すべてが猫になる

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ドアを開けたら  (ねこ3.7匹)

大崎梢著。祥伝社文庫

鶴川佑作は動揺を隠せなかった。引っ越しの準備をする佑作がマンションの同じ階に暮らす串本を訪ねると、彼はこと切れていたのだ。来客対応中だったらしい。老齢ながら彼は友人だった。通報もせず逃げ出す佑作。だが、その様子を高校生の佐々木紘人に撮影され、部屋に戻れと脅迫される。翌朝、動画の消去を条件に佑作は紘人と再訪するが――今度は遺体が消えていた!(裏表紙引用)
 
珍しく大崎さんの本に関連しない作品を読んでみた。ネットで買い物してたら、「あなたへのおすすめ」みたいなやつに出てきて「あら、面白そう」と思ってポチった本。あの宣伝って結構効果あるのね。
 
で、内容。帯の煽りが凄いので、純粋な論理詰めの本格ミステリーかと思ったらちょっと違った。祐作は独身わけあり無職54歳、不登校高校生紘人がコンビを組んで独居老人死体消去事件を探るわけだけど、この2人も最初はなんだかヤな感じだったのよね。祐作は友人の死体を発見しても通報しないし、紘人は盗撮して脅迫してくるし。これは、登場人物の行動にいちいちイライラする系?と思っていたら。。純粋な人情ミステリーだったっていう。
 
マンション中でイヤな疑いをかけられた串本さん、こりゃ噂のまんまの人ではないな、、と思いつつ、こんな大事件が関わっていたとはビックリだ。えー、どんな理由があっても今の時代小学生女子に話しかけるなんて自殺行為だよ、と思わなくもないが、このケースではそうせざるをえない説得力があったな。死体移動の件は中盤であっさり判明するので肩すかしはそこぐらいかな?よく考えられた犯罪だったし、しぶとく調べまわってよく頑張ったな祐作、って感じ。基本、54歳の無職の独身男性がマンションで奥さま方や学生に話を聞いてまわる、ってかなりハードル高いと思う。ちょっと昭和レベルにご近所同士の交流があるヘンなマンションだな、とは思うけれど。
まあ思っていたより良かった。祐作と紘人はこれからどうなるのかな。同じような心の傷を持つ2人だから、その気になればまた会えるよね。

アロワナを愛した容疑者  (ねこ3.8匹)

大倉崇裕著。講談社文庫。

有力政治家の三男が殺害された。現場で飼われていたアロワナは、十年前にシンガポールの実業家のもとから盗まれた個体だと判明。窓際警部補・須藤友三、生き物オタクの巡査・薄圭子のコンビは、密輸ブローカーに焦点を絞り調査を開始する。タカやランが関わる事件も同時収録。痛快アニマル・ミステリー!(裏表紙引用)
 
警視庁いきもの係シリーズ第5弾。待ってたぞ。表紙に福家警部補がいる…笑。
タカ、アロワナ、ランの中編がみっつ。
 
「タカを愛した容疑者」
独居老人撲殺事件発生。なんと薄ちゃんが事前に老人と口論しており、そのせいで容疑者に。絶対に信じない須藤さんがいいね。飼い犬の失踪とタカを使った犯行が結びつくのがいい。顔を殴らなかった理由も納得。
 
「アロワナを愛した容疑者」
福家警部補の依頼でアロワナ密輸殺人事件を捜査する須藤さん&薄ちゃん。フィッシュマフィアなんてのがいるのねえ。。新キャラかな?京都弁の静警部補が面白い。てか、福家警部補に続くなんて大倉さんイジワルだわあ。。文庫まだ?
 
「ランを愛した容疑者」
「いきもの」だから植物も範疇に入るのね。今まで植物ネタあったっけ?
警察博物館に復帰した薄ちゃん。。出だしのG何千匹はやめてくれ。。。
ランを愛した被害者、って感じかな?階段から転落死した社長は本当に事故だったのか、それを見抜く薄ちゃん&須藤さん。
 
いつも通り安定の面白さだった。薄ちゃん下ネタ増えてない?相変わらずの会話の噛み合わなさったら。。笑。容疑者の動機が、動植物を愛す、っていう制限があるにも関わらずネタが尽きないの凄いね。ギヤマンの鐘事件の集団からも2人は命を狙われているみたいだし、、さてどうなりますか。

アリスが語らないことは/All the Beautiful Lies  (ねこ4匹)

ピーター・スワンソン著。務台夏子訳。創元推理文庫

大学生のハリーは、父が崖から転落して死んだと知らされる。実家に戻ると、美しい継母アリスが待っていた。刑事の話では、父の死体には殴打の痕があった。ハリーはアリスと話し合うが、その態度に違和感を覚える。これは事故か、仕組まれた死か? 過去と現在が入り交じった2部構成で描かれ、ある場面で読む者の予想をはるかに超えた展開が訪れる。『そしてミランダを殺す』の著者の恐るべき筆力を堪能できる圧巻のサスペンス!(裏表紙引用)
 
「ケイトが恐れるすべて」「そしてミランダを殺す」が良かったので、こちらも。1,2作目と比べ少し勢いが落ちたかな?と思わなくもないが、変わらず面白かった。
 
<現在>の章。父親ビル、継母アリスと暮らすミステリ好きの大学生ハリー。ある日突然父親が散歩中に足を踏み外し転落死したと聞かされ、呆然とする。残された継母との暮らしはハリーに変化をもたらしたが、父の死に疑惑があると感じアリスへの思慕が揺らぎ始める。
 
<過去>の章。若い頃のアリスが登場する。アル中のシングルマザーに育てられたアリスは、突然継父となったジェイクに心惹かれる。やがて彼らは母親の居ぬ間に情事を重ねるようになるが…。
 
過去と現在が交互に展開するとともに、現在のあの人物が誰なのか、現在起きた事件は誰が引き起こしたものかが露呈する。ジェイクとアリスの関係は読んでいて気まずいものだったし、ハリーとアリスの関係も何かを示唆しているようでちょっと不気味。健全ではない不穏な感じ。そもそもの悪人、下手人は明らかになって破滅していく様はそりゃあ面白いが、なんとなく作中で流されたままになっているアリスの人格が1番恐ろしいのでは。。誰も何も言わないけど、諸悪の根源はここにあるんじゃないかと思わせるのはうまい。全体的にドロドロしてる、この絶望的なラストも因果応報?なんて考えてしまったり。
 
 

ネオカル日和  (ねこ3.7匹)

辻村深月著。講談社文庫。

小学生の頃、図書室で出会った本の記憶。夏休み、訪れた田舎で出会った古い土蔵。放課後、友達と買い食いした駄菓子屋。すべてはこの世の物語を紡ぐために。日本の新文化を徹底取材したルポを中心に著者が本当に好きな物だけを詰め込んだエッセイ集。掌編&短編小説4本も特別収録する贅沢すぎる玉手箱。(裏表紙引用)
 
辻村さんの初エッセイ集。前回読んだ「図書室で暮らしたい」がなかなか良かったのでこちらも読んでみた。表紙がカワイイ。新聞連載を集めたものと、ショートショート&短篇。
 
本書では藤子・F・不二雄先生への愛がふんだんに詰まっている。大山のぶ代さんとの対談(すごい!)やドラえもん映画への深い造詣、思い入れなどその情熱は尊敬の域に値する。私は毎週アニメを観ていたし、コミックスも20冊くらい持っていて繰り返し読んだ。「パーマン」も観ていて、こちらは何冊か持っているだけだったかな?パーマン3号が好きで、持っていたペンケースに星野スミレのサインを真似して書いたことまである。でも最終回の話は知らなくて驚いた。ふーん、そうか、3号は1号のことを…へ~え。そういうわけでとても楽しく読めたのだが、実は映画ドラえもんは観たことがない。このエッセイを読んでいると観てみようかな…と思わせるから不思議だ。本では今だに読んだことのない「モモ」やこれまた読んだことのないズッコケ三人組が気になった。
 
他にも辻村さんの趣味全開のネタが詰まっている。ガンダムポケモン銀河鉄道999、フジロック、パワースポットとベタベタなものばかり続くので意外と辻村さんってミーハーなのね…とチラっと思ってしまったことは謝りたい。もちろんそうではないことは承知よ。
 
あとはショートショートや既読の短篇(覚えていなかったが)、未読の短篇なども収録。たい焼きのお話が切なくて良かったけど他はそれほどかも。
 
全体的には「図書室~」のほうが読みやすくて楽しかった。けど本や漫画などを愛するあまり作るほうへもシフトし、直木賞受賞。誰でも愛さえあれば叶うことではないのでやはりその才能には素直に敬服する。

アンチ整理術  (ねこ4匹)

森博嗣著。講談社文庫。

整理・整頓は何故必要なのか? 大学の研究室、芸術家のアトリエ、漫画家の作業場……。 素晴らしい作品が生まれているのは凄まじい散らかりようのなかだ。 物理的な整理ではなく、自分自身の内側と「環境」を整理・整頓してみよう。 人気作家が語る、自由に楽しんで生きるために大切な創造的思考と価値観。(裏表紙引用)
 
最近好きな作家のエッセイに無闇矢鱈手を出している。この本を読んだのは整理術を学びたいからというより森さんの本なら何でもいいやと思ったからという気持ちが半分。世間では断捨離やらミニマリストやら収納術やらの本が流行っているようだが、自分はミニマリストでも散らかし屋でもなかったりする。でもこういうジャンルの本を読むのは好きだ。
 
リアルでは一応整理整頓派の自分だが、ネットではそうでもないな、色々ストレスがかかったり迷ってたりしているな、と自覚しているのでなかなかこの本は役に立った。もちろん作者は天邪鬼の森さんなので、片付ける必要はない、散らかっているほうが作業は捗る、という独自の考えを展開されている。作家の仕事も好きだからやっているのではないというのは今まで読んで来た本でも再三書かれていた。モノじゃなく思考を整理する、常に頭を使う、人間関係を片付けるという言葉が印象に残る。続けることも大事。自分がブログを時々「めんどくさいな~この本書くことないな~」と思いながらも続けて来られたのは、ちょっとでも頭を使いたかったからに他ならない。もちろん交流や感想を書くことが基本的には楽しいというのは大前提としてある。本当に頭を使って書いたのかねと思われそうなしょぼ記事が多いのは百も承知だが、例えば自分で簡単なあらすじを書くだけでも結構頭を使うのだ。トシとともに身体やメンタルが思い通りにならないことが増えたので早々に頓挫するかもしれないが…いやほんと、気合いでは思い通りにならないことが増えた。

ある女の証明  (ねこ3.8匹)

まさきとしか著。幻冬舎文庫

主婦の小浜芳美は、新宿でかつての同級生、一柳貴和子に再会する。中学時代、憧れの男子を奪われた芳美だったが、今は不幸そうな彼女を前に自分の勝利を嚙み締めずにはいられない。しかし――。二十年後、ふと盗み見た夫の携帯に貴和子の写真が……。「全部私にちょうだいよ」。あの頃、そう言った女の顔が蘇り、芳美は恐怖と怒りに震える。(裏表紙引用)
 
まさきさん3冊目。すっかりハマってしまった。
 
今作もイヤミス全開。貴和子に関わった人間はみんな不幸になる?ってことでいいのかな。最初は78歳の老人と婚約する多恵というワケあり女性が登場して、これが貴和子なのかな、人生の節目節目で誰かから大事な誰かを奪ってそれを続けているのかな?と想像していたのだけど…なんだかそういうことでもなさそう。貴和子の視点が出て来ないのと、時系列を逆に進めていく構成なので組み立て方がよく分からない。悪女、というわけでもなく、誰かが勝手に貴和子に嫉妬したり惚れたりして破滅していく。特に貴和子が何かをした、という感じではないので逆に恐ろしい。虐待されて育った貴和子が、何でも持っている人間に近づいたり影響を与えたのは間違いないのだろうけど。1人の女の人生を辿っていくとともに、謎を残したまま物語が終わる。作風が真梨さんソックリで、こんがらがって分からなくなってしまった。ほとんどの人が理解できなかったようで、私もなんとかまとめてくれた人のネタバレ考察を読みにいく始末。これ、分かってもまだなんだかよく分からないな。面白かったからまあいいか。

リアルの私はどこにいる?  (ねこ3.8匹)

森博嗣著。講談社タイガ

ヴァーチャル国家・センタアメリカが独立した。南米の国や北米の一部も加え一国とする構想で、リアル世界とは全く別の新国家になるという。リアルにおける格差の解消を期待し、移住希望者が殺到。国家間の勢力図も大きく塗り替えられることが予想された。 そんなニュースが報じられるなか、リアル世界で肉体が行方不明になりヴァーチャルから戻れない女性が、グアトに捜索を依頼する。(裏表紙引用)
 
WWシリーズ第6弾。
 
リアルの肉体が行方不明になり、ヴァーチャルから出られないという女性(クラーラ)から依頼を受けるグアト。ますます内容が難解になってマガタ・シキの「共通思考」がいよいよ表面化してきたもよう。思考は個人のものなのかヴァーチャル世界で生み出される人格は誰の思考なのかとか頭ごちゃごちゃしてまいりました。未来像としては面白いと思う、どこに到達するのかな。
 
グアトとロジのラブラブぶりもちゃんとあります。ロジを抱きしめて死のう、は絶対狙ってるよねえ森さん。萌えきゅん。