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ヴィクトリア朝の寝椅子/The Victorian Chaise-longue (ねこ3.5匹)

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マーガニータ・ラスキ著。新人物往来社

 

第二次世界大戦終結から七年後のロンドン。弁護士を夫に持ち、一人の子供に恵まれたメラニーは、次の子供を妊娠中に結核を患ってしまう。不安と焦燥の中、骨董屋で入手した寝椅子で眠ってしまったメラニー。目が覚めるとそこは1864年で、しかも自分はメラニーではなく別の名前で呼ばれていた――。

 


150ページほどの短めの長編で、聞いたことのない出版社だが「20世紀イギリス小説 個性派セレクション」という叢書の中の一冊目らしい。気まぐれに読んでみたのだが、個性派と銘打つだけあってなかなかない変わった物語だった。出だしは普通のタイムスリップものだな、と思うのだが、読むにつれて、あまりにも主人公メラニーの視界が変化しないことに気付く。病気療養中とはいえ、普通ならもっと色々調べたりドラマがあったりするよなあと思うのだが。舞台はとにかくベッドの上のみ。本当にもうそれのみ。そして、私はミリーじゃない、メラニーよ!どうしてわかってくれないの!と苦悩するも、やって来るのは敵意ある姉と役に立たない牧師だけ。戻るために何かするでもないし。

 

そんな感じなのになぜか面白いのは、メラニーメラニーでありながら、ミリーでもあるというところ。まるで取りつかれて行くかのように、ミリーの意識、性格、言葉がメラニーに浸食していく。メラニーの時代なら治療法がわかっている病気なのに、伝えられない。この時代にない言葉は話せない。そのもどかしさにこちらまでむずがゆい気持ちになった。結末はあっけにとられる、という表現が最も適した展開で、結局なんやってん?^^;と言いたくなった。解説では恍惚がどうの法悦がどうのと賢い解釈がなされているので、読めばああそうかとは思うものの、そんな難しいことはわからない。