すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

#柚莉愛とかくれんぼ  (ねこ3.7匹)

真下みこと著。講談社文庫。

3人組アイドルグループのメンバー・青山柚莉愛。 メジャーデビューを目指すも売り上げ目標を越えられず焦る日々。 ある日マネージャーの提案で動画配信ドッキリを実行し、ファンの混乱がSNSで広がっていく。 騙されたファンの怒りの矛先はマネージャーや事務所ではなく柚莉愛本人に向かってしまい――。(裏表紙引用)
 
第61回メフィスト賞受賞作。
なんとなくメフィスト賞を雑誌で漁っていくつかピックアップした本の一つ。表紙が可愛くて軽く読めそうだったので。実際ページ数も少ないしね。
 
内容は、ある売れない3人組アイドルのセンター、柚莉愛が運営に従って「血吐きドッキリ」を強制されたあと炎上し、柚莉愛本人がファンや関係者に追い込まれてしまうというもの。ファンや運営に対する不快感やこの世代の女の子の力のなさなど、とにかく言いたいことはたくさんあるが、、まあそんな真剣に考えさせられたりする必要はないのかなあと。実際こういう風に炎上してもいないものを操作する人間っているものだし。踊らされる人種の愚かさや弱い者にしか吠えられない哀れな人間のリアリティはあるけれど、とにかく勢いで読みきればそれで成功、ケータイ小説に近いのかも。そういう意味では面白く一気読みできてこれはこれでアリ。
 
ただ、腐ってもメフィスト賞作品なのだからもう少し仕掛けが斬新だったりヘンだったり、他と違う何かは欲しかった気がする。悶々としたまま終わった。

毒入り火刑法廷  (ねこ4.2匹)

榊林銘著。光文社。

数十年前、突如現れた“魔女”――箒に乗って空を飛び、黒猫に化けることができ、近くにいる人の感情を操ることができる存在。文明社会の秩序を脅かす魔女たちを取り締まる司法が“火刑法廷”であり、この裁判で魔女と認定された者は火炙りとなる。ある日、空を飛行したのでなければ不可能な死亡事件が起こる。魔女と疑いをかけられた被告の少女カラーをじっと見つめるのは、被害者の義娘となる予定だったエリス。エリスは知っていた。あの夜、本当は何が起こっていたのかをーー(紹介文引用)
 
「あと十五秒で死ぬ」ですっかりファンになった榊林さんの2作目。本作は魔女裁判をテーマにした長編ミステリで、ファンタジーっぽい特殊設定の効いた作品となっている。
 
ファンタジーと言ってもロジックは論理的で、犯罪を犯した者が魔女であるか否か、それだけを証明し魔女であればその場で火炙りという緊張感溢れるミステリー。主要キャラの1人オペラは火刑審問官。対する魔女(と疑われる)たちや弁護士たちとの対決が次々と繰り広げられる。読者は魔女たちが魔女であることを知っていながらどう詭弁を労して火炙りから逃げ切るかを楽しみつつ、決して間違っていないオペラ側もさりげなく応援――そういう構造になっている。どちらに肩入れしても面白いと思う。
 
キャラのほとんどが女性だが、数人「俺、僕言葉」だったりするので紛らわしいかも。。それは1人だけにして、キャラの差別化をして欲しかった。が、まあマンガっぽくてそこはいいでしょう。結構みんなカッコイイので。ずっと裁判を繰り返すのかと思ったら途中で主要キャラたちがとんでもないことになるし、そこからまた事件が混乱して膨らんでいくのがアツかった。特に終盤はドラマティックで過激。ミステリーの楽しみと派手な演出と両方楽しめるかな。結構頭使うけど、すごく面白かった。

厳冬之棺  (ねこ4.2匹)

孫沁文著。ハヤカワ文庫。

湖のほとりに建つ陸家の半地下の貯蔵室で、当主陸仁の遺体が発見された。この地下小屋は大雨により数日間水没していたにもかかわらず、その床は乾いており、誰かが外から侵入した形跡はない。まさに完全な密室状態だった。そして殺害現場には、なぜか嬰児のへその緒が。梁良刑事は直ちに捜査を開始するが、それを嘲笑うかのように新たな密室殺人が陸家を襲う…。華文ミステリ界の「密室の王」が放つ、本格謎解き小説。(裏表紙引用)
 
2024年の本格ミステリベスト10の2位作品ということでやっと読めた。華文ミステリには注目していたので、元々読みたいなと狙っていた本ではあった。著者は中国の「密室の王」と呼ばれるミステリ作家で、本書が初の長編ミステリらしい。
 
舞台は上海の郊外に建つ大屋敷、陸(リク)家。様々な因縁とヤバめの秘密を抱えるこの一家の長男が半地下の貯蔵室で窒息死していた。現場は元々水没しており、濡れていない遺体の謎から密室状態であることが分かる。人気漫画家で警察の非常勤似顔絵師でもあるアン・ジュンが探偵役をつとめ、助手にはリク家に間借りする声優の卵・ジョン・クゥ。やがて2番目の殺人が屋敷内で発生し、第3の殺人が。
 
米英ほかの作品に比べ、華文ミステリは読みやすい。同じアジア圏ということもあり、この作品では特に日本からのアニメ、漫画、芸能、ミステリ文化から色濃く影響を受けている印象で親しみやすく、どこか似ている。反面、日本人なら絶対言わないなという暴力的な台詞が若い女性から飛び出したり、喫茶店でレモンティーをわざわざ頼むなんて変な人、、なんていう「???」な価値観に触れることになったり、距離感が近いんだか遠いんだか分からない。だがここが面白い。
 
で、出来なのだが。要所要所に金田一少年の事件簿の影響が、、、笑。全盛期の島田荘司か!と突っ込みたくなるようなトンデモトリックの連続と、懐かしい時代の本格ミステリーのスタイルがとっても古臭く、だけど時代はオタク文化、新旧一体だかなんと言っていいか分からないけれど、そこがみょ~~~におもしろおかしく、はっきり言って好みにドンピシャだった。キャラクターも魅力的で、シリーズ続編の予定があると聞きぜひ読んでみたいと思った。

アリアドネの声  (ねこ4.4匹)

井上真偽著。幻冬舎

救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。 崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。(紹介文引用)
 
去年話題になっていた井上さんの最新作をようやっと読了。
 
巨大地震が発生し、地下都市に取り残された女性をドローンを使って救出するお話。その女性は目が見えず耳が聞こえず口がきけない三重障害を持っており、救助は困難を極めた。ネズミの大量発生、漏電、自動運転シャベルカーなど次々と立ちふさがる壁、ハルオら救助チームは彼女を救えるか。しかも同時期に失声症の女児が行方不明となり――。
 
よくここまでありとあらゆる困難が考えつくなと思う。映像化したらさぞ迫力だろう。初めは地下施設の説明やドローンの特性などの説明箇所がかなりの文量を占めるのでちょっととっつくにくかった。しかも、登場人物が全員性格が歪んでいたり熱血でウザかったりする。なんのため?と疑問に思う。要救護者の女性や通訳の女性ですら、詐称疑惑が生まれなんだか胡散臭く見えたりするのだ。
 
だが、それもすべて最後の真実を知るまで。多分、イライラしながら読んでいた人ほど感銘を受けると思う。もしかしたら自分はなんて心が歪んでいるんだと恥ずかしくなってしまうかもしれない。私のことだけど。まあとにかく最後のシーンだけで全て覆っちゃうぐらい、衝撃の結末だった。

赫衣の闇  (ねこ3.6匹)

三津田信三著。文藝春秋

ホラーミステリーの名手による、素人探偵「物理波矢多(もとろいはやた)」シリーズ第3作。戦中、満州の建国大学で五族協和の理想を求めた波矢多は、敗戦に接して深い虚無に囚われ、以後は国の復興を土台で支える職を求めようとする。抗夫として働く九州の炭鉱で起きた連続殺人事件を解決した(『黒面の狐』)波矢多は、上京して、建国大学で寝食を共にした級友・熊井新市の元に身を寄せる。新市の父・潮五郎は闇市を仕切る的屋の親分だった。波矢多は、潮五郎の弟分である私市吉之助から奇妙な依頼を受ける。私市が取り仕切る宝生寺の闇市、通称”赤迷路”にいつからか現れるようになり、若い女性のあとを付け回す全身赤っぽい男、”赫衣”の正体を暴いてほしいというのだ。赫衣に出くわした女性たちに話を聞いて回る波矢多だったが、そんな折、私市の経営するパチンコ店で衝撃的な殺人事件が起き、私市に容疑がかかる。事件の真犯人は誰なのか、そして赫衣の真相とは。戦後直後の猥雑な風俗のなかで繰り広げられる、無二の味わいのホラーミステリー。(紹介文引用)
 
物理波矢多(もとろい・はやた)シリーズ第3弾。
一応前2作も読んでいるのだがブログ休止中だったので記事になっていないようだ。。時代背景も好みで探偵も面白かったのでまあまあ好きなシリーズだったのだけど、この第3弾はちょっと気が抜けちゃったかな?三津田さんお得意の論理的解決にはほとんど至ってなかったよーな。時代的に理解が難しいすごい動機だったし。赫衣の男の怪異も、三津田さんにしては怖さが弱かったよーな。
 
でも、戦災孤児・清一の凄まじい過去や娼婦たちの背景などが真に迫っていたのでそのあたりは読み応えがあったし、第三国人やら人権問題やら、戦争によって狂わされてしまった人々の生活や考え方、人間のいやらしさなどなど八割方面白く読めたので嫌いではないかな。

監禁  (ねこ3.7匹)

秋吉理香子著。双葉社

幼い娘の育児と仕事の両立に限界を覚えた由紀恵にとって、今日が勤務の最終日。 夜勤の間は、夫の雅之が自宅で娘を見ている。 だが、ラインのメッセージに返事はない。電話をかけても繋がらない。 由紀恵は自分に執着していた不気味な患者の存在を思いだし、胸騒ぎを覚える。 家族の絶望と狂気、そして再生を描いた戦慄のサスペンス。(紹介文引用)
 
秋吉さんのサスペンスもの。タイトル通り、ある人物が何者かに監禁される物語。
 
監禁事件そのものよりも、看護師である主人公の由紀恵のお仕事物語の方が比重が高く面白かった。ワンオペ育児で仕事も鬼のように忙しく、ストーカーの悩みまである。特に育児と仕事の両立や自称イクメン夫など、読んでいるだけでしんどさが伝わってくる。でも仕事を諦めようと思った途端気づく職場での魅力みたいなものってあるよね。
 
まあそこはリアルで良かったのだけど、肝心の監禁事件の犯人の心理や言動などはちょっと浅かったかなあ。恐怖はあるけども。どんでん返しがあるので盛り上がりはあるが、せっかくのいいテーマが薄れてしまった感。まあ面白かったけど、由紀恵はほんとにこの夫でいいの?

サスペンス作家が殺人を邪魔するには/Finlay Donovan an Knocks 'Em Dead  (ねこ3.8匹)

エル・コシマノ著。辻早苗訳。創元推理文庫

オンラインの掲示板に元夫の殺害依頼が投稿された!? シングルマザーで作家のフィンレイは、子育てに奮闘しつつ原稿の執筆に取り組んでいた。だが元夫の件が気になって仕方がない。しかもある人物が依頼に食いつこうとしているのを発見する。どうやらプロの殺人請負人らしい。フィンレイは同居人のヴェロと一緒に、元夫が殺害されるのを阻止しようと奔走するが……。極上の巻きこまれ型ジェットコースター・サスペンス第2弾!(裏表紙引用)
 
フィンレイ・ドノヴァンシリーズ第2弾。前作「サスペンス作家が人をうまく殺すには」が良かったので続編をいそいそと。
 
うん、続編も面白かった!裏掲示板で元夫スティーヴンを殺そうとしている人間がいることを知ったフィンレイは、ベビーシッター兼親友のヴェロと共に駆け回る。ヤクザ、放火、生首死体などなどとんでもない目に遭いながら、子育てに恋愛に大忙しのフィンレイ。ちょっとワニ町シリーズとノリが似てるかな。あっちもそうだけど、こういうのって<巻き込まれ型>って言わないと思う笑。自分に関係することとはいえ、自分から首突っ込みまくってるからね。。相変わらずスティーヴンはイヤなやつ。自業自得とはいえ、離婚しても子どもがいたら関わらなきゃいけないのって辛そう。
 
サスペンス的にも怪しい人がいっぱいいてスリル満点だけど、ホットなセクシー警官ニックと将来有望な弁護士の卵ジュリアンとの間で板挟みの三角関係、この要素が半分くらい入ってるかな~~。ジュリアンはやめたほうがいいと思うけどねえ。。暴力とかはなさそうだけど、旅行中インスタに鍵をかけるとかなんかいちいちめんどくさいよね。「この今の関係が気に入ってる」とかいう奴はやめとけやめとけ。ニックはニックで仕事柄心配になりそうだけど、、なんかニックが可哀想だよ。
 
で、殺人犯が明らかにならないまま、続く。