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望郷  (ねこ3.7匹)

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湊かなえ著。文春文庫。

 

暗い海に青く輝いた星のような光。母と二人で暮らす幼い私の前に現れて世話を焼いてくれた“おっさん”が海に出現させた不思議な光。そして今、私は彼の心の中にあった秘密を知る…日本推理作家協会賞受賞作「海の星」他、島に生まれた人たちの島への愛と憎しみが生む謎を、名手が万感の思いを込めて描く。(裏表紙引用)

 


湊さんの文庫新刊、「白綱島市」に住む人々を様々な角度で描いた6編収録の短篇集。

 

「みかんの花」
母を自分に押し付けて東京へ出て行った姉が作家として大成功し帰って来た――。姉妹の確執や娘の都会への憧れという要素だけで充分物語になっていたと思う。事件と結びついてビックリ。

 

「海の星」
ずば抜けて出来がイイ。失踪した夫を待ち続ける妻とその息子。家計を助けるために始めた釣りが、見知らぬ親切な「おっさん」との出会いとなり――。田舎のいいところが全面に出た作品だと思った。おっさんの不器用さとすれ違いに泣ける。

 

「夢の国」
最初の2編を読んで、これは湊さん大化けしたかと思ったが――。閉塞的な田舎の家系問題や家に縛られた女の重苦しさが読んでて辛すぎた。イライラするんだよね、何かを言い訳にして何もせずそれを自分以外の人間にも適用しようとするこういう人。自分で自分を不幸にしてるよなあ。

 

「雲の糸」
不愉快さで言うと天井レベルだった。家庭の事情で苛められていた青年が都会で歌手として成功し凱旋するお話。よくもまあどいつもこいつも調子のいいことをペラペラと。最後に明かされる母の秘密とそれを知った青年の心の葛藤そのすべてがやりきれない。

 

「石の十字架」
水害に遭った主婦が娘と共に自分の過去を振り返るお話。クラスで浮いていた少女と親友になったエピソードがそれぞれリアルで良かった。大人になって、今でもそううまくはいかない全てのことも含めて。

 

「光の航路」
田舎ならいじめはないだろうとタカをくくって白綱島の教員になった青年。だが、現実は甘かった――。青年の亡くなった父も教師だったが、ほとんど青年には記憶がない。父を恩師だと言う青年が自身の辛い経験を告白する。舟を人間に例える話は胸に響いた。当事者にとってはそんな甘い問題ではないと思うけどね。


以上。作風を転換して大正解だと思う。正直ここまで力のある作家さんになるとは思っていなかった。個人的には、好きな作品とそうでない作品にキッパリ分かれてしまったのだが。3、4編目は本を放り投げたくなるぐらい不愉快だったもので。「わかるわかる」と共感出来るイヤミスと違い、自分と性格的に共通点のないイライラするお話は好きではないのよ。