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麒麟の翼  (ねこ3.9匹)

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東野圭吾著。講談社文庫。

 

「私たち、お父さんのこと何も知らない」。胸を刺された男性が日本橋の上で息絶えた。瀕死の状態でそこまで移動した理由を探る加賀恭一郎は、被害者が「七福神巡り」をしていたことを突き止める。家族はその目的に心当たりがない。だが刑事の一言で、ある人物の心に変化が生まれる。父の命懸けの決意とは。(裏表紙引用)



映画化もされた作品だが、まだそちらは未見(録画済み^^)。


東野作品で人気の、加賀恭一郎シリーズに心踊る。今回の事件は、建築部品メーカー会社製造本部長であり、妻と子二人を持つ55歳の男性が日本橋上で何者かに刺殺された、というもの。さらに、容疑者とみられる青年が逃亡の末トラックに轢かれ瀕死の状態。事件は容易に解決するかに見えたが――。

 

被害者が最初はある犯罪を疑われ、最初は遺族に同情的だった世間の態度が180度変わるというのが読んでいて辛かったところ。被害者の息子も娘もまだ10代で、とても世間の非難に耐えられる年齢ではない。真相はどうあれ、他人事ながら世間の冷たさ、残酷さがいたたまれない。そして、犯人と目された青年の同棲相手である女性は妊娠中で、こちらも彼を信じるあまり壮絶な苦悩を抱える。きっと何か別のところに真実があるはず――加賀さんも読者も、そう思い続ける。やはり加賀さんの人間味溢れる言葉や捜査能力には舌を巻いてしまう。粘り強いし、遺族や関係者への気配りにも長けているなあと思う。この能力が、自分自身へは発揮されないのが切ないな、加賀さんよ。


捜査を進めるうちに、被害者の意外な人となりや関係者の過去などが暴かれ、最後には驚くべき真相が明らかとなる。ここで思ったのが、やはり人は他人の影響なくては生きてはいないということ。それは時に間違った方向へ向かう。作中にもあるが、殺人とは癌細胞のようなものだ。間違えれば、嘘でごまかし続ければ、必ず破綻をきたす。今回の事件に関わってしまった人々が、少しでもやり直せるように、何かに気付けるように――そんな希望を抱くことを許されそうな、加賀シリーズらしいラストだ。