すべてが猫になる

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27000冊ガーデン  (ねこ3.8匹)

大崎梢著。双葉社

星川駒子は県立高校の図書館に勤める学校司書だ。たまたま居合わせた出入りの書店員・針谷敬斗と共に、生徒が巻き込まれた事件の解決に一役買う。 そんな二人のもとには、ディスプレイ荒らしや小口ずらり事件など、図書館や本にまつわる謎が次々と持ち込まれる!? 学校図書館を舞台にすべての本好きに贈る、心あたたまるミステリー。(紹介文引用)
 
大崎さんの新刊。大崎さんの本を全て読んでいるわけではないのだけど、本にまつわるテーマであればついつい読んでしまう。今作は高校の図書室司書・星川駒子をヒロインとした学校内日常ミステリー連作集。
 
「放課後リーディング」
人を殺したかもしれない――男子生徒から持ち込まれたやっかいな相談ごと。出入りの書店員・針谷と共に、男子生徒が本を読むために入り込んだ廃工場で起きた転落死事件を調べるが――。
町の様々なところで本を読む高校生っていいねえ。もし見かけたら温かい目で見守ってしまうな。不法侵入はダメだけど。自分には関係ないと無視を決め込むことが果たして生徒にとって最上なのかどうか、駒子だけではなく色々な大人が心配しているのが良かった。
 
「過去と今と密室と」
司書が集まる会合で、知り合いの司書から聞いた他校の不思議な事件。図書室の展示が全て荒らされ、現場は密室状態。さらにそこは針谷の出身校で、10年前にも似たような事件があったという…。棚の本を全て裏向けて並べられる、って怖すぎるな。本って重いし手は切れるしホコリもあるし大変よ。人は年月を経て変われるということと、1つの物が世代を越えてそこにある、っていうのもミステリアスだった。
 
「せいしょる せいしょられる」
新任教師の様子がおかしい、急に慌てた声で欠勤するという電話があった、と副校長に相談された駒子。進学校の方針は間違っているとは思わないが、情操教育も大事よね。「せいしょる」の意味はちょっと無理がある気がしたけれど、誰かの意志があって意味が変わるという展開にはグっときた。悪人も年月が経てば淘汰される。
 
「クリスティにあらず」
校内で起きた3つの紛失事件。傍らに本が置かれているということから、「ABC殺人事件」みたいだ!とはしゃいでやらかしてしまった男子生徒が登場する。かつての教え子(司書でもこう言うのかな?)が大工となって再会。こういうのって教職の醍醐味なんだろうなー。
 
「空を見上げて」
死んだ祖母がある本を読んで作っていたという「春雨づくし」の料理が載っている本を探している――。ある女生徒の頼みでその本を探すことになった駒子。針谷や色んな生徒を巻き込んで、虐待されている不登校生徒のために一致団結する姿が感動的。
 
以上。
ほのぼのしているだけではなく、辛い現実や心に傷を作った過去などそれぞれの事情を描きつつ、自分がそうであったように本が救いであればと奮闘する駒子たちに好感を持った。自分のような、人殺しの犯人あてやトリックが大好物という本読みにはこういう「感動、泣ける、心に染みる、人生を教わる」みたいな言葉が耳に痛かったりするのだが…。そういうものを読まないわけじゃないし感動することもあるけれどね。1冊の本を繰り返し読んでお気に入りの台詞とか人生の指針になった言葉とかを覚えていてそれを他人に熱く語る、みたいな人々とはまた自分は違うんだなと思ったりする。
あ、いや、この本はとても良かったよ。