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姑獲鳥の夏  (ねこ4.5匹)

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京極夏彦著。講談社文庫。

この世には不思議なことなど何もないのだよ――古本屋にして陰陽師(おんみょうじ)が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第1弾。東京・雑司ヶ谷(ぞうしがや)の医院に奇怪な噂が流れる。娘は20箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津(えのきづ)らの推理を超え噂は意外な結末へ。(裏表紙引用)
21.7.30再再読書き直し。
 
映画も観たことがあって、2回再読していても8割方内容覚えていないもんだな。
 
記念すべき百鬼夜行シリーズの第1弾。600ページ強の大長編だが、シリーズ中では一番薄い。それが分かっているので長さを感じなかった。もちろん面白いのもあるが。
 
蝉の声が聞こえてきそうなほど暑さの伝わる真夏の話である。語り手の関口君が汗を拭き吹き眩暈坂を上るオープニングが印象的。その後延々と続く京極堂の禅問答のような脳科学、心理学講義。これがまた不思議とスルスル読めてしまうのである。初読時にどう思ったかは忘れた。ウンチクの多さよりも、怪奇よりだと思い込んでいたのが意外とちゃんとしたミステリーだったことに驚いた記憶がある。オカルト、信仰要素はあくまで物語やキャラクターの色付けであった。もちろんその要素を存分に生かした作品でもあるが。
 
語り手の関口君がうつ病を患っていたという設定(今も完治しているとは言い難い)も当時は斬新だったし、ファン人気の高い榎木津ことえのさんの破天荒キャラ、本作では少し大人しめなもののインパクトは大きい。京極堂は言わずもがな。京極堂の奥さんや関口の奥さん、京極堂の妹あっちゃんなどの女性陣も魅力的だ。
 
ストーリーは、二十ヶ月間妊娠している女性とその夫の失踪事件を関口らが探っていくものである。赤子殺し事件やその時代ならではの怪異の噂、謎の研究などが絡み合い事件は複雑な様相を呈していく。もっとも京極堂の手にかかれば、事は単純だったかもしれないが。妊娠の真相にも驚愕したが、姉妹や一族の呪われた過去(現在)、男たちの狂った人生。陰鬱な展開であるが非常に映像的でドラマティック。ミステリーとしてもドラマとしても、実は一番の傑作がこれなのではないか。そして関口君が語り手であることが生きる作品。ううん、こんな凄い作品、何度読んでもうまい感想は書けない。