すべてが猫になる

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夜の道標  (ねこ4匹)

芦沢央著。中央公論新社

あの手の指す方へ行けば間違いないと思っていた―― 1996年、横浜市内で塾の経営者が殺害された。早々に被害者の元教え子が被疑者として捜査線上に浮かぶが、事件発生から2年経った今も、被疑者の足取りはつかめていない。 殺人犯を匿う女、窓際に追いやられながら捜査を続ける刑事、そして、父親から虐待を受け、半地下で暮らす殺人犯から小さな窓越しに食糧をもらって生き延びる少年。 それぞれに守りたいものが絡み合い、事態は思いもよらぬ展開を見せていく――。 『火のないところに煙は』『汚れた手をそこで拭かない』の著者による、慟哭の長篇ミステリー。(紹介文引用)
 
芦沢さんの最新刊かな?芦沢作品にはちょこちょこ読みこぼしがあるのだけれど、べるさんのところで本書が熱く紹介されていて強く興味を持ったのでこちらを優先した。
 
バスケの才能があるも父親に当たり屋をさせられている少年波留、波留の友人で同じバスケ部の桜介、自宅の地下室で殺人犯を匿う一人暮らしの中年女性豊子、恩師を殺害し逃亡中の阿久津、意に染まない部署でくすぶる2人の刑事――。それぞれが1つの殺人事件と繋がり、やがて1つの終結まで展開する。そこにあるのは破滅か希望か。
 
虐待少年の章がなんとも息苦しくて可哀想で……読むのをためらうぐらいキツかった。飢えをしのぐために関わったある人物との関係も、少年の心の空白を埋めてくれる存在に変化していく…。いけないことなのに、他に助けるすべを持たない。犯罪者を匿い続ける豊子もやっていることは完全に犯罪なのだが、この年齢、境遇の豊子の心情を思うと馬鹿だと一刀両断する気にはなれないというか。それぞれの登場人物に背負うべき過去や白黒つけられない状況があり、胸苦しかった。何より、阿久津が恩師を殺害するに至った動機、今では考えられないような悪法が明るみになることで衝撃を受けた。これまで読んできた作品では扱われていなかった題材であるし、知らなかった自分を恥じた。
 
知ろうとしなければ知ることのできない、暗闇の中で悲鳴をあげている人々がいる。現在あまり話題になっていないようだが、世の中に一石を投じる秀作だと思う。