綾辻行人著。講談社文庫。
大いなる謎を秘めた館、黒猫館。火災で重傷を負い、記憶を失った老人・鮎田冬馬の奇妙な依頼を受け、推理作家・鹿谷門実と河南孝明は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。深い森の中に建つその館で待ち受ける、”世界”が揺らぐような真実とは!?シリーズ屈指の大仕掛けを、読者は見破ることができるか?(裏表紙引用)
(18.9.26 新装改訂版 再読 記事修正)
館シリーズ第6弾。
シリーズ中ではかなりお気に入りの作品である。当時はあまり世間評価が高くなかった記憶があるのだが実際はどうなのだろう。
黒猫館で使用人として常駐していた鮎田老人が体験した奇妙な殺人事件をその手記で表した過去の章と、その鮎田に自分の記憶喪失と手記の真実を依頼された鹿谷&河南が事件を紐解く現在の章が交互に描かれている。今までの作品に比べると正直地味ではある。黒猫、というモチーフのせいなのか語り手が老人のせいなのかは分からない。いつまでも事件が起こらない上、被害者は館に転がり込んできた派手な若い女性なのだからワクワクは薄いかな。物語的には退屈かも。
私が評価しているのはやはりこの大技トリックで、何十年経ってもその部分だけは忘れていない。今ではたいしたトリックではないのかもしれないが、何度読んでも同じところで驚く。読みどころはその一点だけではなく、鮎田老人の秘密や殺人事件発生後の関係者の行動の謎なども鮮やかに解き明かされていて気持ちがいい。一つ、「どじすん」だけは肩すかしだったかな?