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可燃物  (ねこ4匹)

米澤穂信著。文藝春秋

余計なことは喋らない。上司から疎まれる。部下にもよい上司とは思われていない。しかし、捜査能力は卓越している。葛警部だけに見えている世界がある。 群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。連続放火事件の“見えざる共通項”を探り出す表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。(紹介文引用)
 
ホノブの新刊はとっても硬質な刑事モノでの新シリーズ。群馬県警捜査一課の葛警部が解決した難事件が5編収録されている。まずは各話の感想から。
 
「崖の下」
スキー遭難事故により、崖の下に転落した2人の男性。1人は刺殺されており、犯人は搬送され助かったもう1人の男とみられる。殺害さるに充分な動機も機会も判明するが、肝心の凶器だけが見つからない――。
こんな恐ろしい凶器見たことない、執念を感じる。
 
「ねむけ」
強盗致傷事件の容疑者が交通事故で重傷を負った。午前2時頃の事故だったにも関わらず、容疑者側の信号が赤だったと言う証言者が4人も現れたが――。
普通のミステリだとこの4人にミッシングリンクがあって容疑者に恨みがあって、、という展開になると思うのだが、そうはならない意外な真相。タイトルにネタバレ感があるが。。
 
「命の恩」
景勝地で初心者でも気軽に立ち入ることが出来る人気のキャンプ場。草むらから男性の右上腕が発見され、のちにほとんどの部位も発見される。すぐに容疑者が浮かびあがったが、遺体をバラバラにした理由やすぐに見つかる土地に遺棄した理由が分からず――。
壮絶な真相で、双方の苦しみは計り知れない。恩への感謝はしなければいけないと思うが、ある人物の考え方は極端であまり同意できなかった。そんなつもりで人は人を助けないと思うけど。
 
「可燃物」
生ゴミを狙った連続放火事件。容疑者は複数浮かび上がるが、決め手がないうちに犯行が止まってしまう。犯人の目的や動機は何か。
警察としては次の放火が起きなければ逮捕が出来ないというのがなんとも。なかなか常人には理解しがたい想像のその先を行った動機だが、犯人の抱え続けた心の闇を思うとやりきれない。
 
「本物か」
ファミリーレストランで起きた人質籠城事件。犯人とみられる男には前科があり、6歳の息子を連れていた。人質となったのは店長と店員の女性とみられるが――。
アレルギーは確かに軽く扱ってはいけない問題だが、それとキレるは別問題だよなあなんてことを思いながら読んでいると、真相が二転三転する。ここで起きたどのトラブルも現実にありそうで身が引き締まる思い。
 
以上。
さすがのホノブという感じで、どの作品もひと味もふた味も違う読み応え。ミステリ的なレベルも高く、ふざけた態度が一切ない真面目でハードな刑事小説。葛警部の優秀さも勤勉で切れ味鋭い視点に重点が置かれていて、「キャラ立ち」も抑えられている。これは書こうと思えば書けるのにあえて抑えているのだろう。個人的にはもっと読みやすいキャラもの小説のほうが好きだが、これはこれで。最近硬質系は脳みそがしんどいのよ。。