺、僕言葉」だったりするので紛らわしいかも。。それは1人だけにして、キャラの差別化をして欲しかった。が、まあマンガっぽくてそこはいいでしょう。結構みんなカッコイイので。ずっと裁判を繰り返すのかと思ったら途中で主要キャラたちがとんでもないことになるし、そこからまた事件が混乱して膨らんでいくのがアツかった。特に終盤はドラマティックで過激。ミステリーの楽しみと派手な演出と両方楽しめるかな。結構頭使うけど、すごく面白かった。

厳冬之棺  (ねこ4.2匹)

孫沁文著。ハヤカワ文庫。

湖のほとりに建つ陸家の半地下の貯蔵室で、当主陸仁の遺体が発見された。この地下小屋は大雨により数日間水没していたにもかかわらず、その床は乾いており、誰かが外から侵入した形跡はない。まさに完全な密室状態だった。そして殺害現場には、なぜか嬰児のへその緒が。梁良刑事は直ちに捜査を開始するが、それを嘲笑うかのように新たな密室殺人が陸家を襲う…。華文ミステリ界の「密室の王」が放つ、本格謎解き小説。(裏表紙引用)
 
2024年の本格ミステリベスト10の2位作品ということでやっと読めた。華文ミステリには注目していたので、元々読みたいなと狙っていた本ではあった。著者は中国の「密室の王」と呼ばれるミステリ作家で、本書が初の長編ミステリらしい。
 
舞台は上海の郊外に建つ大屋敷、陸(リク)家。様々な因縁とヤバめの秘密を抱えるこの一家の長男が半地下の貯蔵室で窒息死していた。現場は元々水没しており、濡れていない遺体の謎から密室状態であることが分かる。人気漫画家で警察の非常勤似顔絵師でもあるアン・ジュンが探偵役をつとめ、助手にはリク家に間借りする声優の卵・ジョン・クゥ。やがて2番目の殺人が屋敷内で発生し、第3の殺人が。
 
米英ほかの作品に比べ、華文ミステリは読みやすい。同じアジア圏ということもあり、この作品では特に日本からのアニメ、漫画、芸能、ミステリ文化から色濃く影響を受けている印象で親しみやすく、どこか似ている。反面、日本人なら絶対言わないなという暴力的な台詞が若い女性から飛び出したり、喫茶店でレモンティーをわざわざ頼むなんて変な人、、なんていう「???」な価値観に触れることになったり、距離感が近いんだか遠いんだか分からない。だがここが面白い。
 
で、出来なのだが。要所要所に金田一少年の事件簿の影響が、、、笑。全盛期の島田荘司か!と突っ込みたくなるようなトンデモトリックの連続と、懐かしい時代の本格ミステリーのスタイルがとっても古臭く、だけど時代はオタク文化、新旧一体だかなんと言っていいか分からないけれど、そこがみょ~~~におもしろおかしく、はっきり言って好みにドンピシャだった。キャラクターも魅力的で、シリーズ続編の予定があると聞きぜひ読んでみたいと思った。

アリアドネの声  (ねこ4.4匹)

井上真偽著。幻冬舎

救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。 崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。(紹介文引用)
 
去年話題になっていた井上さんの最新作をようやっと読了。
 
巨大地震が発生し、地下都市に取り残された女性をドローンを使って救出するお話。その女性は目が見えず耳が聞こえず口がきけない三重障害を持っており、救助は困難を極めた。ネズミの大量発生、漏電、自動運転シャベルカーなど次々と立ちふさがる壁、ハルオら救助チームは彼女を救えるか。しかも同時期に失声症の女児が行方不明となり――。
 
よくここまでありとあらゆる困難が考えつくなと思う。映像化したらさぞ迫力だろう。初めは地下施設の説明やドローンの特性などの説明箇所がかなりの文量を占めるのでちょっととっつくにくかった。しかも、登場人物が全員性格が歪んでいたり熱血でウザかったりする。なんのため?と疑問に思う。要救護者の女性や通訳の女性ですら、詐称疑惑が生まれなんだか胡散臭く見えたりするのだ。
 
だが、それもすべて最後の真実を知るまで。多分、イライラしながら読んでいた人ほど感銘を受けると思う。もしかしたら自分はなんて心が歪んでいるんだと恥ずかしくなってしまうかもしれない。私のことだけど。まあとにかく最後のシーンだけで全て覆っちゃうぐらい、衝撃の結末だった。

赫衣の闇  (ねこ3.6匹)

三津田信三著。文藝春秋

ホラーミステリーの名手による、素人探偵「物理波矢多(もとろいはやた)」シリーズ第3作。戦中、満州の建国大学で五族協和の理想を求めた波矢多は、敗戦に接して深い虚無に囚われ、以後は国の復興を土台で支える職を求めようとする。抗夫として働く九州の炭鉱で起きた連続殺人事件を解決した(『黒面の狐』)波矢多は、上京して、建国大学で寝食を共にした級友・熊井新市の元に身を寄せる。新市の父・潮五郎は闇市を仕切る的屋の親分だった。波矢多は、潮五郎の弟分である私市吉之助から奇妙な依頼を受ける。私市が取り仕切る宝生寺の闇市、通称”赤迷路”にいつからか現れるようになり、若い女性のあとを付け回す全身赤っぽい男、”赫衣”の正体を暴いてほしいというのだ。赫衣に出くわした女性たちに話を聞いて回る波矢多だったが、そんな折、私市の経営するパチンコ店で衝撃的な殺人事件が起き、私市に容疑がかかる。事件の真犯人は誰なのか、そして赫衣の真相とは。戦後直後の猥雑な風俗のなかで繰り広げられる、無二の味わいのホラーミステリー。(紹介文引用)
 
物理波矢多(もとろい・はやた)シリーズ第3弾。
一応前2作も読んでいるのだがブログ休止中だったので記事になっていないようだ。。時代背景も好みで探偵も面白かったのでまあまあ好きなシリーズだったのだけど、この第3弾はちょっと気が抜けちゃったかな?三津田さんお得意の論理的解決にはほとんど至ってなかったよーな。時代的に理解が難しいすごい動機だったし。赫衣の男の怪異も、三津田さんにしては怖さが弱かったよーな。
 
でも、戦災孤児・清一の凄まじい過去や娼婦たちの背景などが真に迫っていたのでそのあたりは読み応えがあったし、第三国人やら人権問題やら、戦争によって狂わされてしまった人々の生活や考え方、人間のいやらしさなどなど八割方面白く読めたので嫌いではないかな。