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教場0 刑事指導官・風間公親  (ねこ3.8匹)

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長岡弘樹著。小学館文庫。

T県警が誇る「風間教場」は、キャリアの浅い刑事が突然送り込まれる育成システム。捜査一課強行犯係の現役刑事・風間公親と事件現場をともにする、マンツーマンのスパルタ指導が待っている。三か月間みっちり学んだ卒業生は例外なくエース級の刑事として活躍しているが、落第すれば交番勤務に逆戻り。風間からのプレッシャーに耐えながら捜査にあたる新米刑事と、完全犯罪を目論む狡猾な犯罪者たちとのスリリングな攻防戦の行方は!?テレビドラマ化も話題の「教場」シリーズ、警察学校の鬼教官誕生の秘密に迫る第三弾。(裏表紙引用)
 
読みこぼしていた、教場番外編。風間が教場教官になる前、隻眼になる前、県警随一の鬼刑事だった頃の物語。6話収録されていて、それぞれ三ヶ月目の新米警察官がマンツーマンで風間の下について現場のことを色々学ぶ構成。基本、倒叙ミステリーだしタイトルが全て刑事コロンボのものをもじっていることに気付いた。二枚のドガの絵、権力の墓穴……。感想見回った感じではそこに触れている人いなかったけどどれだけの人が気付いたかな。。
 
「仮面の軌跡」
デパート勤務の日中弓は、銀行勤務時代に横領をし、現ホストの芦原にその穴埋めをしてもらった恩があった。しかし別れを告げた途端芦原に脅迫され…。このホストがなぜそこまでして弓を引きとめようとしたのか、まずそこが分からない。動機もなんだか「そういう人間とそういう人間がもめた」感が…。ホストの遊び心が犯行を立証したのが面白い。
 
「三枚の画廊の絵」
売れない作家の向坂は、絵の才能のある息子が新しい父親の意向で芸大への道を諦めたことを知った。歯科医の新しい父親をアトリエに呼び出した向坂だが、口論となり…。
向坂が怒る気持ちは分かるが、殺してしまったあとの死体の処理が冷静で気持ち悪い。。ちゃんと画家として二人の人間を見ている風間の人間らしい洞察力が良かった。
 
「ブロンズの墓穴」
小学校で息子がいじめに遭っていることを知った母親の佐柄は、担任教諭がそれを隠蔽しようとしていることが許せず……。三作目にして初の計画殺人。こういう特殊な職業だからこそ成し得たトリックで、発想が斬新。トランクの証拠には驚きだし、その人にしかない特徴って大事なんだなと思った。
 
「第四の終章」
隣人の看板女優とともに、部屋に入り浸る俳優の縊死現場を目撃してしまった佐久間。これは絶対それで死んでないな、と感じながら読んだのだが……なるほど、怖いこと考えるな…。。即興の芝居を捜査に取り入れるなど、犯人の追い詰め方が面白い。
 
「指輪のレクイエム」
在宅で印刷デザインを請け負っている仁谷には20歳年上の認知症の妻がいた。しかも仁谷は印刷会社社員との不倫中で……。20年上の女性と自分の意志で結婚しておきながらなんて勝手な男だろうか。最後の妻の想いを知って、少しでも反省し後悔したように見えたのが救い。
 
「毒のある骸」
法医学者の椎垣は、青酸カリ自殺をした遺体の解剖を助教宇部と2人だけで行った。しかし椎垣のミスで、遺体に遺留していた青酸ガスにより宇部が倒れてしまう。。
法医学者が不祥事隠し、殺人とは。。宇部がなぜ坂の上へ走り出したのか、その理由には納得した。凄い、そこまで考えるのか。そして風間が右目を刺されてしまった事件が遂に描かれる。風間だけでなく、一人の警察官の人生をも大きく変えた出来事だったのだな。
 
以上。
教場ものではないので、本シリーズほどの特徴はなかったかもしれない。が、風間の厳しく聡明な個性はいかんなく発揮されている。先日風間視点の「風間教場」を読んだばかりなので、風間の冷たさにちょっと驚いてしまった。そういえば元々はこういうキャラクターだったよな。。風間が部下にちょっとヒントを与えたり質問をしたりするだけで真相に到達する彼らもそれぞれ凄いと思うし、風間はひょっとして学生時代から、いや少年時代からもう完全に風間だったのでは、、、と想像してしまう作品だった。