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夢は枯れ野をかけめぐる  (ねこ3.5匹)

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西澤保彦著。中公文庫。

四八歳、独身。早期退職をして静かな余生を送る羽村祐太のもとには、なぜか不思議な相談や謎が寄せられる。「老い」にまつわる人間模様を、シニカルな語り口と精緻なロジックで本格ミステリに昇華させた、西澤ワールドの一つの到達点。(裏表紙引用)
 
「老い」をテーマにした西澤さんの連作短編集。
エリートサラリーマンから一転、無職へ。しかし独身1人暮らしの羽村は長年の節約のおかげで余生は悠々自適。性格も穏やかで頭の回転が早い、西澤作品にしてはかなり好感度の高い(失礼)男性キャラクターを主人公とした作品。
 
「迷いゴミ」
同級会で再会した理都子に自宅でのゴミ分別のアルバイトを依頼された羽村。報酬が破格であることもあり、この仕事に疑問を感じた羽村だが……。
というか、週ン万円も払うなら何でも屋なりなんなりもっといい方法はあると思うが、そこは置いといて。こういう問題は誰にでも将来起こり得ることで、対処法がなかなかないのがやり切れないなと思う。
 
「戻る黄昏」
近所の弓削の次男から、自宅ガレージにしばらく車を置かせてくれと頼まれ快諾した羽村。しかし父親の弓削は、次男の説明に違和感を抱く。
次男、勝手というか子どもというか。。女なら当たり前にやらされている人もいるだろうにな。。まあ、でも、大変だと思う、これ。さらに虚しいラストが現実の厳しさを思い知らされる。
 
「その日、最後に見た顔は」
新築マンションに越してきた主婦の陶子。自宅そばには生まれ育った街があり、過去に歴史記念館前で母親がひき逃げされた辛い思い出がある。その地で懐かしい顔(羽村)に再会した陶子だが…。
母親についての行動や人格の謎を実際に解いたのは陶子。羽村はその引き金を引く役、かな。結局真相はわからないけれど、羽村って本当にそうなのかな。うーん、狭い街だ。女の化粧についてのくだりはかなり考えがズレていて苦笑。。西澤さーん。。
 
「幸福の外側」
弓削の葬儀に集まった親族たち。弓削の次男(問題児また登場)の妻、雪子が最近実家へ行く時に料理を持参しなくなったのはなぜ?
自然食レストラン経営の佐智子の存在感が大きくて物語に広がりが出てきた。次男が成長してきたのも良かったな(いい大人だが)。
 
「卒業」
一話に登場した理都子の娘、詩織をメインとしたお話。大学の友人の悩みを羽村に相談する。というより、詩織がいかに羽村が好きかを語るお話笑。
 
「夢は枯れ野をかけめぐる」
佐智子がメインのお話。これはもう仕掛けられたトリックは簡単に分かる(前例もあるし)。佐智子がただただ哀しいお話。死にかけてベッドにいる人間がよくこんな理路整然と何ページも語れるなと思うがまあいいか。。介護の辛さがひしひしと伝わる。羽村の優しさが染みる素敵なお話でもある。
 
以上。
テーマがあれなので、誰にとっても無関係ではないだろうお話ばかり。なので全てのお話はハッピーエンドではない。解決できない問題ばかりだし、今後の我々自身の永遠のテーマでもあるだろうな。自分も色々思うことあるけれど、まあその時にならないとねえ。自分で決められることならいいけれど。
 
西澤作品にしてはエロもなくアブノーマル系でもなかったので読みやすかった。が、アラフィフ男が若い女性や熟女にやたらモテまくるのはやはり西澤さんらしかった。。