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楽園とは探偵の不在なり  (ねこ3.7匹)

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斜線堂有紀著。早川書房

二人以上殺した者は"天使"によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦(あおぎしこがれ)は「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱(つねきおうがい)に誘われ、天使が集まる常世島(とこよじま)を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。かつて無慈悲な喪失を経験した青岸は、過去にとらわれつつ調査を始めるが、そんな彼を嘲笑うかのように事件は続く。犯人はなぜ、そしてどのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。最注目の新鋭による、孤島×館の本格ミステリ。(紹介文引用)
 
初読み作家さん。2021このミス6位、本ミス4位作品。
 
お友だちのべるさんが本書にかなり厳しい評価を下していたので、逆にハードル下がって読めたのが良かったのかもしれない。と前置きしておいて。
 
探偵の青岸は、富豪・常木から依頼を受けた縁で「天使塗れの島」と呼ばれる常世島へ招かれることになった。この世では5年前から「天使」と呼ばれる死の遣いが降臨し、2人以上殺人を犯した者は業火に焼かれ地獄へ連れ去られる。天使狂いと呼ばれる奇特な人々と共に常世館での時を過ごす青岸だったが、地下室での異様な催しのあと殺人事件に巻き込まれ……。
 
ははは。。天使の設定、ツメが甘~い。なぜ殺人が1人なら許されるのか、なぜ意図的でない殺人や実行犯は罰せられるのに殺人教唆なら見逃されるのか。正当防衛の場合は?過失致死は?殺人と言ってもピンキリなのに。本格ミステリを標榜するならば、特殊設定のルールに手落ちがあってはいけないと思うのだが。。。だから事件も推理も、その部分に抵触しない形で作られてる。そして天使のビジュアル怖すぎ。目鼻口がなくて骨ばった翼が灰色で、ってもう悪魔じゃん。。頭の中の映像、完全にデスノートリュークだったわ。
 
殺人事件のトリックはなかなか考えられていて良かったと思う。2人以上殺したら地獄行きなのに連続殺人が起きる、だけど誰も地獄へ行かない。ならば犯人は複数説で推し進めるも、理屈に合わない状況になる。そこをうまくすり抜けた、犯人のうまいトリックだった。犯人の語るメロドラマはともかく、この部分だけでも評価に値するな、と思う。思うのだが……。人物造形に力入れすぎじゃない?青岸の過去がとにかく重すぎた。。青岸の回想がこの物語世界でかなり邪魔になっていた気がする。探偵事務所の調査員、4人も必要だった?マンガじゃないんだから……なにこの青春ノリは。。事件解決後のホームビデオのくだりとか長々といらん、いらん。館の人々も、関係近すぎるし偶然に頼りすぎだしなー。助手候補多すぎて笑えるしなー。青岸がどれだけ凄い探偵なのか、っていうのは伝わらなかった。過去にこんな事件を華麗に解決した、みたいなエピソードがしつこく出てくるのだけど、具体的にどういう推理をしたのかがほとんど描かれていなかったのよね。。「赤城の服の右側が汚れていたから」って結局なに?
 
あ、いや、それほど合わなかったわけでもないんだけども。特殊設定をガチガチにしなかったのも、文学的な解釈などが必要なのかもしれないし、全てを読者に説明する義務もないし、哲学的に、正義とは、この世の理とは、というようなことを考える余地を残しているんだとは思う。うんうん。挫折は頭を過ぎらなかったし、読みやすかったし、まあ普通に良かったです。でもなあ……(エンドレス)。