すべてが猫になる

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ついでにジェントルメン  (ねこ3.6匹)

柚木麻子著。文藝春秋

分かるし、刺さるし、救われる――自由になれる7つの物語。 編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性……などなど、なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。(紹介文引用)
 
ジェントルメンをテーマとした柚木さんの非連作短篇集。闘う女性たちの姿が瑞々しく描き出されていてまあまあ面白かったかな。
 
「Come Come Kan!」
文藝春秋社のサロンで毎回編集者から痛烈なボツを喰らう新人作家が、社内に設置されてある菊池寛像の声を聞く話。菊池寛については名前ぐらいしか知らないんだけど(恥)SNSアカウントを作ったり考え方が現代的だったりと色々笑えた。ラストの踊るシーンがいまいちピンと来なかったけど、まあ作家の悩みが発散され前向きになる成長モノということではなかなか。
 
「渚ホテルで会いましょう」
90年代初期に流行った不倫ドラマの原作作家が舞台になったホテルに久々にやってきたら雰囲気から何から全然違ってしまっていてというお話。ちょっと「バブル期の初老おじさん」をバカにしすぎな気もするけど^^;子育てや恋愛の現代的な考え方、価値観を現代の二児の父からきちんと勉強するところは良かった。
 
「勇者タケルと魔法の国のプリンセス」
なんじゃこりゃ。。
女性専用車両に乗り込み、言いたい放題暴論を喚きながら動画を撮影していたらゲームの世界へスリップしてしまうというお話。展開のわけわからなさよりも主人公が不愉快すぎて感想はノーコメントって感じ。似たような迷惑系ユーチューバーが現実にも現れそうでぞっとする。
 
「エルゴと不倫鮨」
こじゃれた高級イタリアン+鮨店には毎晩不倫したい男たちが女性を連れてやってくる。男が落としたい女性にウンチクを垂れ流しているところへ、やつれ切った赤ちゃん連れの母親がやって来て居座ってしまう。ちょっと想像したら、男どもはざまあみろって感じかも。しかし、こんなガサツな母親が実はいっぱしの食通で男どももシェフもタジタジ、、なんてことあるんかいなー。。。魅力的で面白い女性なんだとしても、私だったら高級店で大声でわめき散らすってだけで恥ずかしくて一緒にはいられないけどな。。
 
「立っている者は舅でも使え」
離婚し実家へ帰った女性のところへ、元舅が乗り込んできた。連れ戻されるのかと思いきや、実は舅は息子に嫌気が差し、元息子の嫁のところに置いて欲しいと言い出した――。元々「使えない」男性だった舅が、後がないために様々な家事を習得していくのが良かった。娘の面倒も見てくれるし。最初、夫がどういうダメ男だったのか詳しい描写もないし言葉も汚いしで女性に嫌悪感しかなかったのだけど。
 
「あしみじおじさん」
友人から整形を勧められた女子大生が美容クリニックで見つけた世界童話全集。女性が自分は変わることなく、金持ちの援助を受け幸せになるという定番の展開に憧れ、現実でもそういう出会いを求めてしまうが――。このお話はとにかく何が言いたいのか分からなかった。名作を読んで、自分も大金持ちに見初められて一生援助されたい、なんて頭のおかしい発想を実行しちゃう女子大生、どうやって共感を得られるというのか。。
 
「アパート一階はカフェー」
これは実在していたアパートなのかな?1931年に存在した、働く独身女性のためだけのアパートと女性が1人で寛げるカフェー。菊池寛がまた登場(笑)。この作品集はとにかく出てくる男がしょうもなく描かれているけれど、菊池寛だけはカッコ良くて粋なんだよね。面白い。女性が働いて活躍しようとすると、邪魔してくる男性って今でもいるよねえ。
 
以上。
基本的には「ジェントルメン」には程通い男性ばかり出てきた気がする。だから「ついでに」なのかな?「愛すべき」って書いてる方いたけど、え、どこを?って感じだし。とにかく昔の女性の生きづらさは伝わってきた。息をするように女性を見下してくる男性って性の対象としてしか女性を見ないもんだねえ。だけども、出てくる女性もちょっと、、って思う人が多かった。落としどころが分からなかったり納得いかない終わり方だったり、そういうのが多かったな。ちょっと最近の柚木作品苦手かも。