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太宰治の辞書  (ねこ3.8匹)

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北村薫著。創元推理文庫

大人になった“私”は、謎との出逢いを増やしてゆく。謎が自らの存在を声高に叫びはしなくても、冴えた感性は秘めやかな真実を見つけ出し、日々の営みに彩りを添えるのだ。編集者として仕事の場で、家庭人としての日常において、時に形のない謎を捉え、本をめぐる様々な想いを糧に生きる“私”。今日も本を読むことができた、円紫さんのおかげで本の旅が続けられる、と喜びながら。(裏表紙引用)
 
円紫さんと私シリーズ最新刊。まさか新刊が読めるとは。とは言え、この作品に登場する「私」はもう大学生ではなく出版社編集者となった一児の母。旦那さんとの出会いや馴れ初めは出てこないが理解のある夫のようで、仕事と子育てを上手にこなしている感じ。そして相変わらず本の虫のようで何より。生活が一変すると今までのように趣味は続けられない人もいるけれど、「私」は仕事が趣味と直結しているのと環境に恵まれているため変わらないみたい。親友の正ちゃんも登場して嬉しいな。憎まれ口も健在。
 
ちょっと残念だったのは、今までのような「日常の謎」系ではなくなっていたこと。落語の要素も薄かったかな。円紫さんが3編目で登場した瞬間「キャー」となったけどね。円紫さんはもう立派な真打ちで、チケットを取るのも苦労するみたい。お付き合いがあるのに、ちゃんと早くから並んで席を押さえる「私」っていいなあ。
 
内容はほぼタイトル通りの太宰治の謎を追求するもの。個人的にはあまり純文学には精通していないので(一般常識程度…)知らないことだらけ。有名な「生れてすみません」の真実にはビックリしたなあ。ほとんどの人が勘違いしてるんじゃないかな。でも、単に事実はこうでした、で終わっていないのがいい。心の辞書ってところかなあ。素敵だ。普段こういう題材を読んでも原典にあたろう、とか思わないんだけど、北村さんの手にかかるとなんか読破したくなってくるから不思議。太宰や芥川などなど(興味がないわけじゃないんだよね)。薀蓄が押し付けがましくないからだろうな。「私」が知識量を振りかざすことなく、追求する姿が魅力的なんだよね。