すべてが猫になる

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赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。  (ねこ4匹)

青柳碧人著。双葉文庫

日本の昔話をミステリで読み解き好評を博した『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に続き、 西洋童話をベースにした連作短編ミステリが誕生しました。 今作の主人公は赤ずきん! ――クッキーとワインを持って旅に出た赤ずきんがその途中で事件に遭遇。 「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」「眠り姫」「マッチ売りの少女」を下敷きに、小道具を使ったトリック満載! こんなミステリがあったのか、と興奮すること間違いなし。 全編を通して『大きな謎』も隠されていて、わくわく・ドキドキが止まりません!(裏表紙引用)
 
「むかしむかし~」シリーズ第2弾。
前作が日本の童話をモチーフにしていたのに対し、今作は西洋の童話を下敷きにした連作短篇集。しかも、今回は探偵役として「赤ずきん」が全作の主人公となっていて、赤ずきんが目指すシュペンハーゲンまでの道中で様々な事件に遭遇するという構成。使われているのは 「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」「眠り姫」「マッチ売りの少女」。今回はすべて子どものころ持っていた本だったので嬉しかった。
 
赤ずきんと西洋童話の主人公たちがタッグを組んでミステリーになるということなので、まあそれだけで楽しめたぐらい。トリックやロジックは前作のほうが上だったかな~とどの作品でも思ったのは思ったのだけども、自分が知っているキャラクターとはちょっと(かなり?)違うヘンゼルやマッチ売りの少女の黒さにドン引きしながらも喜んでいる自分がいた。。。(もともと、童話って本当は怖い話だと言うよね)
最後のマッチ売りの少女のお話で、今まで登場したキャラクターたちがぞろぞろ出てくるのもテンション上がる。欲を言えば、もう少し伏線回収が丁寧だと良かったかな。話の黒さにそっちで持ってかれちゃった印象。
 
いや、でもやっぱり変わらず面白かった!映画化にビックリ。。

イマジン?  (ねこ3.5匹)

有川ひろ著。幻冬舎文庫

「朝五時。渋谷、宮益坂上」。 その9文字が、良井良助の人生を劇的に変えた。飛び込んだのは映像業界。物語と現実を繫げる魔法の世界にして、ありとあらゆる困難が押し寄せるシビアな現場。だがそこにいたのは、どんなトラブルも無理難題も、情熱×想像力で解決するプロフェッショナル達だった! 有川ひろが紡ぐ、底抜けにパワフルなお仕事小説。(裏表紙引用)
 
有川さんの文庫新刊は、映像業界で成長していく青年たちを描いた爽やかお仕事ストーリー。私も映画やドラマは観るほうなので映像の世界の常識や裏話など色々と興味深い内容だった。主人公のイーくんはよく気が付くよく走る元気でかわいい好青年だし、先輩や社長も強面ながら情に厚く生き生きと描かれている。出てくる女優さんや俳優さん、セカンドの幸や金庫番の今川などなどもそれぞれ分かりやすく出来る人で、キャラが立っていて良かった。
 
※以下、歪んだ人間の感想です。
 
 
 
 
 
ただねえ。。
有川さん、イタイわ~。。。。
1作目のモデルは自作の「空飛ぶ広報室」なのだろうけど、クライマックスの感動シーンで「自衛隊のエライ人からもらった、最高の賛辞」使っちゃったよ。。。すいませんが、「何の自慢?お世辞ってご存知?」って最悪なこと思ってしまった。「植物図鑑」をモデルにした4作目だってそう。「原作と映像化のキャストがイメージと違っても、それを本人や応援してる人の目の届くところに書かないで、だって現場はこんなに頑張っているんです、いやなら黙って観ないで」だもんね。。例の騒動の時の主張もコレも、おっしゃるとおりの正論ですべてが間違っているとは思わないんだけどね。時代を読めてないのかなあ、自作で説教するようになったかあ、残念。。
「ピンチを救うため、酔ったふりした女性スタッフがイーくんに熱烈キス、その機転を褒める仲間(両思いだからいいものの、違ったら?これ男女逆だったらって考えた?)」「寒空にアイスを買ってきたイーくんをバカだアホだといじって現場があったまる(中学生の部活か?)」こんな感じじゃないと円滑に仕事が回らないなんてやっぱちょっとこの業界の人ってズレてるのでは。。
 
作者が「悪」と分かっていて描くものと(パワハラセクハラの描写など)、おかしいことをおかしいと自覚せずに描いている場合とは受ける印象が違う。
 
ちょっと他にいないぐらい面白い作品を描く作家さんなので、もしそれがそういう描写あってのものだったとすれば、、、思うところあって素直に楽しみきれなかった。みんな絶賛だし、めちゃくちゃ面白い読ませる作品なのは間違いないのだけどね。

優等生は探偵に向かない/Good Girl, Bad Blood  (ねこ4匹)

ホリー・ジャクソン著。服部京子訳。創元推理文庫

友人の兄ジェイミーが失踪し、高校生のピップは調査を依頼される。警察は事件性がないとして取り合ってくれず、ピップは仕方なく関係者にインタビューをはじめる。SNSのメッセージや写真などを追っていくことで明らかになっていく、失踪当日のジェイミーの行動。ピップの類い稀な推理で、単純に思えた事件の恐るべき真相が明らかに……。『自由研究には向かない殺人』待望の続編。この衝撃の結末を、どうか見逃さないでください!(紹介文引用)
 
大ヒットした前作「自由研究には向かない殺人」の続編。これは絶対に前作を読んでから読まないと、冒頭から前作のネタバレのオンパレードを食らう。前の事件からそう日にちが経っていないのでまだ解決していない問題(マックスの婦女暴行事件など、裁判は続く)が山積み。ピップも散々な目に遭ったので、前向きな気持ちで新しい事件に取り組めるはずもなく。。しかし親友の兄が行方不明ということなので気力を振り絞って頑張った。
 
今回もSNSを駆使してイマドキの女子高生らしく捜査が進む。LINE画面のスクリーンショットポッドキャスト、証拠品の写真を掲載するなど凝りに凝っていて楽しい。まあ、内容は全然楽しくないが。。へたすると、犯人や重大な秘密を持ち行方不明事件に関わったあの人の方が感情移入できるかもしれない。それよりもピップを中傷するネット民や幼稚なピップの友人、のうのうとのさばっているレイプ犯などのピップを取り巻く悪質な周りの人々が不快。高校生にこれだけの荷を負わせるのはちょっと。。。タイトルは皮肉なのか直接的なのか分からないけれど、決して「優等生」ではないピップは正義感を抑制できず悪に立ち向かい、時にはキレて暴力に走る。そこが他の「大人の探偵」にはないシリーズの魅力なんだろうが、痛々しかった。まあ、恋人未満のラヴィや親友のカーラ、優しい両親がいるから大丈夫だろうが。。
 
行方不明事件は解決したものの、まだまだ天誅を下していない人物はいるしピップの評判はどうなったのかなど気になることがてんこもり。個人的には前作よりスラスラと読めて面白かったので、第3弾を楽しみに待つ。

落日  (ねこ3.8匹)

湊かなえ著。ハルキ文庫。

わたしがまだ時折、自殺願望に取り付かれていた頃、サラちゃんは殺された── 新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。 十五年前、引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた『笹塚町一家殺害事件』。 笹塚町は千尋の生まれ故郷でもあった。香はこの事件を何故撮りたいのか。 千尋はどう向き合うのか。そこには隠された驚愕の「真実」があった……令和最高の衝撃&感動の長篇ミステリー。(紹介文引用)
 
湊さんの文庫新刊。ドラマ化もされるようでなかなかの意欲作に仕上がっていたと思う。内容が濃くて重くて読後どっしり疲れた。最後に希望や感動がありつつもそれを凌ぐほどに。
 
語り手の変わる現代の章と過去の章との二部構成。
現代の主人公は駆け出しの脚本家甲斐千尋。自殺する1時間前の人々を描いた映画で賞を獲った長谷部香監督から脚本の打診があり面会するも、監督が描きたいのは千尋が生まれ育った笹塚町で起きた一家殺害事件に関するものだった。想像していたものとかけ離れていた千尋は、一度はその依頼を断ったが―。
過去の章では映画監督香が語り手となる。香は子ども時代、成績が悪いと母親にベランダに締め出されることが多かった。その際、同じくベランダに出されていたらしき隣人の子どもと指先での会話を交わすようになる。やがて香の父親が自殺し、引っ越しを余儀なくされた香。しかし自分を支えてくれた、顔の知らない隣の家の「サラちゃん」を忘れることはなかった――。
 
「笹塚町一家殺害事件」についてそれほど執着も記憶もない千尋と、世間ではそれほど騒がれていないこの事件に過度の執着を持つ香との対比がいい。異常なほどサラちゃんを美化している香に対して冷めた視点で真実を探る千尋千尋自身にも不幸な経験があり(挿入される姉へのメールはあからさまなぐらい違和感があるのでどういうことはすぐに分かったが)、香やサラ、犯人であるサラの兄・力輝斗、そして千尋。それぞれに起きた事件や関わった人々がどう繋がり合って力輝斗が一家殺害という暴挙に走ったのか、気になることが多すぎてページをめくる手が止まらなかった。
 
ミステリーとしてはよく考え抜かれていて良かったと思う。タイトルの「落日」もネガティブな意味だと思っていたら最後に泣かされたしさすがという感じ。これを白湊さんとするか黒湊さんとするかは意見の分かれるところかな。自分的には、不愉快な描写がこれでもかと出てきた時点で黒を推したいところだが。。いじめ自殺や虐待はもとより、映画監督の香が鼻について。。そもそもなぜいい大人が仕事を頼もうという初対面の千尋にタメ口なのだ?この業界ではそれが普通なのかい。千尋のいとこの医者の他人を見下した物言いもイライラしたし、香の幼稚園の同級生マサもいちいち何様って感じだったのだが。。って、千尋も目上の人間にハッキリ物を言い過ぎ。。まあこれぐらい過激で大げさじゃないと面白みもないんだろうが、こんなやつおらんやろレベルのものを持ってこられるとそうしたほうが物語の進行上都合がいいんだろうと思ってちょっとガッカリもしてしまうわけ。キャラクターの性質を途中から変えているわけじゃないので別にいいんだけどね。面白い作品であることに変わりはない。
 

希望の糸  (ねこ3.8匹)

東野圭吾著。講談社文庫。

小さな喫茶店を営む女性が殺された。 加賀と松宮が捜査しても被害者に関する手がかりは善人というだけ。 彼女の不可解な行動を調べると、ある少女の存在が浮上する。 一方、金沢で一人の男性が息を引き取ろうとしていた。 彼の遺言書には意外な人物の名前があった。 彼女や彼が追い求めた希望とは何だったのか。(裏表紙引用)
 
加賀恭一郎シリーズ、わーい!と喜び勇んで読み始めたものの、実質的な主人公は加賀さんの従兄弟・松宮だった。まあいいんだけど。ちょこちょこ加賀さんも出てくるしね。まあ気を取り直して。
 
松宮が捜査するのは、カフェ店主殺害事件。しかし店主の弥生は誰に聞いても「いい人」という評価しか返ってこないような人格者だった。金銭目的でもなく、交際していた男もいない。一体誰がどういう動機で殺したのか?
一方、カフェ常連の汐見と弥生との関係性に目をつけた松宮。汐見には震災で2人の子どもを亡くし、さらに数年前妻を白血病で失うという過去があった。体外受精により授かった娘と現在は2人暮らし。何やら事件に関連がありそうだが。。
弥生の元夫・綿貫も意味ありげに登場する。子どもを授かれなかったという理由で弥生とは離婚し、現在は内縁の妻とマンションで暮らしている。事件の直前に弥生に呼び出されていたようだ。
そして松宮自身にも自分の生い立ちに関する試練が立ちはだかる。死んだと聞かされていた父親が生きていて、末期ガンで余命いくばくもない状態だというのだ。父親は松宮を認知したいと書き残しており、戸惑う松宮。母親に事情を聞いてものらりくらりと躱すばかりで。。
 
↑と、人間関係が複雑なのでほぼ自分のために書いた登場人物紹介。事件の犯人は早々に判明するが、その動機が明かされるのは終盤。すべての謎を紐解いて、多くの人々が翻弄された絡まった運命の糸がほぐれてからようやく松宮の物語が意味を帯びてくる。血縁関係なく親の愛って凄いなあとも思うし、クリニックの医師たちを信じられないとも思うし、松宮のところも加賀さんに負けじと劣らない家庭事情があったんだなと驚いた。まあ、母親同士の秘密については「またコレか」と思わなくもないし(最近、どの映画でもこの要素入れないとクレームでも来るの?と思うぐらい多い)、綿貫の「子どもができなかったから離婚→子どもができたら結婚」という生き方が気に入らなかった。最後の父娘の心を通わせ合うシーンがあってトントンといったところだが。ちょこちょこ心理的に?なところもありつつ、やっぱり加賀さん主人公じゃないと少し落ちるな。いや面白かったけども。面白かったというのが大前提だけども。

マーダー・ミステリ・ブッククラブ/The Murder Mystery Book Club  (ねこ3.8匹)

C・A・ラーマー著。高橋恭美子訳。創元推理文庫

ミステリ好き、クリスティ好きなアリシアとリネットの姉妹が出した読書会メンバー募集の告知に応えてきたのは、古着ショップのオーナー、医師、主婦、図書館司書に博物館勤務員といった面々。ところが二回目の読書会で早くもトラブルが。主婦のバーバラがあらわれなかったのだ。家にも帰っておらず、事件に巻き込まれた可能性も。アリシアは読書会のメンバーの協力のもと捜し始めるが……。マーダー・ブッククラブ・シリーズ開幕。(裏表紙引用)
 
うん、気に入った。本書は元々「アガサ・クリスティ・ブッククラブ」というタイトルで出版されたらしい。が、混乱を避けるために変更したとのこと。そりゃそうだ。というわけなので、クリスティファン(特にポアロ)にはよだれもののミステリ・シリーズとなりそう。捜査方法や事件のヒント、名台詞の引用などのすべてがクリスティ作品をオマージュしており、作品のみならずクリスティ自身の生き様さえも踏襲している。とにかく全編クリスティ色に染まった作品なのだ。(でも作者はイギリスじゃなくてオーストラリアの人なんだよね。背表紙がイエローだから勝手に勘違いしてた)
 
ヒロインはミステリー好きの出版社勤務アリシア。プロ級の料理人リネットも趣味を同じくしており一緒に活動するので、ほぼダブルヒロイン。純文学の読書会に間違って参加してしまい高尚な会話が肌に合わず(笑)、それなら自分でミステリーの読書会を作っちゃおうと新聞広告に募集要項を掲載。かくして集まったのはクリスティマニアで個性的な面々。開催2回目にして「なんか不幸そうな主婦」バーバラが行方不明になるわおしゃべりな図書館員ミッシーが轢き逃げされるわ、メンバーに不可解な災厄が。。
 
危険な状況に一人で乗り込んでいくとか、容疑者を次々怒らせるなど綱渡り状態が多いのでハラハラする。アリシアの正義感の強さは好感が持てるものの、真っ直ぐすぎて目が離せない感じ。メンバーで言うと古着屋店員クレアの「4年も婚約状態」にモヤモヤした。明るい博物館員ペリーはゲイなんだな、とすぐ分かるので賑やかしのポジションかな。独身医師アンダースとアリシアは結ばれる気がしない、、と本を読みなれている読者ならすぐピンときそう。うーん、気の毒だけど嘘は嘘だからね。「独身」って言う必要あった?バーバラの娘ホリーは確かにかわいそうだけど、あんな口の利き方する子ども私なら擁護したいと思わないなー。それに、「暴力ふるってない」からそこまで悪い夫じゃない、みたいなアリシアの言い分も納得いかないなあ。世の中にはそれよりタチの悪いモラハラというものがあってだね。まあ、それ以上にバーバラもどうかと思うけど。
 
でもまあ事件はちゃんと推理による解決だったし(クリスティの足元にも及ばんが、コージーミステリーだからアリかな)、人間ドラマやロマンスも生き生き描かれているし、なによりキャラクターは全員立っていて楽しいシリーズだな。続編もおねがいしたい(邦訳を)。

熊金家のひとり娘  (ねこ3.5匹)

まさきとしか著。幻冬舎文庫

北の小さな島で、代々娘一人を産み継ぐ祈禱の家系に育った熊金一子は、神と畏れられる祖母と「血」から逃れるため島を出る。やがて大人になり、男の子の母親になることを願う一子が産んだのは――やはり女だった。明生と名付け息子のように育て愛そうとするが、ある日明生が失踪。一子は「バチが当たった」と怯えていた。母娘の愛を問うミステリ。(裏表紙引用)
 
まさきとしかさん、文庫読破かな。
 
本書は北海道の閉鎖的な村で祈祷師の家・熊金家に生まれた一子という女の一生と運命を綴ったお話。熊金家の女は必ず女の子をひとりだけ産み、跡を継がなければならない――そんな異常とも言える祖母の呪縛に囚われ続けた一子。しかし産まれたのは男の子だった。一子は長男を女の子として育て、次女のことは普通に女の子として育てる。そんな環境で育った息子がまともになるはずはなく――。
どれもこれも、異常な風習が生み出した不幸の連鎖という気がする。元凶はあの祖母じゃないの?と思うぐらい、いくら閉鎖的な土地とはいえ時代にそぐわない風習。完全に虐待。しかし血は争えないのか、一子の一生は男に翻弄されていく。
 
うーん、前半はテーマがはっきりしていて良かったのだけどあまり伝わるものはなかったような。まとめると先に書いたようなことになるのだろうけど、刺してくる感じがなかったというか。印象としては、光るものはあるがまだまだまさきさんが完成される前の作品。