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星空にパレット  (ねこ3.8匹)

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安萬純一著。創元推理文庫

九重高校の浩介たちが探偵部を創設させてまもなくの放課後、黒ずくめの男が合宿費を強奪していった。あまりの足の速さに、誰もが追いつけない。味をしめたのか数日後に、再び登場した黒ずくめの犯人は、逃げ込んだ倉庫で他殺体として発見される――。学園ミステリ、嵐の山荘ものなど、二転三転するフーダニットとハウダニット! 鮎川哲也賞作家・安萬純一が、本格ミステリの粋を星空のごとく詰め込んだ、全四編収録の短編集。文庫書き下ろし。(紹介文引用)
 
初読み作家さん。創元の文庫新刊見てたらなんだか好みそうだったので。文庫書き下ろしだそう。連作ではないので4作全ての登場人物も舞台も違うし最終話で全て繋がって…みたいなものもない。「ない」のが特徴になるっていうのは、いかに昨今の短編集が連作が当たり前になっているかということ。
 
「黒いアキレス」
部員3人だけの探偵部。彼らが偶然目撃したバド部合宿費引ったくり事件は、犯人の事故死で終わったかに見えたが――。キャラのコミカルなよくある学園ミステリー。登場人物が多く真相も入り組んでいる。脇役っぽい目撃者らが何人もフルネームで登場するので、この人たち事件に関係あるな、と分かってしまうのが難点。トリックはよく考えられているが、まだこの1篇目では書き慣れていない感が強い。でも二度目に現れた黒マスク男の顔の詰め物とか、笑っちゃうな。
 
「夏の北斗七星」
元刑事の床平と探偵の松島は、車で事故を起こし近くのログハウスに宿泊することになった。しかしそのログハウスの1室で殺人事件が発生し――。好みのクローズドサークルもの。これまた登場人物多し。イラストレーターが似顔絵を描き出したり、宿泊客が受付を装っていたりと設定が面白い。タイトルと物語のリンクも見事。意外な展開で終わるのもまた良し。
 
「谷間のカシオペア
ホラー作家雷津のところに送りつけられてきた、現実の事件を彷彿とさせるミステリー小説。友人のミステリー作家、呉越はその原稿を読ませてもらうが……。作中作のレストランバーで殺人事件が起きる。なぜキャバクラではなくレストランバーなのか、似たような人物がたくさん登場してわけが分からない、などと思っていたら全てが作者の計算だった。これも意外な展開が用意されているし、アンフェアについての考察やミステリーへの新たな挑戦も見れて良い作品。ただ、タイトルとのこじつけが…。確かにあのおもしろ刑事のあのシーン笑ったけどさ。
 
「病院の人魚姫」
大学病院の研究棟から、看護師が落下して亡くなった。看護師は自分の自転車の鍵をなぜ握りしめていたのか?キャラクターにお笑い系がいない唯一の作品。だが犯人の異常性とトリックのバカバカしさが引き立っている。これも刑事が2人登場するけど…探偵役、そっちかーーい。
 
以上。
正直言うと、1篇目を読んでいる途中では投げ出しそうになった。でもだんだん良くなる。
ところどころ強引だったりややこしすぎたり不器用さも目立つが、ミステリとして読み応えがあるし全体的にとても好みだった。文章は読みやすいし、笑える要素もあってサービス精神旺盛。どの話の探偵役もシリーズ化しないと勿体ないぐらい魅力的。連作ものでは不可能なこともやってのけるので統一感のないことが欠点にはなっていない好例かも。創元で出るなら今後他の作品も読みたいと思う。