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ブロードキャスト  (ねこ3.8匹)

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湊かなえ著。角川文庫。 

中学時代、駅伝に打ち込んでいた圭佑は、あと一歩のところで全国大会を逃した。陸上強豪校に進学を決めるも、交通事故に遭い入部を断念する。目標を失っていたところ、脚本家を目指す正也に声の良さを買われ、放送部に入部することにした。次第に活動にのめり込んでいった圭佑は、全国高校放送コンテストを目指して、ラジオドラマ制作に挑戦するが……。正也が脚本作りの極意を学ぶ、番外編「ラジオドラマ」も特別収録!(裏表紙引用)
 
湊さんの文庫新刊。
いつもの黒さ、イヤミスぶりは鳴りを潜め、爽やかな青春ストーリー。いわゆる「白湊さん」なんだけど、高校の放送部にスポットを当てるとはこれまた湊さんの引き出しの多さに感服。放送部って、お昼休みに音楽をかけたり下校時間をお知らせしたりするだけかと思っていた…。脚本家やアナウンサーを目指して精力的に活動するという側面もあったのね。主人公の圭佑たちがラジオドラマを制作する(映画やアナウンスもだけど)物語なので、さらに自分には馴染みのない世界、とても興味深く読んだ。
 
3年生の先輩を部長以外覚えられなくて「月曜日先輩、火曜日先輩」と心の中であだ名をつけてるのが面白かったな。見分けつかないけど。。部長さん以外はなんだか真面目にやってるのか疑問な女子ならではの茶番劇があったりするなど、このあたりは湊さんらしい視点。クラスのいじめ首謀者の女子に対して、「いじめをなくしたいという想いと行動がドラマの中だけであってはいけない」と強く反撃した圭佑にも感動した。2年生の白井先輩っていうのがいて、3年生に対してすごく当たりのキツイ性格なんだけど…言ってることはいちいち当たってるので嫌いではなかった。次期部長にふさわしいと思う。コンテスト作品に対する大人の「ズレた批評」に心から悔しい思いをしているシーンもなんだかわかるわかる、という気持ちになった。大人になったら、あの時言われていたことも分かる、なんてこともあるけどね。この年代の真っ直ぐな気持ちは大事だと思う。
オタク女子の久米さんと、正也&圭佑との関係も良かったなー。1年生同士の絆って強そう。
 
素直に感動したし、甘酸っぱい青春ものとして面白く読めた。陸上への未練がそれほど緻密に描かれていなかったのも好み。で、文庫特別付録として正也主人公の「脚本を教えてくれた人」との物語が収録されているのだが、これを読むともっと正也の物語が読みたいなと思った。実際、強い夢を持っているのは正也のほうだしね。どうやら続編があるようなのですごく楽しみ。