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魔眼の匣の殺人  (ねこ5匹)

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今村昌弘著。東京創元社

あと二日で、四人死ぬ―― 閉ざされた“匣"の中で告げられた死の予言は成就するのか。 ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ待望の第二弾! その日、“魔眼の匣"を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。(紹介文引用)
 
シリーズ第2弾。
 
登場人物一覧を見てホロリ。
極秘の特殊実験施設の存在をそのまま設定として引き継ぎ、今回は班目機関による超能力実験施設を絡めたオカルト要素をふんだんに盛り込んだミステリとなっている。前回登場した葉村と比留子さんは、オカルト雑誌「月刊アトランティス」に寄せられた数々の大事件を予言する手紙に引き寄せられ、W県最奥部の好見地区へ向かった。しかし「サキミ様」の予言「11月最後の2日間に、真雁で男女が2人ずつ、4人死ぬ」という言葉を恐れ、住民は姿を消していた。途中で偶然知り合った男や高校生の男女、元住民の女性、立ち往生した親子を引き連れ、2人はサキミ様の住む旧真雁地区の「魔眼の匣」へ辿り着く。好見地区へ戻る唯一の橋は燃やされ、電話も不通。急遽魔眼の匣に滞在することとなった一行だが、予言通り次々と犠牲者が――。
 
前回少し気になった、キャラクターの不安定さが完全に払拭され読みやすくなった。前回の悲惨な経験を踏まえ、主要キャラクター2人の言動に説得力がついてきたのだと思う。つかず離れずの男女関係はシリーズものとして切って離せないものだし、比留子さんの探偵にはそぐわない弱さや感情的な性質は既存の本格ミステリ作品にはあまり見られなかったものだろう。
 
まず、クローズドサークル下で殺人を犯すことの理不尽さ、関係者たちが拒否する相互監視、ミッシングリンクの後日の有効性など、本格ミステリで必ず疑問視される問題点を1つ1つクリアしているのが見事だった。なぜ赤いエリカをサキミ様の部屋の前にばらまいたのか、なぜ時計をバラバラに破壊したのかなど、それぞれに犯人の特殊な心理状態が説明づいている。なお、「予言が当たる」「全員が予言を信じている」という確証がないところがこの作品のミソである。これは「予言が本物」だという設定のものとは区別しないといけない、そもそもロジックの基本構造が違う。そこを読み違えると、この後に明かされる犯人の心理、動機を読み解くことはできないと思う。(オカルトといえばオカルトではあるのだが)さておき特殊条件下で生まれたこの犯人の狂気性がストンと腑に落ちるのは、犯行に至った経緯までをもすくい上げる書き込みの上手さ。前作では犯人の動機や犯行がどうにもアンバランスだったが、今回はそういった部分に意見を差し込む余地を与えない。
 
さらに、サキミ様にまつわる秘密や「探偵の予言」など、比留子さんは事件が解決してからも推理を畳み掛けこちらを驚かせてくれた。前作のインパクトには及ばないものの、本格ミステリとしての”縛り”に特化したロジックの完璧さにおいて、こちらは前作を上回る出来だと思う。キャラクターに頼る必要もなさそうな、相当な実力派であることが立証された。これが3作続けば天才レベル。続編ありきの終わり方だったので期待。