すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

十二の贄 死相学探偵5  (ねこ3.6匹)

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三津田信三著。角川ホラー文庫

中学生の悠真は、莫大な資産を持つ大面グループの総帥・幸子に引き取られた。7人の異母兄姉と5人の叔父・叔母との同居生活は平和に営まれたが、幸子が死亡し、不可解な遺言状が見つかって状況は一変する。遺産相続人13人の生死によって、遺産の取り分が増減するというのだ。しかも早速、事件は起きた。依頼を受けた俊一郎は死相を手掛かりに解決を目指すが、次々と犠牲者が出てしまい―。大好評シリーズ第5弾!!(裏表紙引用)
 
死相学探偵シリーズ第5弾。
かなり久しぶりに読むので、キャラクターや設定を思い出しながら。そうそう、「僕」という名前の猫ちゃんいたなあ。助手の亜弓は覚えていない…。
 
児童養護施設で育った中学生の悠真は、ある日いきなり大面グループ総帥・幸子に引き取られた。しかしそこには幸子の異母弟妹7人、叔父と叔母5人が同居する異様な空間だったのだ。そして幸子亡き後公開された遺言状は黄道十二宮をモチーフにした異常なもので……。
 
黄道十二宮ルールや各自の名前を覚えるのは早々に放棄した。そもそも全員違うという星座が未公開のため、トリックやストーリーに重要な関係があるとは思えない…。幸子のお互い殺し合えと言わんばかりの相続ルールはとてもワクワクするし、俊一郎の見た「死相」の異常ぶりと黒術師の関わりの謎がさらに雰囲気を最高潮に高める。誘拐事件や殺人事件が発生し、異常な生い立ちの人々のおかしな言動と相まって期待マックス。
 
……が、これはない。。。
事件が入り組んでいる割に残りページ数少ないと思ったんだあ。。犯人の正体含め(あの独白ってアンフェアには当たらないの?)、トリックもいまいちあっさり。盛り上がる割にどたばたと終わった感じ。黄道十二宮とか十二の贄とか、三津田さんのアッチのシリーズならばかなり素晴らしいミステリになりそうだけどなあ。なんかもったいない。。
 
でもまあ、いかにもラノベ風の文体やキャラクターは好きだし、僕にゃんは可愛いし、漫才みたいな婆ちゃんとのやり取りも笑えた。かなり好き嫌い分かれるところだろうけど。。マンガ風三津田作品を読めるのはこのシリーズだけなので続けて追っていきます。

夢は枯れ野をかけめぐる  (ねこ3.5匹)

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西澤保彦著。中公文庫。

四八歳、独身。早期退職をして静かな余生を送る羽村祐太のもとには、なぜか不思議な相談や謎が寄せられる。「老い」にまつわる人間模様を、シニカルな語り口と精緻なロジックで本格ミステリに昇華させた、西澤ワールドの一つの到達点。(裏表紙引用)
 
「老い」をテーマにした西澤さんの連作短編集。
エリートサラリーマンから一転、無職へ。しかし独身1人暮らしの羽村は長年の節約のおかげで余生は悠々自適。性格も穏やかで頭の回転が早い、西澤作品にしてはかなり好感度の高い(失礼)男性キャラクターを主人公とした作品。
 
「迷いゴミ」
同級会で再会した理都子に自宅でのゴミ分別のアルバイトを依頼された羽村。報酬が破格であることもあり、この仕事に疑問を感じた羽村だが……。
というか、週ン万円も払うなら何でも屋なりなんなりもっといい方法はあると思うが、そこは置いといて。こういう問題は誰にでも将来起こり得ることで、対処法がなかなかないのがやり切れないなと思う。
 
「戻る黄昏」
近所の弓削の次男から、自宅ガレージにしばらく車を置かせてくれと頼まれ快諾した羽村。しかし父親の弓削は、次男の説明に違和感を抱く。
次男、勝手というか子どもというか。。女なら当たり前にやらされている人もいるだろうにな。。まあ、でも、大変だと思う、これ。さらに虚しいラストが現実の厳しさを思い知らされる。
 
「その日、最後に見た顔は」
新築マンションに越してきた主婦の陶子。自宅そばには生まれ育った街があり、過去に歴史記念館前で母親がひき逃げされた辛い思い出がある。その地で懐かしい顔(羽村)に再会した陶子だが…。
母親についての行動や人格の謎を実際に解いたのは陶子。羽村はその引き金を引く役、かな。結局真相はわからないけれど、羽村って本当にそうなのかな。うーん、狭い街だ。女の化粧についてのくだりはかなり考えがズレていて苦笑。。西澤さーん。。
 
「幸福の外側」
弓削の葬儀に集まった親族たち。弓削の次男(問題児また登場)の妻、雪子が最近実家へ行く時に料理を持参しなくなったのはなぜ?
自然食レストラン経営の佐智子の存在感が大きくて物語に広がりが出てきた。次男が成長してきたのも良かったな(いい大人だが)。
 
「卒業」
一話に登場した理都子の娘、詩織をメインとしたお話。大学の友人の悩みを羽村に相談する。というより、詩織がいかに羽村が好きかを語るお話笑。
 
「夢は枯れ野をかけめぐる」
佐智子がメインのお話。これはもう仕掛けられたトリックは簡単に分かる(前例もあるし)。佐智子がただただ哀しいお話。死にかけてベッドにいる人間がよくこんな理路整然と何ページも語れるなと思うがまあいいか。。介護の辛さがひしひしと伝わる。羽村の優しさが染みる素敵なお話でもある。
 
以上。
テーマがあれなので、誰にとっても無関係ではないだろうお話ばかり。なので全てのお話はハッピーエンドではない。解決できない問題ばかりだし、今後の我々自身の永遠のテーマでもあるだろうな。自分も色々思うことあるけれど、まあその時にならないとねえ。自分で決められることならいいけれど。
 
西澤作品にしてはエロもなくアブノーマル系でもなかったので読みやすかった。が、アラフィフ男が若い女性や熟女にやたらモテまくるのはやはり西澤さんらしかった。。

楽園とは探偵の不在なり  (ねこ3.7匹)

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斜線堂有紀著。早川書房

二人以上殺した者は"天使"によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦(あおぎしこがれ)は「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱(つねきおうがい)に誘われ、天使が集まる常世島(とこよじま)を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。かつて無慈悲な喪失を経験した青岸は、過去にとらわれつつ調査を始めるが、そんな彼を嘲笑うかのように事件は続く。犯人はなぜ、そしてどのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。最注目の新鋭による、孤島×館の本格ミステリ。(紹介文引用)
 
初読み作家さん。2021このミス6位、本ミス4位作品。
 
お友だちのべるさんが本書にかなり厳しい評価を下していたので、逆にハードル下がって読めたのが良かったのかもしれない。と前置きしておいて。
 
探偵の青岸は、富豪・常木から依頼を受けた縁で「天使塗れの島」と呼ばれる常世島へ招かれることになった。この世では5年前から「天使」と呼ばれる死の遣いが降臨し、2人以上殺人を犯した者は業火に焼かれ地獄へ連れ去られる。天使狂いと呼ばれる奇特な人々と共に常世館での時を過ごす青岸だったが、地下室での異様な催しのあと殺人事件に巻き込まれ……。
 
ははは。。天使の設定、ツメが甘~い。なぜ殺人が1人なら許されるのか、なぜ意図的でない殺人や実行犯は罰せられるのに殺人教唆なら見逃されるのか。正当防衛の場合は?過失致死は?殺人と言ってもピンキリなのに。本格ミステリを標榜するならば、特殊設定のルールに手落ちがあってはいけないと思うのだが。。。だから事件も推理も、その部分に抵触しない形で作られてる。そして天使のビジュアル怖すぎ。目鼻口がなくて骨ばった翼が灰色で、ってもう悪魔じゃん。。頭の中の映像、完全にデスノートリュークだったわ。
 
殺人事件のトリックはなかなか考えられていて良かったと思う。2人以上殺したら地獄行きなのに連続殺人が起きる、だけど誰も地獄へ行かない。ならば犯人は複数説で推し進めるも、理屈に合わない状況になる。そこをうまくすり抜けた、犯人のうまいトリックだった。犯人の語るメロドラマはともかく、この部分だけでも評価に値するな、と思う。思うのだが……。人物造形に力入れすぎじゃない?青岸の過去がとにかく重すぎた。。青岸の回想がこの物語世界でかなり邪魔になっていた気がする。探偵事務所の調査員、4人も必要だった?マンガじゃないんだから……なにこの青春ノリは。。事件解決後のホームビデオのくだりとか長々といらん、いらん。館の人々も、関係近すぎるし偶然に頼りすぎだしなー。助手候補多すぎて笑えるしなー。青岸がどれだけ凄い探偵なのか、っていうのは伝わらなかった。過去にこんな事件を華麗に解決した、みたいなエピソードがしつこく出てくるのだけど、具体的にどういう推理をしたのかがほとんど描かれていなかったのよね。。「赤城の服の右側が汚れていたから」って結局なに?
 
あ、いや、それほど合わなかったわけでもないんだけども。特殊設定をガチガチにしなかったのも、文学的な解釈などが必要なのかもしれないし、全てを読者に説明する義務もないし、哲学的に、正義とは、この世の理とは、というようなことを考える余地を残しているんだとは思う。うんうん。挫折は頭を過ぎらなかったし、読みやすかったし、まあ普通に良かったです。でもなあ……(エンドレス)。

星空にパレット  (ねこ3.8匹)

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安萬純一著。創元推理文庫

九重高校の浩介たちが探偵部を創設させてまもなくの放課後、黒ずくめの男が合宿費を強奪していった。あまりの足の速さに、誰もが追いつけない。味をしめたのか数日後に、再び登場した黒ずくめの犯人は、逃げ込んだ倉庫で他殺体として発見される――。学園ミステリ、嵐の山荘ものなど、二転三転するフーダニットとハウダニット! 鮎川哲也賞作家・安萬純一が、本格ミステリの粋を星空のごとく詰め込んだ、全四編収録の短編集。文庫書き下ろし。(紹介文引用)
 
初読み作家さん。創元の文庫新刊見てたらなんだか好みそうだったので。文庫書き下ろしだそう。連作ではないので4作全ての登場人物も舞台も違うし最終話で全て繋がって…みたいなものもない。「ない」のが特徴になるっていうのは、いかに昨今の短編集が連作が当たり前になっているかということ。
 
「黒いアキレス」
部員3人だけの探偵部。彼らが偶然目撃したバド部合宿費引ったくり事件は、犯人の事故死で終わったかに見えたが――。キャラのコミカルなよくある学園ミステリー。登場人物が多く真相も入り組んでいる。脇役っぽい目撃者らが何人もフルネームで登場するので、この人たち事件に関係あるな、と分かってしまうのが難点。トリックはよく考えられているが、まだこの1篇目では書き慣れていない感が強い。でも二度目に現れた黒マスク男の顔の詰め物とか、笑っちゃうな。
 
「夏の北斗七星」
元刑事の床平と探偵の松島は、車で事故を起こし近くのログハウスに宿泊することになった。しかしそのログハウスの1室で殺人事件が発生し――。好みのクローズドサークルもの。これまた登場人物多し。イラストレーターが似顔絵を描き出したり、宿泊客が受付を装っていたりと設定が面白い。タイトルと物語のリンクも見事。意外な展開で終わるのもまた良し。
 
「谷間のカシオペア
ホラー作家雷津のところに送りつけられてきた、現実の事件を彷彿とさせるミステリー小説。友人のミステリー作家、呉越はその原稿を読ませてもらうが……。作中作のレストランバーで殺人事件が起きる。なぜキャバクラではなくレストランバーなのか、似たような人物がたくさん登場してわけが分からない、などと思っていたら全てが作者の計算だった。これも意外な展開が用意されているし、アンフェアについての考察やミステリーへの新たな挑戦も見れて良い作品。ただ、タイトルとのこじつけが…。確かにあのおもしろ刑事のあのシーン笑ったけどさ。
 
「病院の人魚姫」
大学病院の研究棟から、看護師が落下して亡くなった。看護師は自分の自転車の鍵をなぜ握りしめていたのか?キャラクターにお笑い系がいない唯一の作品。だが犯人の異常性とトリックのバカバカしさが引き立っている。これも刑事が2人登場するけど…探偵役、そっちかーーい。
 
以上。
正直言うと、1篇目を読んでいる途中では投げ出しそうになった。でもだんだん良くなる。
ところどころ強引だったりややこしすぎたり不器用さも目立つが、ミステリとして読み応えがあるし全体的にとても好みだった。文章は読みやすいし、笑える要素もあってサービス精神旺盛。どの話の探偵役もシリーズ化しないと勿体ないぐらい魅力的。連作ものでは不可能なこともやってのけるので統一感のないことが欠点にはなっていない好例かも。創元で出るなら今後他の作品も読みたいと思う。

ブロードキャスト  (ねこ3.8匹)

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湊かなえ著。角川文庫。 

中学時代、駅伝に打ち込んでいた圭佑は、あと一歩のところで全国大会を逃した。陸上強豪校に進学を決めるも、交通事故に遭い入部を断念する。目標を失っていたところ、脚本家を目指す正也に声の良さを買われ、放送部に入部することにした。次第に活動にのめり込んでいった圭佑は、全国高校放送コンテストを目指して、ラジオドラマ制作に挑戦するが……。正也が脚本作りの極意を学ぶ、番外編「ラジオドラマ」も特別収録!(裏表紙引用)
 
湊さんの文庫新刊。
いつもの黒さ、イヤミスぶりは鳴りを潜め、爽やかな青春ストーリー。いわゆる「白湊さん」なんだけど、高校の放送部にスポットを当てるとはこれまた湊さんの引き出しの多さに感服。放送部って、お昼休みに音楽をかけたり下校時間をお知らせしたりするだけかと思っていた…。脚本家やアナウンサーを目指して精力的に活動するという側面もあったのね。主人公の圭佑たちがラジオドラマを制作する(映画やアナウンスもだけど)物語なので、さらに自分には馴染みのない世界、とても興味深く読んだ。
 
3年生の先輩を部長以外覚えられなくて「月曜日先輩、火曜日先輩」と心の中であだ名をつけてるのが面白かったな。見分けつかないけど。。部長さん以外はなんだか真面目にやってるのか疑問な女子ならではの茶番劇があったりするなど、このあたりは湊さんらしい視点。クラスのいじめ首謀者の女子に対して、「いじめをなくしたいという想いと行動がドラマの中だけであってはいけない」と強く反撃した圭佑にも感動した。2年生の白井先輩っていうのがいて、3年生に対してすごく当たりのキツイ性格なんだけど…言ってることはいちいち当たってるので嫌いではなかった。次期部長にふさわしいと思う。コンテスト作品に対する大人の「ズレた批評」に心から悔しい思いをしているシーンもなんだかわかるわかる、という気持ちになった。大人になったら、あの時言われていたことも分かる、なんてこともあるけどね。この年代の真っ直ぐな気持ちは大事だと思う。
オタク女子の久米さんと、正也&圭佑との関係も良かったなー。1年生同士の絆って強そう。
 
素直に感動したし、甘酸っぱい青春ものとして面白く読めた。陸上への未練がそれほど緻密に描かれていなかったのも好み。で、文庫特別付録として正也主人公の「脚本を教えてくれた人」との物語が収録されているのだが、これを読むともっと正也の物語が読みたいなと思った。実際、強い夢を持っているのは正也のほうだしね。どうやら続編があるようなのですごく楽しみ。

教場0 刑事指導官・風間公親  (ねこ3.8匹)

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長岡弘樹著。小学館文庫。

T県警が誇る「風間教場」は、キャリアの浅い刑事が突然送り込まれる育成システム。捜査一課強行犯係の現役刑事・風間公親と事件現場をともにする、マンツーマンのスパルタ指導が待っている。三か月間みっちり学んだ卒業生は例外なくエース級の刑事として活躍しているが、落第すれば交番勤務に逆戻り。風間からのプレッシャーに耐えながら捜査にあたる新米刑事と、完全犯罪を目論む狡猾な犯罪者たちとのスリリングな攻防戦の行方は!?テレビドラマ化も話題の「教場」シリーズ、警察学校の鬼教官誕生の秘密に迫る第三弾。(裏表紙引用)
 
読みこぼしていた、教場番外編。風間が教場教官になる前、隻眼になる前、県警随一の鬼刑事だった頃の物語。6話収録されていて、それぞれ三ヶ月目の新米警察官がマンツーマンで風間の下について現場のことを色々学ぶ構成。基本、倒叙ミステリーだしタイトルが全て刑事コロンボのものをもじっていることに気付いた。二枚のドガの絵、権力の墓穴……。感想見回った感じではそこに触れている人いなかったけどどれだけの人が気付いたかな。。
 
「仮面の軌跡」
デパート勤務の日中弓は、銀行勤務時代に横領をし、現ホストの芦原にその穴埋めをしてもらった恩があった。しかし別れを告げた途端芦原に脅迫され…。このホストがなぜそこまでして弓を引きとめようとしたのか、まずそこが分からない。動機もなんだか「そういう人間とそういう人間がもめた」感が…。ホストの遊び心が犯行を立証したのが面白い。
 
「三枚の画廊の絵」
売れない作家の向坂は、絵の才能のある息子が新しい父親の意向で芸大への道を諦めたことを知った。歯科医の新しい父親をアトリエに呼び出した向坂だが、口論となり…。
向坂が怒る気持ちは分かるが、殺してしまったあとの死体の処理が冷静で気持ち悪い。。ちゃんと画家として二人の人間を見ている風間の人間らしい洞察力が良かった。
 
「ブロンズの墓穴」
小学校で息子がいじめに遭っていることを知った母親の佐柄は、担任教諭がそれを隠蔽しようとしていることが許せず……。三作目にして初の計画殺人。こういう特殊な職業だからこそ成し得たトリックで、発想が斬新。トランクの証拠には驚きだし、その人にしかない特徴って大事なんだなと思った。
 
「第四の終章」
隣人の看板女優とともに、部屋に入り浸る俳優の縊死現場を目撃してしまった佐久間。これは絶対それで死んでないな、と感じながら読んだのだが……なるほど、怖いこと考えるな…。。即興の芝居を捜査に取り入れるなど、犯人の追い詰め方が面白い。
 
「指輪のレクイエム」
在宅で印刷デザインを請け負っている仁谷には20歳年上の認知症の妻がいた。しかも仁谷は印刷会社社員との不倫中で……。20年上の女性と自分の意志で結婚しておきながらなんて勝手な男だろうか。最後の妻の想いを知って、少しでも反省し後悔したように見えたのが救い。
 
「毒のある骸」
法医学者の椎垣は、青酸カリ自殺をした遺体の解剖を助教宇部と2人だけで行った。しかし椎垣のミスで、遺体に遺留していた青酸ガスにより宇部が倒れてしまう。。
法医学者が不祥事隠し、殺人とは。。宇部がなぜ坂の上へ走り出したのか、その理由には納得した。凄い、そこまで考えるのか。そして風間が右目を刺されてしまった事件が遂に描かれる。風間だけでなく、一人の警察官の人生をも大きく変えた出来事だったのだな。
 
以上。
教場ものではないので、本シリーズほどの特徴はなかったかもしれない。が、風間の厳しく聡明な個性はいかんなく発揮されている。先日風間視点の「風間教場」を読んだばかりなので、風間の冷たさにちょっと驚いてしまった。そういえば元々はこういうキャラクターだったよな。。風間が部下にちょっとヒントを与えたり質問をしたりするだけで真相に到達する彼らもそれぞれ凄いと思うし、風間はひょっとして学生時代から、いや少年時代からもう完全に風間だったのでは、、、と想像してしまう作品だった。
 

大鴉の啼く冬/Raven Black  (ねこ3.7匹)

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アン・クリーヴス著。玉木享訳。創元推理文庫

新年を迎えたシェトランド島。孤独な老人を夜に訪れた黒髪の少女は、四日後の朝、雪原で死んでいた。真っ赤なマフラーで首を絞められて。顔見知りばかりの小さな町で、誰が、なぜ彼女を殺したのか。ペレス警部の捜査で浮かびあがる、八年前の少女失踪事件との奇妙な共通項とは?現代英国本格派の旗手が緻密な伏線と大胆なトリックで読者に挑戦する、CWA最優秀長篇賞受賞作。(裏表紙引用)
 
初読み作家さん。どっかのランキングに入っていた作品を読もうとしたらシリーズものだと分かったので1作目からと思い。<シェトランド四重奏>シリーズというらしい。ペレス警部シリーズ、ということでいいのかな。シェトランド諸島スコットランドの群島だそうで、ジャンルは流行りの北欧ミステリーですな。極寒の離島の閉鎖された静かな雰囲気がよ~~く出てて全体的には好み。悪く言うと、ちょっと地味かな。登場人物が多く、狭い街ならではの狭い人間関係が複雑。誰かと誰かが不倫してたり非行に走ったりするとすぐ全員にバレるし、よそ者や変人には冷たい。よそ者側が距離を置いているパターンもあるしね。基本平和だから、少女の行方不明事件や殺人事件に神経質になっている住民。疑心暗鬼になりすぎていて、証拠もないのに特定の人物を犯人扱いするのはいかがなものかと思うが。あとビックリしたのは、遺体を現場に一晩放置(シートはかけるが)する警察のやり方。。そりゃ寒いから大丈夫だろうけど、人道的にちょっと引いてしまった。こういうのも海外ものを読む面白さでもあるが。
 
全体を通して見ると、これといった盛り上がりはなく単調。でもそこがいい、としか言えないかな。犯人の動機などは理解できない心理だし被害者の女性にも問題はあるが、こういう腹黒さ含め終始陰鬱としたテンションなのが魅力かもしれない。のんびりと続編も追って行こうかしらね。