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作者不詳 ミステリ作家の読む本  (ねこ4匹)

三津田信三著。講談社文庫。

杏羅町――。地方都市の片隅に広がる妖しき空間に迷い込んだ三津田は、そこで古書店<古本堂>を見いだす。ある日、親友の飛鳥信一郎を伴って店を訪れた彼は、奇怪な同人誌『迷宮草子』を入手する。その本には「霧の館」を初め、七編の不思議な作品が収録されていた。”作家三部作”第二長編、遂に降臨!(上巻裏表紙引用)


これは多分10年くらい前の作品だと思うのじゃが、ここ数年の刀城言耶シリーズの人気を受けてかまさかの文庫化。と言っても別シリーズなのだが、表紙イラストが刀城もの風なので手に取られやすいかも。
という陰に潜んだ作品であるにもかかわらず、コアなファンからは高い評価を受けている模様。期待いっぱいで読んでしまった。

作品構成はちょっとややこしい。最近の読者には、連作長編と言うと話が早いだろうか?基本的には三津田信三なる主人公が語り手となり、親友である飛鳥信一郎(探偵役)と共に手に入れた同人誌に収録されているミステリ作品の謎をそれぞれ解いていく。この同人誌自体が怪異的で胡散臭く、本書を読んだ人間はその作品内容と同じ実体験をしてしまうのだ。自身に降りかからんとする恐ろしい運命から逃れるべく、また危険な古書の誘惑に勝て切れず、彼らは自ら怪異に飛び込んでゆく。

こういう構成自体も面白くワクワクするが、怪異と本格ミステリの融合というものをこの時点で既に物にしていた作者に対し尊敬の念が湧く。もちろん伝統的古典的な怪談の文学性やそこから滲み出る恐怖というものには敵わないが、設定が<若き作家志望者の作品>という前提のもと作中作として収めているから
高尚さよりも身近な背後にある恐怖心を煽る分には上だろう。それぞれの短編+解決も水準並みに面白く、怪談好きなら退屈しない秀作ぞろいだ。

しかし<メタミステリ>に挑んだ以上、こういう試みが斬新でなくなりつつあるのが弱点か。大長編を締めるに当たる大元の解決部分に既視感を感じないミステリ読者は既に居ないだろう。そのあたりを推奨出来ない以上読者を激しく選ぶ作品だとは思うが、怪談やミステリ的薀蓄が好物だという人には強くお薦めしたい。

(826P/読書所要時間5:30)