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シャイニング/The Shining  (ねこ4.5匹)


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スティーヴン・キング著。深町眞理子訳。文春文庫。

《景観荘》ホテルはコロラド山中にあり、世界で最も美しいたたずまいをもつリゾート・ホテルのひとつだが、冬季には零下25度の酷寒と積雪に閉ざされ、外界から完全に隔離される。そのホテルに一冬の管理人として住みこんだ、作家とその妻と5歳の少年。が、そこには、ひそかに爪をとぐ何かがいて、そのときを待ち受けるのだ!(上巻裏表紙引用)
 
再読。
 
キングの初期の中でも特に好きなほうの作品で、映画版は3度ほど鑑賞。キングが認めていないという映画版との比較も加えて後々感想を。
 
主人公は元教師のジャック・トランス。アルコール中毒による暴力性により生徒とトラブルを起こしたり、息子ダニーの腕を折るなどかなり精神に闇を抱えた人物だ。妻のウェンディはそんなジャックとの関係に不安を抱きながらも、最愛の息子を守るために夫婦関係の再建を願っている。息子ダニーには生まれつき不思議な「かがやき」という能力があり、他人の考えが読めたり空想の友人トニーの力を借りて過去の空間に思考を飛ばしたり、幽霊が見えたり思念を飛ばすこともできる。ウェンディが焼きもちを焼くほどのパパっ子でもある。ジャックはもとアル中仲間?の友人に紹介されたホテルの管理人の仕事を受け、妻子と共に<オーバールックホテル>に移住するのだが徐々に精神が蝕んでゆき…。
 
キングによると、映画版のジャックは「最初から一貫して冷たい人物」であることが挙げられる。原作のジャックには温かみがあると。うーん、そうだろうか?個人的な感想だが、ジャックの狂気にはもともとその素質があるように見えた。ホテルに潜む邪気がジャックにとり憑きジャックの人生が崩壊していく物語なのだが、自分にはアルコール中毒が完治していないように見えたし、果たしてこの狂気は本当にホテルの邪気が原因なのだろうか?という印象を持った。いや、あくまで私の感触なので「いやいやジャックにはもともと温かみがある!」と思う方はすいませんお許しを。とはいえ、だからこそこの作品の怖さをひしひしと感じたということなのだが。幽霊よりも、人間の狂気の方が怖いと思うタイプなので。
 
さらにこの作品の恐怖やリアルさを高めているのは、ウェンディのジャックを信用しきれていない怯えと、ダニーの夫婦間や大人の複雑な心理を理解していつつも、子どもならではの疑問や混乱を共存している危うさだろうと思う。暴力をふるう自分より強い存在の怖さ、信じよう、信じたいと思ったその一瞬先にまた裏切られる絶望など、ウェンディに寄り添った読み方をすることでその恐怖感を肌でひしひしと感じられる。こういう読み方が正解かは分からないが、再読によって初読とはまた違う角度からの恐怖を体験できたと思う。映画版ではジャックや幽霊の恐怖のみが突出していたと思うので。
 
あややこしいことはともかく、ひたすら面白かった。初期キングの最高峰だと思う。