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ブレイクニュース  (ねこ3.8匹)

薬丸岳著。集英社

ユーチューブで人気のチャンネル『野依美鈴のブレイクニュース』。児童虐待、8050問題、冤罪事件、パパ活の実情などを独自に取材し配信。マスコミの真似事と揶揄され、誹謗中傷も多く、中には訴えられてもおかしくない過激でリスキーな動画もある。それでも野依美鈴の魅力的な風貌なども相まって、番組は視聴回数が1千万回を超えることも少なくない。年齢、経歴も不詳で、自称ジャーナリストを名乗る彼女の正体を探るべく、週刊誌記者の真柄は情報を収集し始める。すると以外な過去が見えてきて……。 デジタル社会の現代へ警鐘を鳴らす、SNS時代の新な社会派小説。(紹介文引用)
 
ずっと気になっていた薬丸さんの長篇、やっと読めた。分厚いので少し気後れしたが、読み始めたら一気。SNS時代の社会問題を表側にいない人間から切り取るという内容で、着眼点が素晴らしい。
 
ユーチューブで時事ニュースを取り扱う<野依美鈴のブレイクニュース>。児童虐待、8050問題、冤罪事件、パパ活ヘイトスピーチパワハラ・セクハラ問題、医療過誤。当事者や被害者、加害者までもチャンネルに登場させ、中にはモザイクや音消しなしで放送する過激な内容。人気チャンネルゆえに賛否両論入り混じり、倫理的にはギリギリかというところを攻めている。パワハラヘイトスピーチの章は特に加害者の態度は腹立たしい限りで、だいたいが予想されるような、自身の境遇に対する怨恨を他者のせいにして開きなおるような人物が登場する。または、人の気持ちを考えられないような幼稚な人々だろう。中には、被害者と言い切っていいのかどうか悩ましい人物もいる。
 
ちょっと引っかかったところがあるとすれば、薬丸さんご自身が美鈴のように実際の加害者や被害者に取材したわけもないので、想像やネットを参考にして描かれた男性の理想とする被害者像だと感じる人物もいるにはいた。美鈴が胸の谷間を見せて出演したり、何かを1人で成し遂げる女性のバックには必ず男性のブレーンがいるのだ、という設定もあまり読んでいて愉快なものではない。美鈴がブレイクニュースを続ける動機、過去を読んで多少溜飲が下がったが、もう少し先の方まで描かれていれば見方も変わっただろうか。最終章まではとても面白かったので、それだけにどうも煮えきれなさが残った。