すべてが猫になる

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神様が殺してくれる  (ねこ3.9匹)

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森博嗣著。幻冬舎文庫

パリの女優殺害に端を発する連続殺人。両手を縛られ現場で拘束されていた重要参考人リオンは「神が殺した」と証言。容疑者も手がかりもないまま、ほどなくミラノで起きたピアニスト絞殺事件。またも現場にはリオンが。手がかりは彼の異常な美しさだけだった。舞台をフランクフルト、東京へと移し国際刑事警察機構の僕は独自に捜査を開始した―。(裏表紙引用)
 
森さんの引き出しの多さにビックリ!これはフランス人のインターポールを主人公にした、海外が舞台のミステリィ。教授とか全然出て来ない(いるっちゃいるけど)ってだけで新鮮。イタリア、フランス、ドイツ、日本と舞台をコロコロ変えて、事件がどんどん増えていっちゃう。女性と見まごう美貌の青年リオンを追う、っていうロマンも紛れているところがミステリアスな感じ。さらに真相がきっちり意外性あってドラマがあって、正直森ミステリィを見くびってたなあと。

相田家のグッドバイ  (ねこ3.6匹)

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森博嗣著。幻冬舎文庫

紀彦にとって相田家はごく普通の家庭だったが、両親は変わっていた。母は整理収納に異常な情熱を傾け、孤独を愛す建築家の父はそんな母に感心していた。紀彦も結婚し子供ができる。やがて母が癌で亡くなり、看取りのあと父も自ら入った施設で亡くなる。家のあちこちに母が隠したヘソクリが出現し……。限りなく私小説の姿を纏う告白の森ミステリィ。(裏表紙引用)
 
森作品にしては珍しく、会話文や詩的文章もなく改行も少ない小説。神視点=相田家視点で、相田家の父親、母親、主人公の立場での長い人生が語られる。相田家はかなり両親が変わっていて、特に母親の「モノを捨てられない」癖は地獄。整理魔だからまだマシか。愛情がないわけでもないけれど、成人したら家族に依存してはいけない、みたいな。それも教育として、って感じでもないのよね。性格というか。それはともかく、後半は主人公視点の父親の介護の様子が延々と綴られるのがキツかった。リアルというか、身につまされるというか。主人公、偉いよなあ。妻がよく耐えたと思うわ。ラストがちょっと夢物語ふうになってついていけなくなったが、この独特の家族風景は読む価値あり。

喜嶋先生の静かな世界  (ねこ3.8匹)

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森博嗣著。講談社文庫。

文字を読むことが不得意で、勉強が大嫌いだった僕。大学4年のとき卒論のために配属された喜嶋研究室での出会いが、僕のその後の人生を大きく変えていく。寝食を忘れるほど没頭した研究、初めての恋、珠玉の喜嶋語録の数々。学問の深遠さと研究の純粋さを描いて、読む者に深く静かな感動を呼ぶ自伝的小説。(裏表紙引用)
 
「自伝的小説」と紹介にあったが、森さんご本人に確認したら否定されそう。でもそれぐらい、どこまでが森さんでどこまでが創作なのかな、と勘ぐってしまいたくなる小説だった。理系の研究者の独特の性質や生活が赤裸々に綴られていて、それがとても面白い。理系や頭のいい人のみならず、万人の生活に共通する名言も多々。森さんの文章だから読みやすいし、理系人間じゃないのになんだかワクワクする人生だなあと。ずっと研究だけしていたいよね。それでも人間らしく下世話?な展開もあったりして、親近感。ラストは本当であって欲しくないな。。

殺人犯 対 殺人鬼  (ねこ4.2匹)

早坂吝著。光文社文庫

ここは孤島にある児童養護施設。嵐で船が出せず職員が戻れなくなっている。島には子供だけ。この好機に僕、網走一人は彼女を自殺未遂に追い込んだ奴等の殺人計画を実行することにした。まずは剛竜寺だ。――何故もう殺されている? 抉られた片目に金柑のはまった死体。僕より先にこんな風に殺したのは誰だ! 戦慄の連続殺人の真相を見破れるか!(裏表紙引用)
 
早坂さんのノンシリーズ文庫新刊。こんな作品があったことを忘れていた。タイトルからして早坂さんぽいちょっとぶっ飛んだノリ。舞台は孤島の児童養護施設で、語り手の網走がいじめっ子のボスを殺そうと企むも先に誰かに殺されていた、という突飛な出だし。よって好感の持てる主人公ではないのだが、その動機が同情を誘う。しかし、意味のなさそうな文章に強調点が付けられていたり(伏線なのはわかるが)、二重人格、探偵、筋トレ女子など色々とキャラの立った人物が出てきたりとなんとなく誰も信頼できない。語り手さえも。挿入される「X」の過去は現在の誰を指すのか。ラストは期待していた通りのどんでん返しと読者騙しが明らかになってスッキリ。奇抜ゆえに好き嫌いは分かれそうかな。私はこういう猟奇的で遊びに走った動機って嫌いじゃない。登場人物の年齢層が低いからこそ成立する世界観かも。面白かった。

少し変わった子あります  (ねこ3.7匹)

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森博嗣著。文春文庫。

失踪した後輩が通っていたお店は、毎回訪れるたびに場所がかわり、違った女性が相伴してくれる、いっぷう変わったレストラン。都会の片隅で心地よい孤独に浸りながら、そこで出会った“少し変わった子”に私は惹かれていくのだが…。人気ミステリィ作家・森博嗣がおくる甘美な幻想。著者の新境地をひらいた一冊。(裏表紙引用)
 
森博嗣、こんなお話も書くんだ。と感心しちゃう1冊。
失踪した大学の後輩に紹介されたおかしなレストラン。毎回場所が変わり、複数での来店は許されず、行けば1人の女性と共に食事を取るサービスがある。大学教授の主人公はその店の常連になるが、毎回来る女性は違っていて…。
 
まさに森ワールド。女性と食事を共にする、会話はあったりなかったり、ただそれだけ。なんとなく、「注文の多い料理店」を思い出させる雰囲気有り。全く性的な意味も発想もないあたりが特に森さんらしさを醸し出させるな~。孤独な大学教授の主人公が日々考えている他者の疑問やあれやこれやを、見知らぬ女性と過ごすことによって浮き彫りにする感じでこれまた哲学的。最終話で1話目に戻ったかのような錯覚を起こす感じ、やられた。サラっとしてるけどファンタジック。見せかけの笑顔や楽しさに惑わされないで。

秘密/The Secret Keeper  (ねこ4.2匹)

ケイト・モートン著。青木純子訳。創元推理文庫

1961年、少女ローレルは恐ろしい事件を目撃する。突然現われた見知らぬ男を母が刺殺したのだ。死亡した男は近隣に出没していた不審者だったため、母の正当防衛が認められた。男が母に「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と言ったことをローレルは誰にも話さなかった。男は母を知っていた。母も男を知っていた。彼は誰だったのか?ケイト・モートンが再びあなたを迷宮に誘う。(上巻裏表紙引用)
 
初読みケイト・モートン。かなり前に話題になっていた時にチェックしていた本なのだが、上下巻なので気後れしていた。このたびお仲間さんにオススメいただいたので重たい腰を上げた次第。
 
50年間に渡る膨大な年月を、現在母娘の関係となるドロシー、ローレル2人の女性の視点で交互に語り継ぐ構成。5人姉弟の長女ローレルが幼少の頃目撃した母親の殺人。司法は強盗に襲われたことによる正当防衛を認め母親は無罪となったが、ローレルは母親が強盗と知り合いであったことを見聞きしながらも誰にも言えずにいた。月日は流れ、ドロシーは年老い死を待つばかりの状態に。ローレルは母親の秘密を知るべく弟と母親の過去を探り始める。
 
上巻は話が進まずやや冗長。上巻の後半~下巻から怒涛の展開。ドロシーが憧れるセレブのヴィヴィアンと恋人ジミー、ヴィヴィアンの夫(母を襲った男)。魔の四角関係か?ドロシーがジミーを横恋慕したヴィヴィアンを殺し、夫が復讐に現れたのか?としか読めない昼ドラじみたドロドロ展開を予想したが、一筋縄ではいかなかった。1人1人を掘り下げることによって生じる人間関係の噛み合わなさ。バタフライ・エフェクトのように本人の手を離れた出来事が知らないところで取り返しのつかない影響を与える。ああ、あの人はそんな事思ってないのに、、その人がやったことではないのに、、
作中挟まれる神の視点が読者の気持ちとリンクする。破滅へのカウントダウン。そして明かされる驚愕の事実。
 
ここで充分決着がついたかに見えたが、ラストにちょっと嬉しいサプライズも。なんだかんだ、良かったじゃないの。ロマンスとミステリーの融合なのかな、女性向きかも。面白かった!他の作品も読みたい。
 

第2図書係補佐  (ねこ4匹)

又吉直樹著。幻冬舎よしもと文庫。

僕の役割は本の解説や批評ではありません。自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました。(まえがきより)。 お笑い界きっての本読みピース又吉が尾崎放哉、太宰治江戸川乱歩などの作品紹介を通して自身を綴る、胸を揺さぶられるパーソナル・エッセイ集。巻末には芥川賞作家・中村文則氏との対談も収載。(裏表紙引用)
 
もう何年も前から読みたいなと思っていたのにスルーしていた本を今のマイ・エッセイブームに便乗して読破。10年以上前の内容なので、又吉さんが小説を書くのはまだまだ先のこと。そう考えて読むと感慨深いというか、ご本人や周りの人びとに「又吉さん芥川賞とるよ!」と教えてあげたくなること多々。手相占い師に、「あなた35歳で…あああ!!」と言われたエピソード本当なのかな。調べたら芥川賞とった年よね。
 
で、本書。又吉さんが好きな本をたくさん紹介してくれるのだけど、その1冊1冊に合わせた体験談をショートストーリーのように掲載しているという結構すごいエッセイ。こういう事出来る人って結構限られてる気がするのだけど。この時から文章力もあるし、頭の良さも感じさせられるし、感受性も高そう。
 
紹介されている本は想像通り、純文学がメイン。自分とはベクトルが違うのは分かっていたのでまあいいんだけど、そんな自分でも読んだ事のある本が結構あった。「キッチン」「変身」「異邦人」「銀河鉄道の夜」などなどなど。要は読書のいろはの「い」がほとんど。これはまず本を好きになってくれるところから始めたいという又吉さんの考えが反映されていてイイと思った。いきなり難解なものやマイナーどころを勧めて「わからなかった」って言われるのがイヤなんだろう。未読で気になった本も結構あったなあ。意外と自分、こっち系もいけたりして。
 
1番響いたのが、「暗い本が必要な人間もいる」というようなくだり。感動する本やほっこりする本、役に立つ本、そういう本を好む人がいるのはもちろんいいが、人殺しの本や内面の懊悩、醜さを描いた本を好む人は普通にいていいんじゃないか、それに生かされてる人もいるんじゃないか、、、とちょっと励まされた気がする。