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パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない/Billy-Ze-Kick  (ねこ4.2匹)

ジャン・ヴォートラン著。草思社

 

パリ郊外の団地で、結婚式をあげたばかりの花嫁が射殺される。純白のウエディングドレスの胸を真っ赤に染めた花嫁が握りしめていたのは一枚の紙切れ。そこにはこう書かれてあった。「ネエちゃん、おまえの命はもらったぜ!」。シャポー刑事はその下に記された署名を見て愕然とする。ビリー・ズ・キック。それは彼が娘のために作った<おはなし>の主人公ではないか。続けてまた一人、女性が殺される。そして死体のそばにはビリー・ズ・キックの文字が……。スーパー刑事を夢見るシャポー、売春をするその妻、覗き魔の少女、精神分裂病の元教師。息のつまるような団地生活を呪う住人たちは、動機なき連続殺人に興奮するが、やがて事件は驚くべき展開を見せはじめ、衝撃的な結末へ向かって突き進んでゆく。


フランスの<ロマンノワール>だって。草思社って出版社も初めて見た。はじめまして~。
初めて読む作家さんなのだけど(完全なるタイトル借り)、元映画監督なんだって。かなりその筋で成功した人みたいだけど、ある日急に小説家に転身したらしい。うーんこういう人スキだわ。

 

で、タイトルが何度見ても「ビリー・ザ・キッド」と読み違えてしまうのは私だけではあるまい。それもそのはず、そこからもじってつけた名前のようですな。アメリカのノワール系ではかなり痛い目に遭って来たので内心びくびくしていたら、のっけから語り手は精神分裂病の青年。元教師で、生徒にはかなり人望が篤かったもよう。今でも犯罪のために(!)元生徒の少年少女を使いっぱしりにしている。この人物がメインの語り手かと思っていたら、コロコロコロコロ章ごとに語り手が変わるのがこの小説の特徴。みんな団地の住人で、老若男女色々と近所付き合いもある様子。クセモノばっかりだなあ。売春婦やダンサー、刑事ぐらいは想像の範疇だったけど、刑事の7歳の娘(ジュリー)がこれまたすごい。彼女には殺人願望があって、さらに大人の下半身のホニャララを見るのが趣味という^^;しかも男女問わずね。

 

タイトルが物語に直接関係ないのかと想像していたけど、まさにこの通りの内容だった。「ジュリーのパパ=刑事」が、ビリー・ズ・キックという殺人者を追いかけるお話。しかし、犯人は誰だ、事件の行方は!?というありきたりのミステリーという次元で本書を語れないのが面白いところ。文体が軽くてオシャレだし、こういう内容なのになぜだかユーモアまで感じさせる。悲壮感がないっていうのかな。人物も事件もどん底なんだけどね^^;こういうタッチの小説があるのかとまた新しい発見。ページ数も多くないし、翻訳ものが苦手な方でも取り掛かりやすいと思うので良いのではないかな。タフな人限定だけど^^;