すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ワースト・インプレッション 刑事・理恩と拾得の事件簿  (ねこ3.7匹)

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滝田務雄著。双葉社

女刑事の理恩には問題が多い。減らず口を叩いたり、食い意地が張っていたり、すぐ迷子になったり。だが推理だけは超一流! コワモテの部下である拾得とともに、タレント歌人の失踪、大学教授の謎の死といった4つの難事件に立ち向かう。 ドラマ化された「田舎の刑事」シリーズの著者による、待望のコミカル・ポリス・ストーリー。(紹介文引用)
 
滝田さんの14年の作品。この人一体いくつキャラクターものがあるんだ。
中身オッサンのキャリア警部・畑山理恩と部下でこれまたエリート警部補拾得の凸凹コンビが織り成すコミカルミステリー。なかなか面白かった。
 
歌人薄命」
倒叙もの。売れっ子歌人ゴーストライター兼マネージャーの男が恋愛+仕事トラブルの末歌人をホテルで撲殺してしまった事件。偶然居合わせた理恩が男の弄したトリックを見破る。かつてバームクーヘンを丸ごと食べながら登場するヒロインが居ただろうか…。謎解きは真面目。
 
「偶像は落ちた偶像に落ちた」
大学内で撲殺された教授と、盗んだ像を抱えたまま保護された男。これまた居合わせた理恩と拾得が解決する。刺身にジャムをつけるな理恩。追加キャラの本庁刑事・由音も天然ぽくて話がさらにドタバタ。推理は真面目。
 
「遺産と誤算」
傷だらけ、木の葉まみれで山の中ヒッチハイクをする最低刑事コンビ。山奥の別荘で起きた失踪事件がとんでもない殺人事件を呼び起こす。犯人は分かりやすい。ささいなミスを見逃さない理恩カッコイイ。
 
「エピソードゼロ ワースト・インプレッション」
警部補時代の理恩が拾得とコンビを組むことになった発端の事件。焼死した被害者のポストの新聞や宅配から真相を導き出す。犯人も恐ろしいが、副総監がもっと恐ろしい。
 
以上。
このままシリーズ化するのが自然な終わり方なのだがどうなったのだろう。かなり読みやすくなっていて、今の滝田作品のノリにかなり近い。キャラものとしてはかなりレベルが高いのでシリーズ化をぜひ。

休日はコーヒーショップで謎解きを/The Red Envelope and Other Stories  (ねこ4匹)

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 ロバート・ロプレスティ著。高山真由美訳。創元推理文庫

拳銃を持って押し入ってきた男は、なぜ人質に“憎みあう三人の男”の物語を聞かせるのか?意外な真相が光る「二人の男、一挺の銃」、殺人事件が起きたコーヒーハウスで、ツケをチャラにするため犯人探しを引き受けた詩人が、探偵として謎解きを繰り広げる黒い蘭中編賞受賞作「赤い封筒」。正統派推理短編や私立探偵小説等、短編の名手によるバラエティ豊かな9編をお贈りします。(裏表紙引用)
 
お初の作家さん。年末ランキングに入っていたので早速。このほのぼのしたタイトルにはいい意味で騙された感。コージーミステリ+ノワール小説という一見真逆のジャンルを融合させた作風。まずは各編の感想を。
 
「ローズウィルのピザショップ」
のどかな町のピザショップに現れた紳士的な客は元ヤクザ?後に起こる騒動と登場人物たちのほのぼの感が対照的でいい感じ。
 
「残酷」
上院議員を射殺した後の殺し屋が、車をレッカー移動されていたという…(笑)。そこからあれよあれよと転落していく様が滑稽で面白い。ウェストレイク風。
 
「列車の通り道」
孤児列車に乗せられ離れ離れになった三兄弟。20年ぶりに会いに来た兄は裕福な家に引き取られていた。そして一緒に自分たちの弟を殺した一家に復讐をしようと持ちかけられる。計画は思った通りに行かないもの。贖罪と再生の物語。
 
「共犯」
保護観察中の男が自分に不利な証言をした男を殺し逃亡したらしい。ペンフレンドのマーガレットのところへ刑事が聞き込みに来たが…。マーガレットが何者か分からないところが肝。彼らの選択は正しかったのだろうか?ローレンス・ブロック風。
 
「クロウの教訓」
探偵マーティ・クロウもの。学区外から通ってくる児童たちを尾行する仕事を遂行するクロウだが、ここから得られる教訓は「薮をつつくな」ってところかな。
 
「二人の男、一挺の銃」
オフィスに押し入ってきた男に手錠をかけられ銃を向けられた男。犯人の語る物語が現実と繋がる快感。ジャック・リッチー風。
 
「宇宙の中心 ーワシントン州シアトル、フリーモント地区にて」
タイトルの意味が分かるのは終盤。ピーティが目撃した殺人事件。その犯人らとの攻防からの意外な真実。これは混乱して再読した。やられたなあ。
 
「赤い封筒」
詩人デルガルドを探偵とした推理ものの中編。レックス・スタウト作品をモデルにしているらしい。自由詩で解決する、っていうのが面白いな。登場人物が多すぎて苦戦したがキャラクターものとしては楽しめる。
 
以上。
バラエティに富んだ作品が9編。犯罪小説という共通点はあるものの、どれも色が違っていて飽きずに読めた。邦題「休日はコーヒーショップで謎解きを」が全く作品世界に合っていない気がするのだがわざとだろうか?個人的にはジャック・リッチーテイストでとても気に入ったが。先に出た別の作品も読んでみようと思う。

犯人選挙  (ねこ3.7匹)

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深水黎一郎著。講談社

築30年の「大泰荘」で8人の大学生が共同生活を送っていた。ある朝、マッチョな男性住人が鍵のかかった自室において遺体で発見される。深夜には建物の玄関にチェーン錠がかけられるため、たとえ鍵を持っていても中には入れない二重の「密室」で誰が彼を殺したのか?住人の誰もが怪しく、誰にも動機が…。「7つの選択肢」から犯人を選んで下さい。先行読者投票の結果も収録!(紹介文引用)
 
深水さんの最新作。マルチエンディング+読者投票で犯人を決める、という企画が面白そうだと思って読んでみた。
 
大泰荘という20歳前後の若者8人が共同生活をしている建物が舞台。文学青年の大祐の視点で、自室で絞殺されたフリーター・謙吾を巡る事件をミステリーマニアの洸一と共に推理していくのが第1部。第2部からはいきなり意外な展開の変換があり、戸惑った。ほとんどギャグだし。まあ、そこから企画通り7通りの解決が選べるというわけ。人気のあった犯人なんかも発表されていて楽しめる。読者の推理も紹介されていたりね。投票はともかく、読者にも自分で推理して欲しいという作者の願望が込められているもよう。すいませんね、すぐに解決編を読む読者で。
 
主要人物の大祐と亜沙美があまり好きではなかったので(頭がいいだけで人としてはアホっぽい。純粋ともいえる?)ちょっとキツかったが、他の登場人物は解決によって性格が変わるとはいえなかなか個性的で良かった。個人的には「他の人物犯人」が好きだった。リアリティゼロだけど。まあそれを言うとどの解決編も甘いというか単体作品だったら通用しないようなものばかりだったように思う。(論理的には破綻していなくても、読み物としては読ませる水準に達していない)あと、深水さんならさらにこの後ひとひねりあっても良かったと思う。あんなコメディチックな終わりじゃなくて。
 
まあでも、挑戦的という意味では面白いことをしたなあと思うのでよきかな。

クローバーナイト  (ねこ3.5匹)

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辻村深月著。光文社文庫

小さな会計事務所で働く鶴峯裕は同い年の妻・志保と共働き、四歳の長女・莉枝未ともうすぐ二歳になる長男・琉大を保育園に預け、バタバタの日々を過ごしている。そんな鶴峯家に、ママ友、パパ友から子育てにまつわる難題と謎が押し寄せる!そして事件はとうとう鶴峯家にも―。裕は数々の謎を解き、育児の問題も解決して、家族の幸せを守れるのか!?家族を守る新米騎士が育児と謎解きに悪戦苦闘!現代を代表する家族小説×ミステリー!(裏表紙引用)
 
会計事務所で働く裕と、オーガニックコットン専門ブランド社長の志保。そして娘の莉枝未と息子の琉大。都内で暮らす4人家族の子育て奮闘記。
 
さすが辻村さんという感じでどのお話も読む手が止まらない面白さなのは間違いない。各章ごとミステリー仕立てにもなっていて、それぞれ同じ保育園ママたちのちょっとした不審な行動などが最後に明かされ、さらにその問題を解決していく構成。物語的には家族愛や物事の視野の狭さを追求するものになっていて問題ないと思うのだが、もうこの中の世界が凄すぎてついていけなかったというのが本音。
 
ホカツのポイント稼ぎのために離婚、ブラックフォーマルでお迎え(挨拶はごきげんよう)、誕生日会には100万クラスの予算、会場はホテルや高級レストラン(クラス全員を呼ばなきゃいけない、全員に1万円相当のお返しをしなくてはいけない、場所が他の子とかぶってはいけない、お返しがかぶってもいけない)、自宅でやるなら寿司職人を呼びスイーツの屋台。願書を一桁台にするため夜12時から並び、熱意を示すため時間までスマホも本も見ない。子どもには身長分のペーパーテスト。
 
なんかもう、どうぞご勝手に。という感じ。
 
裕と志保もいい人すぎて違和感が強め。分からない世界だけに面白さは際立っていたけど、不愉快な要素のほうが上回っちゃったな。色々言いたいことあるけど止まらなくなるので自制。
 
 

ヴェネツィア便り  (ねこ3.8匹)

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北村薫著。新潮社。

ヴェネツィアは、今、輝く波に囲まれ、わたしの目の前にあります。沈んではいません。――あなたの「ヴェネツィア便り」は時を越えて、わたしに届きました。この手紙も、若いあなたに届くと信じます――なぜ手紙は書かれたのか、それはどんな意味を持つのか……変わること、変わらないこと、得体の知れないものへの怖れ。時の向こうの暗闇を透かす光が重なり合って色を深め、プリズムの燦めきを放つ《時と人》の15篇。(紹介文引用)
 
北村さんの、多種多様なジャンルの作品が収められた短編集。15編から成っていて、色々な北村作品が楽しめた。ちょっと量が多いので一つずつは紹介できないが、わずか1ページの掌編から、ホラー仕立てのものや文学的なテーマに沿ったものなど、読者それぞれ好みが分かれそうだ。
 
どれも良かったという前提だが、印象深かったものはまず「誕生日 アニヴェルセール」。双子の弟として生まれ育った青年が、病魔に侵され自分の名前の由来や誕生日の秘密に気づく。こういう死に方もありだろう。「くしゅん」は、夫が冷たくなってしまった妻の寂しさを、「白い本」は自分に優しくする自分というものの寂しさを読まれなかった古書に投影している。長年連れ添った夫婦関係を描いた作品も多く、中でも「道」で描かれた「与えれば与えられる」精神は良かった。「指」のようなファンタジー作品、「開く」のようなホラー作品、「岡本さん」のような現代的SF、それぞれ怖さの中に切なさがにじみ出る。こういう北村作品は珍しいと感じた。優しいだけじゃないんだな。特に「黒い手帳」の元担任のネチっこさにはムズムズした。人にもらった自作の本を売ってはいけない。表題作の、未来の自分へ、過去の自分へと綴る手紙もロマンがあって素敵。
 
こうして思い出しながら書くと、結構どれも印象に残っている。北村作品のファンなら押さえておいていいかも。いつもの北村作品とはちょっと違った体験ができる。

書楼弔堂 炎昼  (ねこ4匹)

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京極夏彦著。集英社文庫

明治三十年代初頭。人気のない道を歩きながら考えを巡らせていた女学生の塔子は、道中、松岡と田山と名乗る二人の男と出会う。彼らは幻の書店を探していて―。迷える人々を導く書舗、書楼弔堂。田山花袋平塚らいてう乃木希典など、後の世に名を残す人々は、出会った本の中に何を見出すのか?移ろいゆく時代を生きる人々の姿、文化模様を浮かび上がらせる、シリーズ待望の第二弾!(裏表紙引用)
 
書楼弔堂シリーズ第2弾。
 
書楼弔堂。古今東西のあらゆる書物が揃っていて、購入もできる不思議なたたずまいの本屋さん。そこの店主は元僧侶で、銀縁眼鏡で40代の紳士。無縁仏の縁者を見つけ、供養するために本を売っているらしい。この店主(元は龍典さんというらしい)、かなりの博識なのに、文学的な素養は自分にはないとか嗜む程度とか言っちゃうあたり謙虚でいいなあ。口達者な丁稚のしほるがいいアクセントになっているし。
 
今回は、詩人松岡を中心とした、女学生の塔子の目線で見た迷える人々のお話ということでいいのかな。塔子は元薩摩武士の、男尊女卑主義の祖父との折り合いが悪く、モヤモヤするたびに散歩と称して弔堂へ赴く。演歌師や心理学者の卵、元軍人などのちに世に名を馳せる実在の人々が、どういう経緯を持って弔堂に来て、どういう悩みがあって後に有名になったのかという物語。秘すれば花、変節が悪いのではない、戦わずして勝たねば真の勝利ではない、など、色々と勉強になる教えがたくさん。説教くさくないのもいい。スっと心に入ってくるから、塔子も素直に受け入れられるんじゃないかな。他の人々も。中でも死者を成仏させるかは生者次第というのが響いた。当たり前のことでもなかなか論理的には説明できない心というものがあって、それが京極さんの筆にかかると絡まった紐をほどくかのようにすんなり腑に落ちるから凄いと思う。
 
でもやっぱり塔子は婿を取るのだろうし、他の人々も店主との出会いで全ての問題が解決したわけではない。時代、文化というものはそれほど人を絡め取るものなのだなとも思った。ファンタジーだけどファンタジーじゃない、世の現実は辛い。だけど信念と正しい心が一つあれば希望はあるのかな、と著名な人々の成した偉業を読んでなおのことそう思った。

~2019すべ猫ランキングがすごい!~

どうも皆様こんばんは。今年も大変お世話になりました。ヤフーブログ閉鎖という大事件が起きましたけれども、なんとか無事移行することができまして。皆様も移行先が決定したようで何よりです。しかし年々コメントも訪問者もお友だちの更新も減っていて寂しいですね。何人かの元ブロ友さんとはTwitterで交流しているのですが、それ以外の人とはもう縁が切れちゃったのかなあ~と。自分は訪問者ゼロになっても記事だけは書き続けるつもりです。自分用でもあるので。

 

さて令和元年。色々あって日本大丈夫かって感じでしたが…。読書のほうは割とはかどりました。読了数は154冊です。久々に上回りましたねえ。それではランキングの方をどんどんぱふぱふ

 

国内編

1.  青少年のための小説入門  久保寺健彦 

2.  魔眼の匣の殺人   今村昌弘

3.  白銀の墟 玄の月  小野不由美

4.   あむんぜん  平山夢明

5.   蜜蜂と遠雷  恩田陸

6.   そして、バトンは渡された  瀬尾まいこ

7.   Iの悲劇  米澤穂信

8. いけない  道尾秀介

9. 大聖堂の殺人  周木律

10.虚構推理 スリーピング・マーダー  城平京

  次点:罪の声 塩田武士/ままならないから私とあなた 朝井リョウ/ヤギより上、猿より下 平山夢明

 

 

海外編

1.  特捜部Q 自撮りする女   ユッシ・エーズラ・オールスン

2.  そしてミランダを殺す   ピーター・スワンソン

3.スキン・コレクター ジェフリー・ディーヴァー

4. 煽動者  ジェフリー・ディーヴァー

5. 赤い霧  ポール・アルテ

6. 不条理な殺人  パット・マガー

7. 数字を一つ思い浮かべろ  ジョン・ヴァードン

8. 蝶のいた庭  ドット・ハチソン

9. 乗客ナンバー23の消失  セバスチャン・フィツェック

10.ピクニック・アット・ハンギングロック  ジョーン・リンジー

 

今年は前半の方にうおおな作品が集中した感。後半は安定していいものが多かったという印象です。前半は、ブロ友さんのランキング本や本格ミステリベスト、このミスなどの話題本を読むのに集中するからでしょうか。ということはやはり自分セレクトより他人セレクトの方が当たる…?^^;

 

挫折本/戦場のコックたち(深緑野分)店長がバカすぎて(早見和真

記事にしなかった本/ジェリーフィッシュは凍らない(市川憂人)的を射る言葉、スカイ・イクリプスクレイドゥ・ザ・スカイ、フラッタ・リンツ・ライフ、実験的経験(森博嗣呪われた町スティーヴン・キング

再読/魔性の子、風の海 迷宮の岸、黄昏の岸 暁の天(小野不由美暗黒館の殺人<一>(綾辻行人

 

以上となります。順位など世間評価とズレてたりもすると思いますが、好みが多分に入るのでご容赦を。来年はちょっと冊数減るかと思いますが頑張ります。ランキング本も読みたいものが数冊あるのでそれを読破するのと、あとはいつも通りのセレクトでいく予定。年とともに冒険をしなくなります。。再読もしたいので、その時その時自分の読みたいものを読もうと思っています。

 

長々と読んでいただきありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。