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物語のおわり  (ねこ4匹)

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病の宣告、就職内定後の不安、子どもの反発…様々な悩みを抱え、彼らは北海道へひとり旅をする。その旅の途中で手渡された紙の束、それは「空の彼方」という結末の書かれていない小説だった。そして本当の結末とは。あなたの「今」を動かす、力強い物語。(裏表紙引用)

 


すっかり自分の中では信頼出来る作家さんの1人となった湊さん。確実に化けたよね。「告白」みたいな作品ばかり出していた時にはこうなるとは思っていなかった。面白ければ白湊さんでも黒湊さんでもどっちでもいいやってレベル。

 

本書はバトン方式の連作短篇集。ある田舎町に住む、小説家になることを夢見てしまったパン屋の一人娘がのちの婚約者と出会い、夢を取るか目の前のささやかな幸せを掴むか、人生の岐路に立たされる。――という完結していない「小説」の続きをめぐって、様々な人々が自分の人生と物語を重ね合わせストーリーを完成させるという変わった作りになっている。

 

キャラクターの境遇、性格によって終わらせ方が違うし、こんなにたくさんのパターンがあるものなのだなと感心。自転車やバイクの旅の魅力がこういうところにもあるのかと発見したり、北海道の魅力を再確認したり。

 

出てくる人々の心理がとてもリアルだし、「有り得るかもしれない」身近な境遇なので共感しやすい。嫉妬心や出世欲、独占願望、どれも人間の持つ醜い一面だが、家族を思う心や自然を愛する気持ちなど、人生の希望になるような描写も目立つ。私は自分が共感できる文章も好きだし、その文章によって知らない気持ちを呼び起こしてくれるものが好きだ。この本のように。