すべてが猫になる

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泪坂  (ねこ3.7匹)

 

江戸指物師・橋上清次は、嫁ぐ娘のために姫鏡台を造っていた。ほぼ完成しているそれが仕上げられることはない。娘は手の届かないところへ行ってしまったのだから……。思い出に浸る日々を送る彼の心の糧は、泪坂の住人たちとの交流だった。失意にくれながらも、清次はある決意を心に秘めていた――。父と娘の深い絆が胸を打つ、優しく切ない「奇蹟の物語」。



おお!これはなかなか良かったのでは!200ページもない薄さ、105円という理由で買ってみたけど、、これは得した感いっぱい。


やっと授かった、蝶よ花よと育てた一人娘の結婚。相手も好青年で、感無量の父親だったけど、娘の結婚式を数ヶ月に控えてその夢が叶わなくなってしまったというお話。隣人の寺田夫妻も息子二人の確執に悩んでいたりして、憂い漂う中年男たちの悲哀が雰囲気出てる。よく開催される「町内会」という名のカラオケ大会があるのだけど、彼らの会話が謎めいているんだよね。最初からなんとなく隠しごとが多いのに、読者がそれをあまり意識しすぎないように語られ続けているのがうまいと思う。

 

ホラーとミステリーの融合というのか、仕掛けにも驚かされた。伏線が堂々としていたのでかえってスルーしていた自分にもうっかり。ホラーというほどナンも怖くないし、ちょっとした怪奇談として読んだらきっと楽しい。最後はしんみりあたたかい気持ちになれるし、氏の作品群の中では割と異色でどなたにも読みやすいかも。