すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

鞠子はすてきな役立たず  (ねこ3.8匹)

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山崎ナオコーラ著。河出文庫

「働かざるもの、食うべからず」と幼い頃から父親に言われてきた小太郎。経済的自立を目指し高卒で銀行員になった小太郎だが、院卒で書店アルバイトの鞠子は、結婚後は主婦を希望。絵手紙や家庭菜園など次々に趣味を楽しみ始める。人と比べず、自分の満足を大事にする鞠子。価値観の違う二人の生活の行方は!?『趣味で腹いっぱい』を改題。(裏表紙引用)
 
たまにはあまり読まない作家さんをと思って、お気に入り登録してるお友だちのところで紹介されていたこの作品を。山崎さんは「人のセックスを笑うな」だけ読んだことがある。
 
興味深い題材だった。
質素な生活に不満はないからと趣味をコロコロ変えながら飄々と生きている専業主婦の鞠子と、仕事こそ人生の意味、自己実現だという価値観で育てられた小太郎。結論から言うと、目的や意味もなくやる趣味を持つことは心のゆとりであり人間の証であるみたいなことかな。プロになりたいわけでも誰かの役に立つわけでもない手間をかけた手芸や絵手紙、俳句などの趣味が理解できない夫とその逆をいく妻、それに翻弄されながらもその趣味に毎回巻き込まれていくうちに取り込まれていくお話。新しい価値観を植え付けられると言えばいいかな。普通、こういう2人は相容れないものだと思うけれど。しかし働いている方が偉い、という感覚を持った人は少数派ではないと思うので、評価は極端に分かれるのではないか、、と思っていたが意外とそうでもなさそう。みんな取り込まれちゃった?こういう価値観の人もいるよね、という気持ちにさせちゃうだけのものはあるのかも。実際の鞠子は大学院卒で、書店アルバイトや大学講師などをこなしているので元々の能力は高いのだし。
 
鞠子の独特の話し方(「~で何が悪いのさ」など)があまり好きではなかったしツッコミどころもあるのだが、小太郎が穏やかで理解ある夫だったのでうまくいってしまう感じ。実際はどちらが働くとしても生活の基盤がないと鞠子の趣味は成立しないしね。鞠子と小太郎の場合はこれで円満なのだから他人がとやかく言うことでもないかなあ。

変な家  (ねこ2匹)

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雨穴著。飛鳥新社

話題騒然!! 2020年、ウェブサイトで166万PVを記録 YouTubeではなんと900万回以上再生! あの「【不動産ミステリー】変な家」には さらなる続きがあった!! 謎の空間、二重扉、窓のない子供部屋—— 間取りの謎をたどった先に見た、 「事実」とは!? 知人が購入を検討している都内の中古一軒家。 開放的で明るい内装の、ごくありふれた物件に思えたが、 間取り図に「謎の空間」が存在していた。 知り合いの設計士にその間取り図を見せると、 この家は、そこかしこに「奇妙な違和感」が 存在すると言う。 間取りの謎をたどった先に見たものとは……。 不可解な間取りの真相は!? 突如消えた「元住人」は一体何者!? 本書で全ての謎が解き明かされる!(紹介文引用)
 
YouTube小説初体験。
旦那と雑貨屋のちょっと怖い系本のコーナーを見ていたら、この本が猛プッシュされていたので「ああ、何か話題になっている本だな。。」と手に取った。本を読まない旦那が珍しく食いついたので「買ったら読む?」「読む!」という流れになり、ジュンク堂に移動して購入。
 
で、先に旦那が読み終わったのだが、、。大変お怒りのご様子(笑)。「これはヨメもダメだと思う」と言われ、まあそれならと変な期待もせずに読んでみた。
 
まあ、その・・・・・。
ちゃんとした作家さんではないので・・・。
ケータイ小説だと思えばまあ、その・・・・。
文章がかなりアレなのも、ページ稼ぎなのか同じ間取りが何度も何度もページいっぱいに出てくるのも、出てくる人びとに全く人間味がないのも、まあ・・・。「こういうもの」だと思えば・・・ははは。。
ミステリ的トリックはまあ、バカミスにもこういうのあるし、そこはこういうのもアリかという感じ。窓のない子ども部屋や謎の空間、二重扉(こんな家そもそも建ててもらえるのだろうか)などなど、奇妙なつくりの家に対する不気味さもそこそこあるので、第三章くらいまでは「一体どういうことなんだろう?何がこの家族に起きたんだろう?と興味を持って読めないこともなかった。しかし家族にまつわる〇〇の呪いみたいなものが出てきた時点でギブアップ(読みきったけど)。ツッコミどころ満載。本を投げつけたくなった。。いや、別にそういうお話でもいいのよ?でも文章があまりにも、、それを納得させられる背景とか人物描写とか表現とか資料とか、、いやもう、普段自分が読んでいる巷の作家さんってやっぱりすごいんだな、という再確認になったわいなー。
 
1時間ちょっとで読めるので、暇つぶしやネタとして読むにはいいと思う。

こうして誰もいなくなった  (ねこ3.7匹)

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有栖川有栖著。角川文庫。

仮想通貨で成功した若き大富豪に招待された10名の男女が、"海賊島"で巻き込まれる不気味な連続殺人事件――クリスティの名作を大胆に再解釈した表題作をはじめ、書店店長の名推理が痛快な「本と謎の日々」、肥大化した男の欲望と巨大生物の暴挙に恐怖する「怪獣の夢」、遊び心に満ちたタイポグラフィが楽しい「線路の国のアリス」など多彩な14篇を収録。ジャンルを超越した物語世界の魅力を堪能できる、唯一無二の作品集!(裏表紙引用)
 
有栖川さんの寄せ集め短編集。シリーズ外の作品集というのはあるけれど、こういうジャンルばらばらなものは有栖川さんには珍しいね。14編もあるのでまあ簡単に。
 
「館の一夜」は、館モノミステリーと見せかけてちょっと茶目っけのあるどんでん返しが効いた作品。「線路の国のアリス」は、不思議の国のアリスを下敷きにした、少女アリスの大冒険。有栖川さんの空想力が光る。「怪獣の夢」官房長官にまで登りつめた男が少年の頃から見る怪獣の夢を回想する。そうそう政治家の思い通りにならないと思うけれど、願望かな。「劇的な幕切れ」はネットで知り合った女性と青酸カリ自殺を計画した男の成れの果て。現実では改心する人間なんてそうそういないだろう。「出口を探して」は白い部屋で目覚めた女性が、同じ境遇の男性と迷路の出口を探す話。そのままそこで声を掛ければいいのに、と思ってしまった。「未来人F」明智小五郎シリーズのパスティーシュ。メタあり乱歩愛あり。「本と謎の日々」は書店で起こる数々の謎を本を読まない店長が解き明かす話。シリーズ化して欲しい。「こうして誰もいなくなった」はそのまんま、クリスティの名作の新解釈。なかなかのページ数で気合いが入っている感じだけどイマイチだったかな。ヘンな探偵出てくるし(笑)。モトが有名すぎて、あれ以上の意外性は生まれにくいと思う。チャレンジ精神は買いましょう。
 
残りはショートショートみたいな作品が数作。どれもまあ面白かったけど、ピンと来なかったものも。
 
ジャンルが多岐に渡っていてちょっと疲れたかな。好きなのは「本と謎の日々」「劇的な幕切れ」。
 

ブラック・スクリーム/The Burial Hour  (ねこ4匹)

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ジェフリー・ディーヴァー著。池田真紀子訳。文春文庫。

NY(ニューヨーク)の路上で男性が拉致された。ほどなく、監禁された姿が動画サイトにアップされる。被害者の苦痛のうめきをサンプリングした音楽とともに――。アップロードした主は自称「コンポーザー(作曲家)」。科学捜査の天才リンカーン・ライムはすぐさま監禁場所を割り出す。しかし犯人はイタリアへ逃亡。ライムたちも後を追って、ナポリへ向かう。(上巻裏表紙引用)
 
リンカーン・ライムシリーズ第13弾。
 
読み終わるのがいつも残念なリンカーン・ライム最新文庫。今回の犯人<コンポーザー>、何度も何度もライムチームに先手を打たれて殺人に失敗するのでひょっとしてたいしたことない…?と思って読んでいたら、もちろんそんなことはなかった。というか、今までと毛色が違う。いつものロンやメルのようなライムチームはほとんど登場せず、ライムはサックス&トムと共にイタリアへ飛んじゃうのだ。そしてイタリアの警察と手を組んだり煙たがられたりするなどしてコンポーザーを追い詰める。全く話の通じない検事スピロや森林警備隊エルコレ(本人曰くきのこのおまわり)などのイタリアチームのキャラクターが立っているので、いつもと変わらず楽しめた。恋愛沙汰が混ざったりするのもいい。スピロもなんだかんだ、本当にイヤな奴ではないみたいだし。ライムにしては小さめの別事件(レイプ&寃罪事件は決して小さい犯罪ではないが)も同時進行で請け負ったりと、これがどう繋がるのだろう?とワクワクする。いつも以上に「えっ、あの人が」「えっ、被害者ってみんなそうだったの」と驚きの真相が用意されているので、決して今までに比べて見劣りしない。殺人らしい殺人があまり起きなくても、実はもっと大きな犯罪かもしれない。そしてラストのライムとサックスがついに、、のシーンで感涙。
 
ページ数の都合なのか、「誓い」という短編(ライムシリーズ)が同時収録されていた。同じホテルに泊まった夫婦の妻のほうに夫の怪しい行動の謎を解き明かして欲しいと頼まれるという、小粒な事件。でも短編ながら色々どんでん返しが詰め込まれていてなかなか良かった。イタリアで世話になったエルコレも登場するしね(電話だが)。イタリアチーム、また登場しないかな。

魔邸  (ねこ3.7匹)

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三津田信三著。角川ホラー文庫

小学6年生の優真は、父と死別後、母が再婚したお堅い義父となじめずにいた。そんなある日、義父の海外赴任が決まり、しばらく大好きな叔父の別荘で暮らすことになる。だが、その家は“神隠し”の伝承がある忌まわしい森の前に建っていた。初日の夜、家を徘徊する不気味な気配に戦慄する優真だが、やがて昼夜問わず、不可解な出来事が次々に襲いかかり―。本格ミステリ大賞受賞作家が放つ、2度読み必至、驚愕のミステリ・ホラー!(裏表紙引用)
 
面白かった!
三津田さん読破するぞ企画進行中。今回選んだのは<家ホラー三部作>の一つ。子どもが主人公なので、いつものような作家と編集者のやり取りのくだりなどがなく入って行きやすかった。怪奇収集の話ばかり続けて読んでいたのでどうしてもそういうイメージが。。
 
で、主人公は小6の少年優真。作家だった父を亡くし、新たに父親になった人物とは相性が合わない。そんな時、義父の単身赴任をきっかけに優真は叔父の別荘で暮らすことになる。だがその別荘には不吉な神隠しの伝承が伝わっていて…。
 
メインは、孤独な少年が家に取り付く異界のモノに追われて、、っていう普通の怪奇物語。だけど、終盤に明かされる衝撃の事実で一気にミステリ色に。結構その人好きだったので、エ~~~ッ、と残念な気持ちになった。優真は本が好きで礼儀正しくて、と好感度が高かったので尚更、可哀想すぎる。。でも優真ならすぐに立ち直れるだろう。色々と秘密が明らかになるのは爽快なんだけど、ラスト1行のインパクトには負ける。優真、可哀想だなんて言えるほど単純な子どもじゃないのかも。。

ジゼル  (ねこ3.7匹)

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秋吉理香子著。小学館文庫。

東京グランド・バレエ団の創立十五周年記念公演の演目が「ジゼル」に決定し、如月花音は準主役に抜擢される。このバレエ団では十五年前、ジゼル役のプリマ・姫宮真由美が代役の紅林嶺衣奈を襲った後死亡する事件が起き、「ジゼル」はタブーになっていた。そんな矢先、夜のスタジオでジゼルの衣装を纏った真由美の亡霊が目撃される。公演の準備を進める中、配役の変更で団員に不協和音が生じ、不可解な事件が相次いで…。これは“呪い”なのか?花音が辿り着く真由美の死の真相とは?バレエに命をかけるダンサーたちの嫉妬と愛憎を描いた傑作サスペンス。(裏表紙引用)
 
バレエ界の愛憎劇+サスペンスミステリー。
表紙が素敵ですな。
 
バレエには興味がないのだが、秋吉さんだからと読んでみた。ジゼルの物語も全く知らないのでその説明やジゼルの引用の部分に差し掛かるとちょっと登場人物が把握しきれない。バレエを踊っている描写もちょっとついていけず。
 
まあそれはそれとして、物語は面白かった。バレエ界のライバル心や妬み嫉み、血のにじむような努力と覚悟。バレリーナたちの、自分の夢に向かう熱い心やバレエが好きだという気持ちがひしひしと伝わってくる。事件が起きるのがちょっと遅いかな?犯人に対しても周りの反応が優しすぎる気もするし。でも犯人が〇〇と思わせてからの反転は良かったし、ラストの意外な真相は予想してなかったので普通にビックリした。みなさん評価厳しいね、結構面白かったけどな。ちょっとキャラクター作りが浅いかな~~っていうのはあったけど、それで全部ダメになるほどの瑕疵ではないかな。
 
続編あるみたいね。どうしようか迷うところ(どうしても、興味外のジャンルに特化した小説はしんどいっていう気持ちがある。。)。

罪の余白  (ねこ3.7匹)

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芦沢央著。角川文庫。

どうしよう、お父さん、わたし、死んでしまう―。安藤の娘、加奈が学校で転落死した。「全然悩んでいるようには見えなかった」。クラスメートからの手紙を受け取った安藤の心に、娘が死を選んだ本当の理由を知りたい、という思いが強く芽生える。安藤の家を弔問に訪れた少女、娘の日記を探す安藤。二人が出遭った時、悪魔の心が蠢き出す…。女子高生達の罪深い遊戯、娘を思う父の暴走する心を、サスペンスフルに描く!(裏表紙引用)
 
最近ハマっている芦沢さんのデビュー作。
 
高校生の娘を持つ心理学者・安藤。ある日妻を癌で亡くしてから、娘と2人きりで暮らしてきた。しかし数年後娘の加奈が学校の4階から転落死し失意のどん底に。そして加奈の死因は自殺ではなくイジメによるものだったという疑いが…。
 
安藤、早苗(心理学助教授)、加奈、咲(加奈の友人)、真帆(同)の視点でかわるがわる展開していく構成。読んでいくうちにすぐ加奈の自殺は咲と真帆によるイジメの結果であることが分かるが、読んでいて胸の悪くなるエピソードばかり。安藤がイジメの首謀者2人に復讐を決意するあたりから俄然面白くなり、どんな罠を仕掛けるのか、咲や真帆に贖罪の気持ちは芽生えるのか、など興味深い展開が続いた。咲の行動や安藤の人物造形が少し浅いかな、とは感じるものの、悪意に立ち向かう父親の姿に胸が痛くなった。特に安藤に惹かれる早苗の人物描写が卓越していて、感情を出せない、他人の心が分からない故に一生懸命な姿が良かった。(こういう人物が心理学者というのには無理があるかなとも思ったがまあデビュー作なので。。)
 
割と厳しい評価がある中、自分はまあまあスッキリしたので悪くない作品かなと。芦沢さんらしく、10代女子のヒエラルキーやその心理を描くのに長けているし。一緒にお弁当を食べたり教室移動をする相手がいない、ってそんなに重要かね。。って大人になれば分かるけれど、この子たちにはそれが世界の全てという感じ。