すべてが猫になる

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美奈の殺人  (ねこ3.7匹)

太田忠司著。講談社文庫。

 

こんがり焼けた肌、すらりと伸びた脚と長い髪。夕暮れの海辺で出会った美少女の名は美奈。彼女との出会いが、僕の17歳の夏を狂わせていく。二つの殺人そして奇妙な誘拐劇――得体の知れぬ陰謀に巻き込まれた僕を待っていた事件の真相とは?期待の俊英が放つ、青春の危険な香りに満ちた”愛”のミステリー!(裏表紙引用)

 

「殺人三部作」の第二作目。
一作目の「僕の殺人」の内容は例によって例のごとく全く覚えていないのだが、ストーリーも登場人物も全く違う内容なのでどこから読んでも問題なし。太田さんと言えば、狩野俊介シリーズといい甘栗シリーズといい新宿少年探偵団といい、そしてミステリーランドといい、個人的にはYAのイメージしかない。
どれも自分お気に入りのシリーズだが、本書に関しては主人公が10代であるにも関わらず、異色に感じた。無意味に人を殺すことを考えたり、生まれて来た理由に思い悩んだり、いずれもすっぱい青春の香り漂う内容なのだが、なぜだろう?主人公がハードボイルド口調なのは「カッコつけたい年代」だからいいとしても。

 

そんな違和感を抱きつつ、80~90年代の古臭さに読んでいて顔が赤くなるのを留めつつ、しかも自分は少年だったことはないから「あの頃を思い出して胸が。。」なんてこともなく。以上を評価の外に置くならば、ミステリーとしてはなかなか。人間関係が入り乱れ、動機や人物の性格が犯罪ものとして機能すると考えれば終盤の愛憎劇と真相の解明には非常に心を打った。複雑すぎる難はあるが、こういった青春もので謎が凝縮したミステリーを読めるとは思っていなかった自分がいる。どこにも共感の置き所がなかった作品がジャンルに助けられた好例だろう。