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かにみそ  (ねこ3.8匹)

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倉狩聡著。角川書店

 

全てに無気力な私が拾った小さな蟹。何でも食べるそれは、頭が良く、人語も解する。食事を与え、蟹と喋る日常。そんなある日、私は恋人の女を殺してしまうが……。私と不思議な蟹との、奇妙で切ない泣けるホラー。 第20回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞。

 


ジャケットに惹かれて無知識に手に取ったら、毎度おなじみホラー小説大賞ものだった。え、これホラー?^^;

 

というわけでなんともカワイイ表題作「かにみそ」。平凡な、実家に住む会社員の青年が拾ってきた蟹。なんとそいつは喋るしテレビも観るし新聞も読むしあらびっくり、というお話。自腹でスーパーで買ってきた肉や色んな物を与え、友達関係を築き上げていく青年と蟹。栄養だけ吸収して、いらない部分は吐き出して団子にしていく習性が面白いし不気味だと思った。これがどうホラーなんだ?とってもカワイイじゃないか!と思っていたら、その団子を食卓にあげたり(おぇぇぇ^^;)、いきなり、ほんとに唐突に青年が職場の恋人を絞殺したりするわけ。え、ナニ、この淡泊すぎる、無感情な感じは。そういうわけで蟹が人間を食べる描写もなかなかにエグくて、でも、切ないわけ。別れたくないわけ。だって僕たちともだちだもん!

 

タイトルが結末を予想させてしまうのは欠点と言えば欠点か。変わりネタの面白いだけのホラーかと思いきや、友情や人生の意義にまでテーマを昇華させてしまう力量には感服。ああ、作者はきっとここが描きたかったんだな。良かった、若かろうとなんだろうと根本は一緒だ。


二篇目の「百合の火葬」もまた青年が主人公。
父親の葬儀に現れた女性とのなんとも不思議な同居生活を描いている。母親を思わせるその女性は、庭で百合を殖やし続ける。青年の親戚の女性にその花を勝手に譲り渡したことから、町ではおかしな現象が起こるようになった――。

 

このお話もまた結末が想起しやすいんだな。しかし、表題作と違ってこちらは恐怖の対象がなまめかしい女性と美しい花。だからこそ妖艶で、恐ろしい雰囲気を醸し出しているかもしれない。蟹みたいに喋ったら喋ったでコワイんだけど、無機質でわからなすぎるのもまた別の恐怖を感じる。この対比が狙ったものじゃないとしてもなかなか才能を感じさせる。



正直、文章は読みやすくはないし、人物が発する思考やセリフなどに疑問を感じることも時々あり、その度に読むリズムを崩された。どちらもそれを補ってあまりあるよく出来た作品だとは思うが、これ以上の作品を描けるかな?というのがとりあえずの疑問。追いかける気にはなっていない。