すべてが猫になる

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中野のお父さん  (ねこ3.8匹)

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北村薫著。文春文庫。

若き体育会系文芸編集者の美希。ある日、新人賞の候補者に電話をかけたが、その人は応募していないという。何が起きたか見当もつかない美希が、高校教師の父親にこの謎を話すと…(「夢の風車」)。仕事に燃える娘と、抜群の知的推理力を誇る父が、出版界で起きる「日常の謎」に挑む新感覚名探偵シリーズ。(裏表紙引用)
 
べるさんオススメの、北村さんの新(?)シリーズ。8編収録の連作短編集になっていて、もちろん日常の謎系。最初、「お父さん」て誰なんだろう~?と思っていたら普通に主人公・美希の父親だった。出版社で編集者としてバリバリ働く美希が、仕事などでぶつかった謎を実家の父親のところへ持ち込むという展開。このお父さん、高校教師で読書家、かなりの博識。それでいて性格は穏やか、娘大好き(笑)。
 
新人賞を受賞した男性に受賞を知らせると、その作品は一昨年応募したものだと言われたり、作家の手紙特集では大御所先生に宛てた熱い女性作家の恋文が話題になったり、新発見資料特集では作家の未発表の画帳に隠された秘密が明らかになったり。特に本の汚れを異常に気にする愛書家の話が印象に残った。出版社さんも大変だ^^;
 
とにかく、どれもほのぼのしていて知的で、とても北村さんらしい作品集だった。このお父さん、どうしても北村さんを投影してしまうなあ。続編がすごく楽しみ。
 
北村さんの文庫(小説)読破したどー。

裁く眼  (ねこ3.7匹)

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我孫子武丸著。文春文庫。 

漫画家になりそこね、路上で似顔絵を描いて生計をたてていた鉄雄。ある日テレビ局からの急な依頼を受け、連続殺人事件裁判の「法廷画」を描くことに。注文通り仕上げた絵が無事に放送された直後、何者かに襲われて怪我を負う。鉄雄の絵には一体なにが描かれていたのだろうか?予測不能、驚愕の法廷サスペンス。(裏表紙引用)
 
我孫子さんの文庫新刊。
 
あらすじ、設定を読んでこれは絶対面白いと予想したらその通り、なかなか良かったのでは。法廷画家というものがいるのは知っていたが、その職業にスポットを当てたものを読んだことがなかったので新鮮だった。鉄雄は普通に見たら漫画家になりそこねたフラフラしてる30代の男って感じなんだけど、絵がすごくうまいらしい。文章でもその凄さは伝わってきた。そんなに能力があっても漫画家で食っていけないなんて厳しい世界だなあ。まあ、漫画となると絵だけの問題じゃないんだろうけどさ。それを活かせる仕事がもらえて良かった気がする。ピンチヒッターという形なんだろうけど、これを機に色々仕事が入ってくるんじゃないかな。そんな甘くないのかな。
 
鉄雄が自宅前で殺されかけたり、法廷画家の女の子が殺されたりとミステリー的にも謎が多くてハラハラしたなー。まさかあの人が犯人とは。そして、鉄雄の絵の謎のほうにビックリしたなあ。ちょっと不満といえば、稀代の殺人鬼と呼ばれる佐藤美里亜の事件が一体どうなるのかってところ。そこがメインではないのだけど、これ、私、ヤってると思うなあ^^;鉄雄が美人ってだけの理由で無実を信じたり、パっとしない容姿の女の子にはキツいことを言ったりするところは「あー、はいはい、女慣れしてないのね」って感じだったな。現実だと容姿の良くない女性がそういう事件を起こしていたりして、「美人だと騙されてるのでは、って疑ってしまうから逆にそうじゃない人のほうがうまくいくんだなあ」って思ってたけど、そうとも限らないのかもねえ。世の中にはなぜ騙される?!って思ってしまうような、分かりやすい詐欺に引っかかる人いるもんなあ。。信じられないけど、芸能人の名を騙った迷惑メールに引っかかる人いるんだもんね。(ウチはよくキムタクと土屋太鳳ちゃんから来る)
 
でも姪っ子の蘭花ちゃんが純粋で鉄雄想いで良かったなー。この子がいるといないのとでは作品の印象がガラっと変わると思う。シリーズ化とかしないだろうけど、我孫子さんにはこういうのをまた描いていただきたい。

太宰治の辞書  (ねこ3.8匹)

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北村薫著。創元推理文庫

大人になった“私”は、謎との出逢いを増やしてゆく。謎が自らの存在を声高に叫びはしなくても、冴えた感性は秘めやかな真実を見つけ出し、日々の営みに彩りを添えるのだ。編集者として仕事の場で、家庭人としての日常において、時に形のない謎を捉え、本をめぐる様々な想いを糧に生きる“私”。今日も本を読むことができた、円紫さんのおかげで本の旅が続けられる、と喜びながら。(裏表紙引用)
 
円紫さんと私シリーズ最新刊。まさか新刊が読めるとは。とは言え、この作品に登場する「私」はもう大学生ではなく出版社編集者となった一児の母。旦那さんとの出会いや馴れ初めは出てこないが理解のある夫のようで、仕事と子育てを上手にこなしている感じ。そして相変わらず本の虫のようで何より。生活が一変すると今までのように趣味は続けられない人もいるけれど、「私」は仕事が趣味と直結しているのと環境に恵まれているため変わらないみたい。親友の正ちゃんも登場して嬉しいな。憎まれ口も健在。
 
ちょっと残念だったのは、今までのような「日常の謎」系ではなくなっていたこと。落語の要素も薄かったかな。円紫さんが3編目で登場した瞬間「キャー」となったけどね。円紫さんはもう立派な真打ちで、チケットを取るのも苦労するみたい。お付き合いがあるのに、ちゃんと早くから並んで席を押さえる「私」っていいなあ。
 
内容はほぼタイトル通りの太宰治の謎を追求するもの。個人的にはあまり純文学には精通していないので(一般常識程度…)知らないことだらけ。有名な「生れてすみません」の真実にはビックリしたなあ。ほとんどの人が勘違いしてるんじゃないかな。でも、単に事実はこうでした、で終わっていないのがいい。心の辞書ってところかなあ。素敵だ。普段こういう題材を読んでも原典にあたろう、とか思わないんだけど、北村さんの手にかかるとなんか読破したくなってくるから不思議。太宰や芥川などなど(興味がないわけじゃないんだよね)。薀蓄が押し付けがましくないからだろうな。「私」が知識量を振りかざすことなく、追求する姿が魅力的なんだよね。

騙す骨/Skull Duggery  (ねこ3.8匹)

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アーロン・エルキンズ著。青木久惠訳。ハヤカワ文庫。

妻ジュリーの親族に招かれメキシコの田舎を訪れたギデオン夫婦。だが平和なはずのその村で、不審な死体が二体も見つかっていた。銃創があるのに弾の出口も弾自体も見当たらないミイラ化死体と、小さな村なのに身元が全く不明の少女の白骨死体だ。村の警察署長の依頼で鑑定を試みたギデオンは次々と思わぬ事実を明らかにするが、それを喜ばぬ何者かが彼の命を狙い…一片の骨から迷宮入り寸前の謎を解くスケルトン探偵。(裏表紙引用)
 
ケルトン探偵シリーズ邦訳第15弾。
 
よしよし、元の面白さが戻ったぞ!
今回のギデオン夫妻はジュリーの親戚関係の絡みでメキシコへ。観光牧場の管理をいとこの代わりにやることになったジュリーと、おヒマなギデオンさん。骨が2つも見つかって喜びが隠せないのが微笑ましい…。
 
今回は骨の鑑定がメインと言ってもいいぐらい鑑定しまくる。銃の射出口がないのはなぜ、とか少女の身元が分からないのはなぜ、とか足のこの部分の骨が太い職業はナニとか、全部ギデオンが鑑定し謎を解いてしまう。植木バサミやドライバーにびびる警察署長サンドバールがいい味出してるなあ。全然やる気ないし。懐かしのマルモレーホも登場。
 
いつも通り命を狙われるギデオンなんだけど、今回は見事に反撃!こういう場合って事件捜査を拒む人がだいたい犯人だよね…。しかし一族の秘密や犯罪、人間関係がどんどん明らかになっていってかなりミステリしてる。今さら暴かなくても、と思う事件も多かったりするけど、今回のこれは明るみになって結果良かったのでは。それにしてもメキシコは公訴時効から除外されてないって…?

ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~ (ねこ4匹)

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三上延著。メディアワークス文庫

静かにあたためてきた想い。無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。彼女の答えは―今はただ待ってほしい、だった。ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。邂逅は必然―彼女は母を待っていたのか?すべての答えの出る時が迫っていた。(裏表紙引用)
 
シリーズ第5弾~。進展したぞふおおお。
今回は短編3編と、プロローグ&エピローグ&断章の挿入という形で構成。これがまたうまいんだ。
 
「第一話 『彷書月刊』(弘隆社・彷徨舎)」
古書界で噂になっている彷書月刊のバックナンバーをほうぼうで売ったり買い戻したりしている年配女性がビブリア古書堂にも現れた。どうやら志田と関係があるようだが…。ビブリアにしては普通の謎解きだなと思っていたら、断章でひっくり返された。過去の過ちがあまりにも大きすぎると、簡単に「人はやり直せる」とは言いづらいな。本人だけの問題じゃないしね。でも全ての人間関係っていうのはうまくいって欲しい。
 
手塚治虫コレクターの男性の妻が死去。滝野の友人から依頼されたのは、友人の弟が「ブラック・ジャック」の貴重な四巻を盗んだというものだった…。手塚治虫に人気の低迷していた時代があったとは知らなかった。実は私、手塚治虫だけは何を読んでもあまり合わなかった。(「火の鳥 未来編」以外)しかし「ブラック・ジャック」だけはドハマリして文庫を揃えたし、漫画をほとんど読まない旦那も「ブラック・ジャック
だけは実家の屋根裏に大事に保管している。なので、「ブラック・ジャック」でファン層が広がって人気が再燃したというのには納得できたなあ。
さておき、弟の誤解が招いた、夫婦の絆に泣けた。ある意味こういうことがあって良かったんじゃないかな。。老婦人の「あの時、どうして本棚を買ってあげなかったのか」という台詞が心に残った。
 
「第三話 寺山修司『われに五月を』(作品社)」
栞子さんが一昨年出禁にした客が、栞子さんの家に現れた。それは寺山修司コレクターの兄から盗んだ寺山修司の貴重な本をビブリアに売った男だった。しかし男は、その本は兄から譲られたものだと言い張るのだが…。
この弟はどうしようもない人だし好きではないが、本は読むためにある、形見でも関心がない人が持つぐらいなら読んでくれるファンの人に渡したいという考えには少し同調できる。大事なのは傍にいる人との関係で、有名作家の直筆原稿よりそれが優先されないなんてことはあってはいけないと思う。これが出来てないのが栞子さんの母親なんだけど^^;
 
以上。
 
各短編のレベルが高く楽しめたが、今回の見所はやはり五浦さんの告白がどうなったか、そして栞子さんの母親と栞子さんの関係の進展(と言っていいのかどうか)だろう。いやあ、こういうことになるとは。。感無量だなあ。まだまだ色々波風立ちそうだけど。栞子さんは母親に多少の情があるし、迷いがあるんだなあ。でもこういうことになったからには、断ち切ってもいいのではと。自分も母親と同じになるかもしれないと言う栞子さんに対して五浦さんがあそこまで言ってくれたのだから。それでもダメなら母親と同類になっちゃうよね。

伽藍堂の殺人 ~Banach-Tarski Paradox~  (ねこ3.8匹)

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周木律著。講談社文庫。

謎の宗教団体・BT教団の施設だった二つの館の建つ伽藍島。リーマン予想解決に関わる講演会のため訪れた、放浪の数学者・十和田只人と天才・善知鳥神、宮司兄妹。その夜、ともに招かれた数学者二人が不可能と思われる“瞬間移動”殺人の犠牲となる。秘められた不穏な物語がさらに動く“堂”シリーズ第四弾。(裏表紙引用)
 
シリーズ第4弾~。
 
林田呂人と名乗る人物から伽藍堂で開催される数学講演会への招待状を受けた百合子。兄の司も無理矢理同行し、辿り着いたのはBT教団が所有する施設・伽藍堂。新聞記者や数学者、善知鳥神、十和田が一堂に会し講演が開催されるも、やがて2人の博士が”伽堂”内のせり舞台でマイクスタンドに串刺しにされた「はやにえ」の状態で発見された。
 
もうここまで来るとむちゃくちゃだな^^;このシリーズが「回転」にこだわっているのは周知のことなので、さぞや大掛かりなトリックが待ち受けているんだろうと思ったらまたしても想像の上を行った。いやいやいや、もうここまで来ると壮大というよりショーの領域ですわ。いちいち図面で説明してくれるので分かりやすい。リーマン予想とかバナッハ-タルスキのパラドクスとか理解しているとは言い難いが、基本的には読みやすいのでまあ許容範囲。まあトリックも凄かったが、犯人の正体。。。これは一体どう収拾付けるつもりだろうか。なんかもう待てないんですけど。
 
この作品がシリーズのキーになるのか転換点なのか。宮司兄弟にも色々秘密があるようだし、ミステリ、ストーリー共にちょうどいい案配になってきたなあ。善知鳥神なくても成立するような。。

魔眼の匣の殺人  (ねこ5匹)

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今村昌弘著。東京創元社

あと二日で、四人死ぬ―― 閉ざされた“匣"の中で告げられた死の予言は成就するのか。 ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ待望の第二弾! その日、“魔眼の匣"を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。(紹介文引用)
 
シリーズ第2弾。
 
登場人物一覧を見てホロリ。
極秘の特殊実験施設の存在をそのまま設定として引き継ぎ、今回は班目機関による超能力実験施設を絡めたオカルト要素をふんだんに盛り込んだミステリとなっている。前回登場した葉村と比留子さんは、オカルト雑誌「月刊アトランティス」に寄せられた数々の大事件を予言する手紙に引き寄せられ、W県最奥部の好見地区へ向かった。しかし「サキミ様」の予言「11月最後の2日間に、真雁で男女が2人ずつ、4人死ぬ」という言葉を恐れ、住民は姿を消していた。途中で偶然知り合った男や高校生の男女、元住民の女性、立ち往生した親子を引き連れ、2人はサキミ様の住む旧真雁地区の「魔眼の匣」へ辿り着く。好見地区へ戻る唯一の橋は燃やされ、電話も不通。急遽魔眼の匣に滞在することとなった一行だが、予言通り次々と犠牲者が――。
 
前回少し気になった、キャラクターの不安定さが完全に払拭され読みやすくなった。前回の悲惨な経験を踏まえ、主要キャラクター2人の言動に説得力がついてきたのだと思う。つかず離れずの男女関係はシリーズものとして切って離せないものだし、比留子さんの探偵にはそぐわない弱さや感情的な性質は既存の本格ミステリ作品にはあまり見られなかったものだろう。
 
まず、クローズドサークル下で殺人を犯すことの理不尽さ、関係者たちが拒否する相互監視、ミッシングリンクの後日の有効性など、本格ミステリで必ず疑問視される問題点を1つ1つクリアしているのが見事だった。なぜ赤いエリカをサキミ様の部屋の前にばらまいたのか、なぜ時計をバラバラに破壊したのかなど、それぞれに犯人の特殊な心理状態が説明づいている。なお、「予言が当たる」「全員が予言を信じている」という確証がないところがこの作品のミソである。これは「予言が本物」だという設定のものとは区別しないといけない、そもそもロジックの基本構造が違う。そこを読み違えると、この後に明かされる犯人の心理、動機を読み解くことはできないと思う。(オカルトといえばオカルトではあるのだが)さておき特殊条件下で生まれたこの犯人の狂気性がストンと腑に落ちるのは、犯行に至った経緯までをもすくい上げる書き込みの上手さ。前作では犯人の動機や犯行がどうにもアンバランスだったが、今回はそういった部分に意見を差し込む余地を与えない。
 
さらに、サキミ様にまつわる秘密や「探偵の予言」など、比留子さんは事件が解決してからも推理を畳み掛けこちらを驚かせてくれた。前作のインパクトには及ばないものの、本格ミステリとしての”縛り”に特化したロジックの完璧さにおいて、こちらは前作を上回る出来だと思う。キャラクターに頼る必要もなさそうな、相当な実力派であることが立証された。これが3作続けば天才レベル。続編ありきの終わり方だったので期待。