すべてが猫になる

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騙し絵の檻/The Stalking Horse (ねこ3.5匹)

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ジル・マゴーン著。創元推理文庫

「……被告に終身刑を命じる。最低でも十五年間の懲役は……」無実だとの叫びもむなしく、ビル・ホルトは冷酷な殺人犯として投獄された。十六年後、仮釈放された彼は、真犯人を捜し始める。自分を罠に嵌めたのは誰だったのか?次々に浮かび上がる疑惑と仮説。そして、終幕で明らかにされる驚愕の真相。現代本格ミステリの旗手が、底知れぬ実力を世に知らしめた衝撃の出世作。(裏表紙引用)


初めて読む作家さんです。帯、解説、その他大絶賛の文字が踊り、期待も膨らもうってもの。
少しハードボイルド調の復讐劇だと思って読み始めましたが、これが意外とテンポ良く面白い。十六年前のフラッシュバックと出所後の現代をホルトの一人称で折よく挟み合い、何が起きたかの状況説明がうまくこちらに伝わって来る感じです。事件の内容だけではなく、ホルトがかつて殺したとされるアリスンの父親に「俺の無実を晴らすのに協力して欲しい」と乗り込んで行くのですから、凄いですね^^;普通門前払いでしょ。そして、彼にとっては自分を嵌めた容疑者である<グレイ・ストーン>社役員達に蔑まれながらも協力を要請します。その中にはホルトの別れた妻や彼のいとこも混じっていて、身内紛争と言った感じがしますね。

そして、新たに登場するのが新聞記者のジャン。彼女は当時から彼の無実を信じ、二人手を組んで事実を掴もうと奮起するという展開。このジャンがなかなか魅力的で、聡明な女性。感性だけで信じ込みすぎだろ、と思わないでもないですが盛り上がるので良いです。

・・と、結構楽しみながら読んでいたわけですが。
話題となった要所である、最後の数十ページ。急にアガサ・クリスティのような「一堂が皆を集めてさてと言い」という風のスタイルに!いや、元々そういう本格ミステリテイストだったのかもしれませんが、個人的にはそうは読んでいなかったので。謎解きは消去法でなかなかスリルがあります。が、今こういうの読んでもなあ、と思った事は事実^^;どんでん返し、驚愕の真相、という程ではないでしょう。テーマが冤罪なんだから。(冤罪ものにありがちな、意外な真相を2パターン想定していたくらいだもの)トリックはなかなかいい。元々の動機は平凡ながら、連続殺人に至った経緯はうまい具合に考えられているかも。その後の、物的証拠がチープなのは残念。

クリスティみたいな面白いミステリを教えて、と言われればこれはお薦めしたいけど、普通の意味でそれをする事はまずないかな^^: